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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第三章

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09.悪役令嬢は思考を止めない

 馬車に乗り、帰路へ就く。

 窓から覗く日はまだ高い。

 背もたれに体を預けて目を閉じると、石畳を歩く馬の足音が心地良く響いた。


 社会から見れば、教会は「善」である。


 国家間の仲裁や流通品の価格調整もそうだが、一般の人々にとって想像しやすいのは修道院や教会堂の存在だろう。

 修道院は、教会を構成する修道者が生活する場所で、そこでは孤児が受け入れられている。

 また教会堂では宣教に限らず、炊き出しなど地域への支援活動もおこなわれていた。

 修道者にとって、修道院は生活場所、教会堂は仕事場所にあたる。

 孤児については貴族がつくる孤児院もあるが、これは貴族の領地ごとにバラつきがあった。

 基本的に領地のことは統治する貴族に任せられ、国が財源を確保できない限り、支援を促すのは難しい。

 手が行き届かない領地ほど、教会の存在は必要不可欠だった。

 それでもシルヴェスターに限らず、クラウディアにも思うところがあった。

 修道者も人であると、よく知っていたからだ。


(枢機卿も娼館のお得意様だったもの)


 枢機卿は、修道者を地域ごとに統括する教会内の役職だ。

 トップである教皇――国でいうところの国王――の一つ下の身分になる。

 唯一神信仰を教義としている国ごとに一人派遣され、現在は二十名ほどの枢機卿が教会に属していた。

 清貧を重んじる修道者の上級職であっても、肉欲には勝てないらしい。


(確かケイラお姉様の顧客だったわね)


 娼館は犯罪ギルドが運営している。

 「善」である教会と「悪」である犯罪ギルドは対立関係にあるはずだが、枢機卿はどういった気持ちで利用していたのか。


(犯罪ギルドの全てが断罪すべき悪とは限らないけれど)


 枢機卿も国と同じく「必要悪」として、彼らの存在を黙認しているのかもしれない。

 犯罪ギルドは地域に根付いた組織だ。

 彼らの生まれは国の支援が届かない貧民街にある。

 倫理観を学べないまま生活のために悪事を働き、利益を得るようになった集団。

 規模は地域で異なり、横の繋がりはない。

 王都では「ドラグーン」と名乗る組織が幅を利かせていた。

 法を犯している以上、罰せられてしかるべきだが、彼らは利益を自分たちが生まれた貧民街へ還元した。

 局地的ではあるけれど、彼らも教会同様に社会へ貢献しているのだ。

 彼らは彼らなりに同じ立場の者を守っていた。

 貴族の中には貧民街ごと消してしまえと暴論を口にする者もいる。

 しかし貧民街の住人は支援から漏れた弱者でしかない。


(弱者の否定は、貴族の地位を否定するのと同じだというのに)


 ノブレスオブリージュの根幹が崩れてしまう。

 自分たちの存在意義をなくしてどうしようというのか。

 国も黙って見ているわけではないけれど、どうしても支援の網目からこぼれ落ちてしまう人がいた。


(だから国は、必要悪として犯罪ギルドを黙認しているのよね)


 当然だが表立った犯罪行為は、捜査の対象になる。

 けれど根絶やしにしようという動きはなかった。

 一つの組織を根絶やしにしたところで、新たな組織がやって来るだけだからだ。

 それなら現存の組織に対して目を光らせておくほうが混乱を防げるし、ある程度は秩序が守られる。


(ドラグーンのトップは、今も彼なのかしら)


 娼婦時代、何度か顔を合わせたことがあった。

 スキンヘッドの見るからに「悪」とわかるいかつい相貌の男だ。

 顔を合わせれば、ほとんどの人が萎縮するだろう。

 絵に描いたような悪人面の男だが、娼婦には紳士的だった。

 犯罪ギルドの構成員の中には、娼婦も仲間だと思ってくれる者もいる。

 しかし搾取する側とされる側である以上、仲良しこよしで成立している関係ではなかった。


(今すぐ福祉制度を拡充するのは難しいわ)


 必要悪を黙認しているからといって、国が問題を放置しているわけじゃない。

 どうすれば支援が行き届くか常に試行錯誤している。

 そこで壁となって立ちはだかるのが人手と資金だった。

 領主――貴族――たちに協力を仰ぐには対価、ないしは成果が求められる。


(公娼を設立したいと思っても前途多難だわ)


 国として法を決めるには、議会で可決され、国王の承認を得る必要がある。

 シルヴェスターの協力があったとしても、裏表のある議会への根回しは簡単ではない。

 そもそもクラウディアには、法案を議題にのせる権利すらなかった。

 父親を説得し、議会に通してもらうのが第一関門で、次には法案成立のための手段や味方を得なければならない。

 運良く可決できたとしても、公娼を維持するための資金はどうするのか。

 問題は山積みである。


(けれど公娼は定めたほうがいいはず)


 福祉制度が整ったとして、この先、娼婦はいなくなるだろうか。


(一説では、最古の職業と呼ばれるくらいだもの)


 原初の、とも言える。

 需要がある限り、ゼロになるとは考えにくい。

 未来のためにも保証を確立しておいて、悪いことはないはずだ。

 公娼の一番の利点は、基準を設けられることだろう。

 国が管理する以上、バラバラな運営方法は成り立たない。

 そこで衛生基準を設け、働き手の健康を確保する。

 娼婦の地位を上げることは難しくとも、乱暴されれば訴えられる仕組みもつくりたい。

 特に衛生面については、客にとっても利がある。

 好き好んで病気になりたがる人はいないのだから。

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