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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第五章

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25.悪役令嬢は朝を迎える

 人の動く気配で目が覚めた。

 家人が外と中を行き来しているのか、頻繁に玄関のドアが開閉している。

 熟睡できたのか頭はスッキリしていた。

 すぐ隣に温もりがあるおかげで安心できたのかもしれない。


(あのまま話しているうちに眠ってしまったのね)


 あどけない寝顔のキールに癒やされる。

 起こさないようそっと離れ、手ぐしで髪を整えているとキールももぞもぞ動き出した。


「ん、ディーさん、もう起きてたの」

「先ほどね。お水をもらってくるわ」

「一緒に行くよ」


 寝起きはどうしても喉が渇くものだ。

 まだ覚醒しきっていないのか、ふわふわな黄色い髪を揺らしながらキールは立ち上がる。

 ベレー帽を被りはしたが丸眼鏡を忘れていた。

 床に置かれていた丸眼鏡をはい、と手渡す。


「ないと困るわよ」

「んー、実は困らなかったり……」


 丸眼鏡をかけながら、キールはへへっと笑う。


「伊達なんだ」

「そうなの? すっかり騙されていたわ」

「眼鏡をしてると知的に見えるでしょ?」

「なくてもキールは知的よ」

「皆、ディーさんみたいにわかってくれたら良いのに」


 滲み出る知性に気付いてくれる人が少なくて、とキールはうそぶく。

 それでもまだ体に力が入らないようで、クラウディアはキールの手を取って部屋を出た。

 キッチンへ向かうと、ちょうど帰ってきた奥方と会う。

 窓から入る日差しの中で見る彼女は、ベージュのシャツに茶色のスカート、その上から茶色いエプロンを着けていた。


「おはようございます」

「おはよう、よく眠れたかしら? 顔を洗うのには、そこの桶とタオルを使って。今日は天気が良いから朝食は外で皆と取りましょう」


 キッチンにある作業台へ目を向ければ、水の張られた桶とタオルが置いてあった。

 奥方は暖炉にかけてあった鍋を手に、また外へ出ていく。

 木製の作業台は玄関から入って左手側の壁沿いに置かれている。

 作業台の前に立つと、目の前の窓から外の様子が窺えた。

 奥方と同じように女性が手に鍋を持って移動している。

 作業台の上には桶の他にも、キッチンツールが並べられていた。

 右手側には暖炉がある。

 昨夜は既に火が消されていたので、存在に気付かなかった。


「一軒家ってこういう間取りなのね」


 逆行前の娼婦時代は娼館で共同生活を送っていたため、一家族だけの生活は未知の領域だ。


「そうだね、玄関から入ってすぐにダイニングキッチンがあって、そこから各部屋に分かれるのが多いよ」

「水はこれを使っているのかしら?」


 作業台の横に水がめがあった。

 そこだけ床が一段下がっていて石畳が見える。


「うん、汲んできた水をここに溜めて生活に使ってるんじゃないかな。ぼくの家もそうだし。石畳の奥に排水溝があるから、使った水はそこへ流すんだ」

「なるほど、勉強になるわ」

「ディーさんに必要な知識かはわからないけど」


 キールはクラウディアが公爵令嬢であることを知っている。

 近々王太子の婚約者になることも。

 そんな高貴な人が下々の生活を知ったところで役立たないのでは、とキールの顔が語っていた。


「様々な暮らしを知ることは大切よ。そこから学ぶことも多いわ。わたくしの経験上、知識は多いに越したことがないのよ」

「確かに、知識は武器になるもんね」


 たくさんの不運に見舞われてきたキールは、その都度、持ち前の頭脳と知識で乗り越えていた。

 身に覚えがあるのか、うんうんと頷く。

 極力作業台を濡らさないよう注意しながら顔を洗う。

 髪を梳くブラシが欲しいところだけれど、見えるところにはなかった。


(このまま手ぐしで我慢するしかないかしら)


