42.悪役令嬢は王太子殿下から宣言される
すっきりした目覚めだった。
まどろむこともなくクラウディアは起き上がる。
蓄積されていた疲れが解消されて体が軽い。
しかし、いつものようにヘレンを待とうとしたところで違和感を覚えた。
(ここは――!?)
自分が滞在している部屋との違いに気付いた瞬間、昨晩の記憶が次々と蘇る。
(やだ、わたくしったらあのまま寝ちゃったの!?)
シルヴェスターにベッドへ促され、押し倒されたときは緊張と恥ずかしさのピークだった。
荒々しい息遣いを肌で感じたのを覚えている。
口付けは性急だったけれど、触れられる指使いは優しくて。
何度も、何度も唇が重なって息が上がった。
そのときの熱がぶり返して、両手で頬を包む。
(熱くて、焦れったくて、でももっとして欲しくて……)
キスだけじゃ足りないと思いつつも、与えられる刺激が心地良かった。
がっしりした体躯に覆い被さられても不安はなかった。
むしろ守られている安心感があった。
(でも眠るのはないわ)
それでも元娼婦かと自分をなじりたくなる。
しかも隣でシルヴェスターが寝ていた形跡はない。
ホテルの部屋には寝室の他に客室もあった。
もしかしてそちらで眠ったのかと視線を動かしたところで、再熱していた体からさああっと音を立てて血の気が引く。
「起きたか?」
昨晩出迎えられたときにも座っていたソファーに、シルヴェスターがいた。
それも目の下にクマを作って。
「シル、ごめんなさい!」
疲れているのはシルヴェスターも同じだろうに、無理をさせてしまった。
しかもあんな状況で寝落ちされた心境を考えると反省しかない。
銀髪を軽く揺らしたシルヴェスターから、いいんだ、とか細い声が返ってくる。
「ディアの疲れが癒えたのなら良い」
「シルは、ずっと起きてらしたの?」
「寝ようと思ったのだが寝付けなくてな。徹夜は慣れているから気にすることはない」
立ち上がったシルヴェスターはそのままベッドへ腰かける。
そして寝起きで若干乱れたままの黒髪へ手を伸ばした。
頭を撫でられると心地良くて、また目を閉じてしまいそうになる。
「安らかな寝顔や、寝起きの君を見られて色々吹っ切れたよ」
「そ、そうですの?」
「初夜は寝かせない」
「シル!?」
「朝までと言わず、一日中愛し合おう」
「シル、あの」
「君が大丈夫そうなら期間を延ばしてもいい。何日でも愛し合おう。誰にも邪魔されないよう、執務はきっちり終わらせておく」
急を要する案件は父上へ投げればいいとまで言われ、クラウディアは慌てた。
発言が不穏過ぎる。
徹夜の影響なのは明かだった。
「シル! 今からでも眠ったほうがよろしいのではなくて?」
「君がいないところでか?」
「寝入るまで見守っています! 子守歌も歌って差し上げますわ!」
「そうか、なら抱き枕になってもらおうかな」
「きゃっ」
クラウディアを腕に閉じ込めるなり、シルヴェスターが仰向けに倒れる。
ベッドのスプリングが軋み、二人の体が弾んだ。
すると呆気なくシルヴェスターは寝息を立てはじめた。
(やっぱりお疲れだったのね……心労を上乗せしたのは、わたくしでしょうけど)
猛省するしかない。
本番はしなくても、男性をすっきりさせる方法を知っているだけに申し訳なかった。
一回だけでも付き合えば、シルヴェスターも眠れたかもしれないのに。
(……一回では済まないかしら)
先ほどの不穏な発言が思いだされる。
あれは数をしたい本音の表れだろう。
腕に抱かれた状態でシルヴェスターを伺う。
(そういえば、わたくしもシルの寝顔を見るのははじめてだわ)
逢瀬の中で、まどろんでいたときはある。
けれど無防備に寝ている姿は記憶になかった。
疲れているだけかもしれないが、信頼されていなければここにはいない。
二人の特別な関係が体現されているようで、ほんわりと胸が温かくなる。
目の下にあるクマに申し訳なさが募るけれど、クラウディアは目を閉じていても麗しい顔を飽きずに眺め続けた。




