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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第五章

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29.悪役令嬢は村長と遭遇する

「下りてみる?」

「うん、折角だし! あ、ちょっとだけ待って」


 繋いでいた手を離し、キールが礼拝堂から出ていく。

 一人残され、礼拝堂に静寂が満ちた。

 心細さを覚えるのは、先ほどまで感じていた手の温もりがなくなったからか。

 知らない土地の知らない場所だからか。

 心に隙間風が吹くのを感じた。

 しかしそれも束の間のことで、すぐにキールが戻ってくる。


「お待たせ!」


 戻ったキールは、クラウディアへ先に下りるよう言い、あとに続いた。

 階段を下りきり、目の前にあるドアを開く。

 こちらも施錠されていないので、自由に見ても構わない場所なのだろう。

 昼間であっても地下は薄暗かった。

 その分、照明となるランタンが多く置かれている。


「これって……」


 目に飛び込んできた大きな作業台に驚く。

 礼拝堂には似つかわしくない薬瓶やピンセットなどの器具がところ狭しと並んでいた。

 小さな引き出しが並ぶ薬棚は、調香師であるマリリンの店にもあったものだ。

 乾燥し、茶色くなった薬草がそこかしこに置かれている。


「やっぱりこの村でも薬が作られてるんだ」


 ふんふん、とキールがくまなく観察をはじめる。


「薬の粉末を吸わないように注意してね」

「はーい。簡単に中へ入れたから、危ないものは置いてないと思うよ」


 ぼくとしては置いててほしいけど、と穏やかではない発言が続く。

 気持ちはわからないでもない。

 決定的な証拠があったほうが、公的な捜査にも役立つのだ。

 キールに倣い、クラウディアもその場にあるものをできる限り記憶する。


(すぐに手がかりが見つかったら苦労しないわね)


 調合室の入り口を背に薬棚の引き出しを一つ開け、閉じたときだった。


「ここで作られる薬が村の特産なのよ」

「っ!?」


 突然、背後から声をかけられて肩が跳ねる。

 振り返ると、藍色の長い髪をまとめた村長が、艶やかな微笑みを浮かべて立っていた。


(いつの間に来たの?)


 気配なく現れた村長にキールも目を見開く。


「あら、驚かせてしまったかしら? ごめんなさいね」


 謝罪を口にしながら、村長はキールをぎゅうっと抱き締めた。

 村長が屈んだおかげで、見事にキールの顔がシャツから露出していた谷間に沈む。


「ふごっ!?」


 何とか顔の角度を変え、呼吸を確保したキールだったがみるみるうちに茹で蛸になっていく。

 収まりが悪いのか、村長がごそごそと手を動かしていた。

 クラウディアからは死角になって状況がよくわからない。

 けれど震えるキールにただごとではない気配を察した。


「あのっ、キールが苦しそうですわ!」


 そろそろ解放してあげてください、と村長の腕に触れる。

 やっと抜け出せたキールは作業台に手をついて呼吸を整えた。


「私たちだけで楽しんでしまったわ。ほら、ディーさんも」

「えっ、いえ、わたくしは」


 結構です、という言葉は村長の胸に消えた。

 むわっとした体温に怖気立つ。

 気持ち悪さに、うっ、と喉が詰まるのを胆力で持ち直した。

 村長の背が高いのもあって、胸でむにむにと頬を押される。


「いつでも私の胸に飛び込んできてくれていいのよ」


 むにむにむに。

 コルセットとは無縁の柔らかい弾力。

 見た目通り、村長の体は出るところがしっかり出ていた。

 解放されたあと、クラウディアも作業台に手をついて呼吸を整える。


「うふふ、二人とも初心ねぇ」


 あなたの強引さに疲れただけです、とは言えない。

 機嫌を損ねても良いことはないのだから。

 改めてこの部屋について説明を受ける。


「もう察しているでしょうけれど、ここは薬の調合室よ。この作業台で調合した薬を村で使ったり、町へ出荷しているの」


 村長は乾燥した茶色い薬草を手にする。


「薬は私が管理しているけれど、調合は村人もするわ。私を含め、皆が茶色い服を着ているのはそのためでもあるの」


 使用している薬草は、乾燥させていなくても汁が茶色いのだという。


「調合の汚れが目立たないよう茶色を着だしたのがはじまりで今に至るわ」


 服装も薬からきていた。

 村の特産だというだけのことはある。


(彼女にとっては媚薬や洗脳薬もそうなのかしら)


 裏市場では薬が高値で取引されている。

 でも村の暮らしぶりから裕福さは窺えなかった。


(隠し財産がないとは言い切れないけれど)


 閉鎖的な村である。

 財産の使い道がわからなかった。


(ナイジェル枢機卿の収入源になっている可能性は高そうだわ)


 得るものがあるから、彼は村に関わっている。

 洗脳薬は重宝していそうだが、ニナに使われた形跡はなかった。

 ニナはつくり出された状況によって、命令を聞くよう追い込まれたのだ。


(洗脳薬のほうは、まだ効果が不十分なのかしら)


 もっと調べなければ。

 キールも同じ考えのようで、目が合うと頷きが返ってきた。

 手を繋いで階段を上がる。

 階段上部に広げられた枯れ葉が、カサリと音を立てた。

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