18.悪役令嬢は妹とお茶会に参加する
(何をしでかすか、予想がつかないところが怖いわね)
可愛らしいピンク色のドレスを着たフェルミナを視界に収めながら、物思いに耽る。
クラウディア自身は、スカートの裾が大きく広がるタイプのものではなく、風が吹くと程良く広がるミモレ丈のドレスに身を包んでいた。
襟があるものの、デコルテ部分は総レース仕様になっており重さを感じさせない。
それでいてレース越しに谷間が見えそうで見えないよう、計算し尽くされていた。
色は落ち着いた濃いめの青で、上品さを際立たせている。
今日は王城の庭園で、王家主催の大規模なお茶会があった。
デビュタント前のご令息ご令嬢が招待され、主催者側のシルヴェスターが姿を見せる前から大賑わいを見せている。
結局シルヴェスターと一対一で二度目のお茶会をすることはなかったものの、たまに招待された席で顔を合わせることはあった。
短い時間での交流ならクラウディアも気負うことなく接することができ、今回のお茶会もシルヴェスターのことは気にしていない。
ただ屋敷から出たフェルミナがどんな行動を起こすのか読めないので、今日はずっと傍にいるつもりだ。
まずは馴染みのご令嬢たちにフェルミナを紹介し、反応を窺う。
当然の様に好奇の視線は集中するが、クラウディアが丁寧にフェルミナを紹介すれば、時間を追うごとに興味は他へと移っていった。
影では好き放題言われているだろうけれど、表立ってフェルミナを口撃する者はいない。
それもこれもクラウディアが常に優しい笑顔を湛えて、フェルミナの傍にいたからだ。
デビュタント前にもかかわらず、クラウディアの評判はすこぶる良い。
母親の死で心を入れ替えた少女の話は、予期せぬ形で美談となり広まっていた。
見上げる空は高く。
周りを囲む緑は、陽光を受け翡翠色に輝く。
風が吹き抜ける解放感にクラウディアが心地良さを感じていると、遂にシルヴェスターが姿を現した。
挨拶は爵位順におこなわれるため、フェルミナを連れて素早く移動する。
「シルヴェスター様、本日はお招きいただきありがとうございます」
久しぶりに見たシルヴェスターは眩しかった。
以前もその可憐な容姿に見惚れそうになったが、会わない間に男らしく成長したシルヴェスターには、白磁のような美貌に色気が備わっていた。
(元から美しいのに、まだ進化するっていうの)
本当に同い年かと訊きたくなる。
それでもさり気なくシルヴェスターの視線が自分の胸元へ行ったのを見て、クラウディアは何だか安心した。
(相変わらず顔はいつものお人形さんだけど、本能には勝てないのね)
魅力的な体型が目の前にあれば、性欲の有無や性別にかかわらず、どうしても視線が行ってしまうものだ。
クラウディアだって男性の筋肉や、女性の豊満な部分に魅力を感じたら目で追う自信がある。
シルヴェスターの興味を引ければ、婚約者候補としては及第点だろう。
さり気なく胸を強調するデザインにして良かったと思いながら、フェルミナに一歩前へ出るよう促した。
「ご紹介させていただきます。妹のフェルミナです」
「フェルミナ・リンジーと申します。以後お見知りおきを」
虚言で実母を傷つけた一件から、フェルミナは真面目に課題と向き合っていた。
努力の末、所作も美しくなり、シルヴェスターへ向けたカーテシーは、クラウディアの目にも完成度が高く映る。
(フェルミナを見てもシルヴェスター様の表情は変わらない……か)
前はどういった経緯で二人が婚姻を結んだのかわからないものの、一目惚れの線はなさそうだ。
クラウディアたちのあとに続こうと、挨拶待ちの列ができはじめているので、早々にシルヴェスターの前を辞する。
「ではまた後ほど。トリスタン様も」
今日もシルヴェスターの傍にいるトリスタンに軽く視線を向ければ、好意的な眼差しが返ってきた。
少なくとも側近に悪い感情を抱かれていないことがわかり、クラウディアは自然に微笑む。
挨拶が終わったあとは適当に時間を潰すだけだった。
フェルミナを視界に収めながら、ご令嬢たちと他愛もない会話を交わす。
みんなデビュタント前なので、話題のほとんどは社交界デビューと学園についてだった。
ただクラウディアに対してはヴァージルの情報を求められることも多く、当たり障りのない範囲で情報を提供する。
まだ婚約者が決まっていないことを告げれば、目に見えてご令嬢たちは喜んだ。
(あら……?)
ずっとフェルミナの視線が一つの方向で固定されているのに気づき、先にあるものを確認する。
そこには穏やかな笑みを浮かべ続ける、シルヴェスターの姿があった。
改めてフェルミナを窺えば、視線に熱がこもっているようにも見える。
(シルヴェスター様に反応はなかったけど、フェルミナは一目惚れしたようね)