 一応あとで奥方に訊いてみようと思いながら、キールと手を繋いで玄関を出る。

 窓はあるものの家の中は影になっていたようで、日の光が眩しく感じられた。

 近くにいた人から声をかけられる。


「おはよう、良い朝だね。朝食はあそこの広場で集まって食べるよ」


 指で示された方へ視線を向けると、既に人で賑わっていた。

 昨晩見かけなかった子どもたちの姿もある。

 民家の並ぶ通りを抜けた先が広場になっていた。


 パッと辺りを見る感じ、村の世帯数は二十ほどだろうか。

 どの家も一階建てで、白い漆喰の壁に茅葺き屋根がかかっている。

 ドアも窓枠も着色されず、素材の木がそのまま活かされていた。

 だからか、壁に描かれた花の絵が際立って見える。

 白地に赤やピンク色の花が咲き乱れているのがとても可愛らしい。

 造りは一緒でも家ごとに描かれている花が違うので、明るいうちは家を間違えることはなさそうだ。

 世話になっている家の壁にはピンク色のコスモスが描かれていた。

 地面には背の低い草が緑の絨毯となって広がっている。

 ただ人が行き交うところだけは土が顔を覗かせて道を造っていた。


 広場近くにある建物だけ大きさが三倍ほど違う。

 平屋なのは他の家と同じだが、ドアも片開きではなく、両開きだった。

 そこから椅子が外へ運び出されている。

 集会所なのかな、と隣でキールが首を傾げる。

 広場へ着くと、既に机がくっつけて並べられていた。

 複数の机を合わせて長机にしている。

 コの字形に設置された長机にはベージュの布が被せられ、その上に料理と食器が置かれていく。

 村人たちの手際は良く、あっという間に人数分の椅子も並べ終わった。


 奥方に手招きされて近付けば、隣に少女の姿があった。

 長い茶髪を結ってお下げにしている。

 身長はキールと同じぐらいで、歳も近そうだ。


「紹介するわ、娘のアイラよ」

「はじめまして、アイラです」


 ダークブラウンの瞳には強い意志が感じられ、ハキハキとした声が耳に届く。

 クラウディアとキールの挨拶が終わると、アイラが席へ案内してくれた。

 村長を中心に、家族ごとに座る場所が決められているようだ。

 アイラの隣にクラウディアとキールは並んで腰を下ろした。

 全員の着席を見届けた村長が口を開く。


「天の恵みに感謝を」


 おっとりとした艶のある声が響き、村人たちもそれに倣った。

 合唱というよりは各々で呟き、食事に手を伸ばす。

 慣れていないクラウディアとキールには、奥方とアイラが皿に惣菜を盛ってくれた。

 素朴な木の皿にマッシュポテトと挽肉の炒め物、そして小麦粉を練り、薄く延ばして焼いたパンが添えられる。


 朝食が終わったあと、ヘアブラシはなかったものの、クシを借りることができた。

 台所で食器を片付ける奥方に、ダメ元で訊ねてみる。


「天気も良いし、村を見て回ってもいいかしら?」

「ええ、大丈夫よ。子どもたちも広場で遊んでるんじゃないかしら」


 てっきり家に留まるよう言われると予想していた。

 キールとは一緒に調査しようと決めたが、村人が快く思うはずがない。

 けれど許されたなら、と早速家を出る。


「幌馬車でもそうだったけれど、緩やかに軟禁されている感じね」

「ぼくたちが大人しいからかな?」


 数の優位は村人のほうにある。

 腕力の乏しいクラウディアたちが抵抗したところで、すぐに制圧できると考えられているのかもしれない。


「外部の人間が動き回るのは嫌がりそうだけど」


 クラウディアたちはよそ者だ。

 ましてやキールは村を調査していたから、連れ去られることになった。

 村人たちは自分たちをどうするつもりなのか。


「不可解だわ」

「うん、その理由を探っていこう」

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