14.悪役令嬢は連合王国に降り立つ
学園の長期休暇がはじまった数日後。
アラカネル連合王国の玄関口である港に、クラウディアの姿はあった。
日差しが肌を焼く季節でも、早朝はまだ涼やかだった。
それでも目に映る光景の鮮やさに夏を感じる。
青空と赤い屋根。
路上で咲く黄色い花へ寄り添う壁は白く。
どれもが鮮明に自分の色を主張していた。
朝市が開かれているからか、既に人通りは多い。
クラウディアが船から姿を現せば、人々の視線が集中した。
(無理もないわね)
隣にいる人物の存在感を考えれば納得するほかない。
銀色の毛先が水面のように光を散らし、視界の端に留めるだけでも彼は眩しかった。
「水平線を見る機会はなかったな」
「はじめての航海ですから、これぐらいでちょうど良かったかもしれませんわ」
いつかシルヴェスターと二人で水平線を見ようと話したことがあった。
ハーランド王国とアラカネル連合王国は海で隔たれているが、玄関口になっているアラカネル王家が統括する島は晴れていれば対岸が見える距離だ。
「クラウディア嬢のはじめての他国訪問が我が国とは誇らしい限りです」
グレーの瞳は今日も温かい。
スラフィムに先導され、クラウディアとシルヴェスターは港に降り立つ。
(シルだけじゃなく、スラフィム殿下まで同行されるとは思わなかったわ)
学園の長期休暇を利用して商館を訪ねる計画を立てると、そこへシルヴェスターが加わった。
もっと言えば、シルヴェスターが無理矢理に同行をねじ込んできた。
リンジー公爵家側は問題ないが、王城のほうではスケジュール調整に苦労したようだ。
付き合わされるトリスタンは、既に諦めの表情だった。
公式訪問ではなく私的訪問――お忍びであるため、仰々しい行進などはおこなわれない。
シルヴェスターとトリスタンの装いも、普段に比べると地味だ。
そして話は内々で進んでいたはずが、自国を訪問するならと案内役にスラフィムが名乗りを挙げる始末。
もう一度言うけれど、この旅行はお忍びである。
(目立って仕方ないわね……)
陽光を受けて煌めく銀髪と金髪が眩しい。
一歩下がった位置にいる赤毛も、いつもより明るく映った。
存在感が尋常でないため、地味な服装の意味が希薄になっている。
(シャツ一枚でも麗しく見えるってどういうことなの)
佇まいに隙がないからだろうか。
ラフな格好であってもシルヴェスターから清廉さは消えない。
それでいて上着がない分、鍛えられた筋肉の厚みが見て取れて、クラウディアは意識して胸元や腕から視線を外す。
服装で人目を引かないよう、クラウディアも派手な装いは避けていた。
シンプルな半袖のワンピースにツバの広い帽子はこの季節のスタンダードで、服装だけで公爵令嬢とは断定できない。
しかし存在感でいえば、クラウディアもシルヴェスターに負けていなかった。
凜とした背中に広がる黒髪は優雅で、体の曲線が耽美的に人を誘う。
スカートの裾は長く露出が多いわけではないものの、生地が薄手なゆえにコルセットを付けずとも美しい体型であることが浮き彫りになっていた。
美青年二人にエスコートされる美女。
周りを固める護衛の数も含め、これで目立たないほうがおかしい。
(この先もこれで大丈夫かしら?)
正直に白状すると、シルヴェスターとの旅行は嬉しい。
王都でデートはしても、日をまたぐことはなかった。
心配しつつも、いつもと違う状況にワクワクが止まらない。
港町の嗅ぎ慣れないにおいが鼻腔をくすぐると高揚は加速した。
早朝から人やものが行き交い、賑わいが環境音になる。
ハーランド王国の港町ブレナークとも似ているが、文化からくるものか漂う空気感が違った。




