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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第五章

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30.村長はほくそ笑む

「あぁ、なんて素晴らしいのかしら」


 クラウディアとキールの姿を思いだし、熱のこもった声が出る。

 豊かさを象徴するような緩やかなクセのある長い黒髪には艶があり、青い瞳に宿る煌めきは泉の水面を思い起こさせた。

 成熟しきっていなくとも性欲を刺激する体は、正に村が求めているものだ。

 胸の膨らみから腰のくびれ。

 丸いお尻にしなやかに伸びる足。細い指先に至るまで、美の概念を具現化したようだった。

 クラウディアを連れて来たのは完全なミスだけれど、美しい彼女を前にしたら、これも天の導きのように感じられる。


「きっと村人に迎え入れろということだわ」


 最初は懐疑的でも、儀式さえしてしまえば考えは変わる。

 公爵令嬢とて抗う術はないのだ。

 従順になれば村が罪に問われても彼女自身が庇ってくれるだろう。

 むしろ彼女の好意的な証言があれば、罪にすら問えない。


(私なしでは生きられない体になるのよ)


 クラウディアが堕ちる瞬間を想像すると、ふふふ、と笑いが漏れる。

 キールのほうも将来が楽しみだった。

 優しい顔付きに、緑色の瞳には明確な意思があった。

 まだ子どもであろう彼は、儀式には参加できない。

 今後の生活であの澄んだ瞳がどう濁っていくのか、考えるだけで胸がドキドキする。

 二人が来たのは村にとって大きな収穫だ。

 とはいえ。

 ナイジェル枢機卿の言葉を間違って覚えていた青年の顔が浮かぶ。


「そろそろあの子は処分すべきかしら」


 若い男手は貴重だ。

 だから今までは大目に見ていた。


「夜も精力的で、可愛いところもあるんだけど」


 甘やかしてばかりいれば村の風紀にも支障が出る。

 せめてもの手向けに、クラウディアの儀式が終わるのを待つことにした。


「最期まで役に立ってもらわないとね」


 目の前にある大きな瓶を我が子のように撫でる。


「安心して。尊い犠牲を無駄にはしないわ」


 棚に並んだ他の瓶も慈しみを込めて眺めた。

 彼らのおかげで薬の効能が向上し、村人の幸せが保たれているのだ。


「よしよし、新しい子を増やしましょうね~」


 抱えた瓶をぽんぽんとあやす。

 しかし一人処分するなら、新しいのを用意しないといけない。

 子どもは一瞬で成長するものではないのだから。


(枢機卿が国外へ出てしまったのが痛手だわ)


 彼は自身の情報網から攫いやすい人や場所、また新しい村を造るときは薬が製造しやすい場所を教えてくれていた。

 村がよそ者に介入されることなく存続できてきたのは彼のおかげだった。

 ナイジェル枢機卿の提案で被験者を増やした結果、薬の効能も大きく飛躍した。

 鎮痛作用しかないと思われていた薬草は、調合の仕方によって媚薬にも洗脳薬にもなると判明したのだ。


 おかげで村は裕福になり、飢えとは無縁になった。

 村外での商売は毒に侵される危険があるが、儀式による浄化で難を逃れている。

 商売をはじめた当初は困惑していた村人たちも、今では皆がやる気に満ちていた。

 この道を示してくれたのもナイジェル枢機卿だ。

 彼へのお布施はずっと続けている。

 また外から人を呼び込むにも豊かさは欠かせなかった。


「早く返答が届かないかしら」


 クラウディアの処遇について自分の一存では決められなかった。

 関わるなと警告されていたけれど、ナイジェル枢機卿自身が彼女に興味があるとなれば、伺いを立てるのが道義だ。

 連絡には、責任を感じたルノーが行ってくれた。順調にいけば明日にでも帰って来る。

 ナイジェル枢機卿は国外にいるため、直接伺うのは無理がある。

 そのため彼は代行を用意してくれていた。

 助けが必要なときは代行へ連絡し、判断を仰ぐことになっている。


(私としては、このまま村へ迎えたいわ)


 クラウディアがいるだけで、きっと村は華やぐ。

 自分の後継者として育ててみたい気持ちもあった。

 薬の在庫を確認して部屋を出る。

 すると、調合室のほうで人の気配を感じた。

 クラウディアとキールが物珍しげに棚を眺めている。


(まだ教えを理解していないから、不思議でいっぱいなのでしょうね)


 朝早くから村も見て回っていた。

 もし逃げ道を探っているなら無駄だと教えてあげたいが、聡い彼らなら自ずと思い至るだろう。

 要所には人が配置され、見張りがいないのは礼拝堂や林など逃げ場がない場所だけだと。

 非力な女性一人と子ども一人の抵抗などたかが知れている。

 二人はまだ自分の存在に気付いていない。

 イタズラ心が湧き、そっとクラウディアの背後に立つ。


「ここで作られる薬が村の特産なのよ」


 返ってきた反応に満面の笑みが浮かんだ。

 二人揃って、目が皿のようになっていた。

 特にキールの表情があどけなく、反射的に彼を抱き締める。


(ついでに成長具合を確認しておこうかしら。もしかしたら思いのほか大人かも)


 一瞬で成長することはなくとも、いつの間にか大人になっているのが子どもだ。

 その瞬間を見逃さないために、村では子どもに共同生活をさせている。

 手を下半身へ忍ばせ、にぎにぎと握る。

 キールの顔はすぐ真っ赤に染まった。

 反応の良さに笑みが深くなるものの、大人の兆しはない。


(やっぱりまだ早いみたいね。今後を楽しみにしましょう)


 次いでクラウディアも胸に抱く。

 彼女も彼女で反応が可愛らしく、キュンキュンした。


(はぁ、今すぐにでも食べちゃいたいわ)


 腰が疼くのを感じながら、村についての理解を深めてもらう。

 二人を見送り、こちらの部屋の在庫も確認して照明を消した。

 夜は予定が決まっているので、もう礼拝堂には戻らない。

 足元を照らす用のランタンを持って階段を上がる。


「あら、誰の悪さかしら」


 来たときにはなかった枯れ葉が階段上に広がっていた。

 きっとまた子どもたちがクラウディアとキールにイタズラを仕掛けたのだろう。

 片付けてほしいところだが、掃除は明日の朝でも構わない。

 昼食前の追いかけっこを思いだして頬が緩む。

 イタズラに眉をひそめる大人も多いが、二人は楽しそうだった。

 案外、村の生活が合っているのかもしれない。


(やっぱり天のお導きだわ)


 祭壇に祈りを捧げて、ウルテアは礼拝堂をあとにした。

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