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01.悪役令嬢は断罪される

 無知な公爵令嬢には驕りがあった。

 だから王城で開催された学園の卒業パーティーにも、胸を張って一人で入場できた。

 しかし王太子殿下を見つけた瞬間、ただでさえキツい目がつり上がる。


「わたくしは殿下の婚約者ですのよ! どうしてエスコートしてくださらないの!」


 恥をかかされたと、殿下へヒステリックに詰め寄った。

 更には殿下の肩越しに妹フェルミナの姿を認め、ギリッと奥歯を鳴らす。


(どこまでも邪魔な子!)


 クラウディアは、この半分だけ血の繋がった平民出身の異母妹が大嫌いだった。

 目が合うなり怯える姿にイライラさせられる。

 しまいには冷ややかな態度の殿下でさえ気に入らない。


「婚約者ではない。婚約者候補だ」

「どちらも同じですわ!」


 このときまで、クラウディアは血統に裏付けされた、自分の身分は揺らがないと信じ切っていた。

 国の第一王子であるシルヴェスターとは、はとこの間柄。

 他の婚約者候補の爵位が、公爵家より劣っているのを鑑みれば、婚約者は自分に決まっていると。

 クラウディアがそう言い募ろうとしたとき、パーティーの主役であり、卒業生となる兄のヴァージルが妹を庇うように前へ出る。


「同じじゃない。それにもうお前は、婚約者候補ですらなくなった。父上が、公爵家からお前の籍を抜き、修道院へ送ると決められたからな」


 兄の口から出た言葉の意味が理解できなかった。

 瞳を大きく揺らし、ありえないと掠れた声で呟く。


(修道院? わたくしが? 公爵令嬢で、殿下の婚約者であるわたくしが?)


 瞠目するクラウディアを見下ろし、兄は吐き捨てるように続ける。


「お前がフェルミナを過度に虐げていたことは調べがついている。見損なったぞ。半分とはいえ血を分けた妹に、よくここまで非道になれたものだ」


 兄の言葉に、殿下の隣に立つ騎士団長令息も、端整な顔を歪ませた。

 彼も事情を知っているらしく、一緒になってクラウディアを責める。


「果ては悪漢に襲わせようとするなんて……公爵令嬢として、あなたは何を学んできたんですか!」


(なに、どうなっているの?)


 状況に頭が追いつかない。

 同い年である妹を虐げてきたのは事実だ。

 愛人の子という立場をわからせるため、悪漢に襲わせようとしたのも。


 けれど何故、この煌びやかな場で、自分が責められなくてはいけないのか。


 大広間の天井ではシャンデリアが輝き、オーケストラの生演奏が風にのって聞こえてくる。

 卒業生を祝うため、送り出す側の在校生は等しく着飾り、パーティーに花を添えていた。

 クラウディアも兄の卒業を祝うため、宝石をふんだんにあしらったドレスを着てきたというのに。


「もう、やめてください!」


 遂には嫌悪してやまない妹まで声を上げる。

 兄の背に隠れていた彼女は、何を思ったのかピンクブラウンの髪を揺らしながら前へと躍り出てきた。

 小動物を連想させる愛くるしい少女。

 妖艶な黒髪を持つクラウディアとは正反対に、明るい色で彩られた妹は、目に涙を浮かべている。

 そしてクラウディアへ近付くと、まるで勇気付けるように肩を抱いた。

 突然のことに、体が強張る。


「お姉様だって、話せばわかってくださります。みんな責め立てないで!」


「フェルミナ、お前の優しさはクラウディアのためにならない」


「でもお兄様……!」


 自分の主張が通らないとわかり、可憐な少女は悲しげに顔を伏せる。

 その際、笑いを堪える口元を見たのは、クラウディアだけだった。


「あなたっ」


「お姉様、あたしは信じています! 修道院に入れば、必ず改心してくれるって!」


 肩から手を放し、クラウディアと向き合うフェルミナ。

 かけられる声はどこまでも同情的で、周囲はフェルミナの優しさに感動した。


 しかし、クラウディアの目に映ったのは。


 愉悦に頬を染める、妹の凶悪な表情だった。

 妹の隠された一面を目の当たりにし、口を開いても言葉が出てこない。

 そんなクラウディアを嘲るように、フェルミナは目で弧を描き、ぷっくりとした愛らしい唇を音もなく動かした。


 ――いい気味、と。

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