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12.悪役令嬢は意見を聞く

「クラウディア様の影響力は凄まじいですから。それとご心配されなくても、経営は傾きませんよ」

「そうかしら? わたくしは商売の素人よ?」


 ブライアンが太鼓判を捺す理由がわからず訊ねれば、何故か彼はヘレンを見た。

 彼の表情は、自覚ないんですか? と語っている。


「僭越ながらクラウディア様は、ご自身の評判を過小評価されるきらいがあります」

「なるほど、納得しました。重ねて言いますけど、クラウディア様なら大丈夫です。おれがエバンズ商会をかけて保証します」

「二人で話を完結させないで頂戴」


 クラウディアにしてみれば、当然の質問を口にしただけだった。

 なのに置き去りにされて不満を顔に出す。


「美容品の件を考えてみてください。爆発的に人気が出たのはクラウディア様のおかげです」

「品質が良かったからでしょう?」

「それも否定しませんけど、良いものが売れるとは限らないのが商売の常識です。その常識を覆す力がクラウディア様にはおありです」


 良いものでも人々の興味を引かなければ売れないという。

 その点、クラウディアは問題なかった。

 本人が注目の的だからだ。クラウディアが手にするものを人々は見逃さない。

 良品であればなおのことだ。


「クラウディア様がどこかの過程で関わられるだけで宣伝文句になります。直々に商館を運営されて、経営が傾くことはありませんよ」

「だと良いのだけれど」

「正直、おれはその商館が羨ましいです。貴族特有の下手な博打さえ打たなければ……そうだ、この点でもクラウディア様なら安心です」

「どういうことかしら?」

「直接運営されると言っても、現地の担当者は別にいますよね? 領主代行みたいな。クラウディア様は現地の担当者の助言を無視されないでしょう?」

「当然よ、専門家の意見を無視してどうするの」

「即答するところが本当に素敵だなぁ……すみません、心の声が漏れました」


 こほん、と居住まいを正してブライアンは続ける。


「貴族が商売で失敗する理由は、リサーチが足りないからです。なんか謎の確信をお持ちの方が多いんですよね。そして確信があるから専門家の意見を無視するっていう」

「特権階級ゆえの驕りかしら」


 貴族の命令に平民は抗えない。

 一方的な関係が当たり前になっていると、貴族が商売すれば、平民は当然買うという認識を持つ者が必ず生まれた。

 商売には別の道理があることを理解できないのだ。


「そこで甘い話にのってしまうんですよね。甘い話を共有するわけがないっていうのに」


 中々、耳の痛い話である。

 社交界でもその手の話題は尽きない。


(わたくしも用心しないと)


 気を付けていても、詐欺師は心の隙間に上手く入り込んでくる。

 上級貴族でも騙される人は騙されるのだ。


「投資については安易に頷かなければ大丈夫です。ちゃんと損を見込んだ上なら、痛い目を見るのも自分だけですから」

「ありがとう、参考になるわ」

「公爵家には教会と同じくらい優秀な人材が集まっているでしょうから、おれが言うのもおこがましいんですけどね」


 シルヴェスターとの会話にもあったけれど、教会には優秀な人材が多い。

 修道院での教育も含め、創出する力があるからだ。

 貴族が通う学園に修道者が講師として呼ばれることもあるが、彼らの教えは貴族に限らない。

 修道院で保護した孤児たち平民にも等しく教育を受けさせる。

 だから他国へ派遣するほど人材を確保できた。


(それを考えると平民にも学園が必要だわ)


 ハーランド王国に、平民が通う学園はない。

 教育の門戸を開くことが人材の創出に繋がるなら、一考の価値はあるだろう。

 考えが大きく逸れかけたところでブライアンへ意識を戻す。


「あら、あなたの話だから、わたくしも素直に聞けるのよ」


 専門家の意見を無視しないといっても、初対面の人からの忠告と、知人からの忠告では心への響き方が違う。

 クラウディアが率直な意見を述べると、ブライアンは上気する頬を腕で隠した。

 パタパタと大きく振られる尻尾が見える。


「く、クラウディア様は人を喜ばされるのがお上手です」

「ふふ、大袈裟ね」


 ブライアンの素直な反応に顔が綻ぶ。

 意見を聞けたおかげで、心が少し軽くなった気がした。


「最後に、ここだけの話なのだけれど良いかしら?」

「ここだけの話は大好物です!」


 情報の有用性をブライアンはよく理解していた。

 ネタを独占できるならと前のめりになるが、ことはそう穏やかではない。


「違法カジノが出来ているようなの。急に羽振りが良くなった人とか知らないかしら?」

「または資金繰りに困ってる人ですね。うーん、王都でそういった話は聞きませんね」

「他の地域ならあり得るかしら?」

「ないとは言い切れません。ただそれだと領主の管轄になりますよね?」

「そうね……」


 シルヴェスターが気にしているということは、国が介入できる範囲のことだろう。

 地方の犯罪ギルドが細々とおこなっている分は当てはまらない。

 犯罪ギルドに横の繋がりはなく、資金源になっていたとしても取り締まるのは領主の仕事である。


「うちの仕入れ担当にそれとなく伝えておきます」

「ありがとう、助かるわ。でも危険なことはさせないでね?」

「はい! クラウディア様の名前を出すとやる気になりそうなんで、控えておきますね」

「あなたのところで、わたくしってどういう扱いになっているの?」

「女神ですね」

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