13.悪役令嬢は対峙する
ちらりと視線だけでニアミリアを窺う。
クラウディアとしては認められないが、彼女も戦争を回避するためにここにいるのだ。
(婚約に乗り気であるかは、まだわからないわね)
ベンディン家としては悪い話ではないだろう。
このような状況下でなければ、シルヴェスターの婚約者候補として名乗りを上げることも叶わなかったはずだ。
けれどニアミリアに浮き足立ったようなところは一切見られない。
自分の婚姻が戦争の有無を決定付けるともなれば、浮ついてなどいられないだろうが。
(そう、彼女にしてみれば、これしか方法がないのよね)
シルヴェスターをはじめ、反対派は他に方法がないか動いていても、パルテ王国側からしたら婚姻しか戦争を回避する手立てがないのだ。
正に国の命運を背負っているニアミリアの心情はどんなものだろう。
自分一人の処遇で、泥沼の戦争がはじまるかもしれない重圧。
(気丈な方だわ)
対外的にはまだ友好国であっても、その裏側は平穏とかけ離れている。
心の内は当人にしかわからないけれど決して穏やかではないだろう。
下手をすると敵国にやって来ているのと変わらないのだから。
だというのにニアミリアからは、そういった気配が微塵も感じられなかった。
自分を強く持っている証拠だ。
加えてニアミリアが微笑むと、日に照らされたように周囲が明るくなる。
「青空の下、こうしてみなさんと顔を合わせることができてとても嬉しいですわ。最近は天気が悪い日もあったと聞いていましたから」
「確か先日のパーティー前は天気が崩れていましたわね。空もニアミリア様の来訪を祝っているのかもしれませんわ」
話しながら、雷鳴が轟いた日があったことを思いだす。
あのとき感じた不安は、パルテ王国との国交を示唆していたのかもしれない。
ニアミリアの濃紺の瞳が人好きする笑みを見せる。
「だとしたら嬉しい限りです。パルテ王国は山岳地帯が多く、天気が安定しないのが悩みの種ですわ」
ハーランド王国とバーリ王国を隔てる山脈の裾野に位置するのがパルテ王国だ。
平野も有しているが、国のほとんどは高低差のある森林地帯だった。
「山頂は特に天気が変わりやすいと伺っております」
「そうなんです! 突然の雨に慌てて山を下るとしますでしょ? すると少し低い場所では全く降っていなかったりするんですの」
クラウディアの合いの手に、ニアミリアは身振り手振りを交えて答える。
作られる表情は愛嬌があり、幾ばくもしないうちにテーブル席は和やかな雰囲気に包まれた。
そこへシャーロットの小動物的な動きが合わさればより賑やかになる。
――円卓のテーブルには、予め席が四つ用意されていた。
今、着席しているのはクラウディア、ルイーゼ、シャーロット、そしてニアミリアだ。ウェンディはどこだろうと思ったところで当人から声がかかる。
「わたくしもお邪魔させていただいてよろしいかしら?」
「もちろんです!」
緊張が窺えるウェンディに、ニアミリアは快諾する。
クラウディアたちも断る理由はなかった。
着席する椅子が足らなかったけれど、ウェンディが近付いたところで控えていた使用人が用意していた。
腰を下ろしてもウェンディの顔はどこか強張っている。
クラウディアを警戒していることは、向けられた視線から察せられた。
(わたくしと顔を合わせたくなくても、婚約者候補が集まっている席は見逃せなかったのね)
張り詰めた空気が漂うものの、間延びしたシャーロットの声が響くと幾分和らぐ。
「ニアミリア様、質問がありますの~」
「何でしょう?」
「ニアミリア様も厳しい訓練をされているんですの?」
パルテ王国では全国民が戦士とされ、厳しい訓練を受ける。
しかしニアミリアに鍛えている様子は見られない。
レステーアから令嬢は免除されると既に聞いて答えは知っているが、シャーロットは空気を変えるために、あえて質問したようだった。
ところが返ってきた答えは想定と違っていて。
「ふふ、見た目に出ていないなら上手くいっているようですわ」