表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/441

10.悪役令嬢はめげない

 屋敷に帰ると、ドレスという武装を解除するなり、ベッドへ倒れ込んだ。

 ぼふん、と体を受けとめてくれるベッドに愛を感じながら、もう無理……と呟く。

 それだけ心労を感じていた。


(シルヴェスター様があんなに手強いなんて、聞いてないわよ)


 フェルミナに対抗するどころではない。

 あれからというもの、会話の節々でシルヴェスターはクラウディアから何かを引き出そうとし、お茶会の後半は胃に穴が空きそうだった。

 幸い十分な知識があったので、ミスを犯すことはなかったけれど、もう一対一でのお茶会は勘弁願いたい。


(共通の家庭教師がいるおかげで、バカなふりもできないし)


 刺繍の腕前だけじゃなく、学業の成績もシルヴェスターには筒抜けだった。

 会話は弾んだが、それも表面的なものでしかない。

 一時間に満たない交流だったけれど、永遠にも思える時間、気を張り続けていた。


(ボロを出せば、そこから責めてくる雰囲気だったわよね。わたくし、やっぱり嫌われているのかしら……いっそ責められれば良かった? あぁ、もうっ、正解がわからないわ!)


 正直なところ、フェルミナのことで手いっぱいなのだ。

 シルヴェスターとの交流は重荷でしかない。

 今後もあのような化かし合いが続くなら、フェルミナに押し付けたくもなる。


(けど、あの悪女に権力を握らせたくはないのよね)


 そうなれば、断罪の二の舞だ。

 権力を持ったフェルミナは、すぐにクラウディアを排除しようとするに違いない。

 自分の身を守るためにも、現状を維持するしかなかった。

 気持ちは晴れないものの、ベッドの柔らかさが疲れを癒やしてくれたのか、自然と瞼が下がっていく。

 知らず寝入ってしまったクラウディアを起こしたのは、侍女長のマーサだった。


「クラウディア様っ、なんてはしたない格好で寝ているのですか! ベッドに入られるなら掛け布団を被ってください、風邪をひきますよ!」


(ベッドで寝ているのに、はしたないもないでしょうに……)


 言い返したくなる気持ちをぐっと堪える。

 ベッドでダイブしたままの寝姿以上に、風邪をひくのを心配してくれたのだとわかったからだ。


「ベッドに横になられる場合は、枕に頭をのせて」


「ごめんなさい、次から気を付けます」


 しかしお小言が終わりそうになかったので、しおらしく謝る。

 そのあと母親の姿勢を真似て背筋を伸ばせば、マーサは満足げに頷いて引き下がった。

 どうやらマーサは、母親の力強い姿に憧れていたらしい。


(シルヴェスター様も、これぐらい扱いやすかったらいいのだけど)


「ではクラウディア様、身なりを整えてくださいませ。旦那様がご帰宅されます」


「お父様が? あまり間が空いていないわね」


「殿下とのお茶会を気にしておられるのではないでしょうか。それと旦那様がお屋敷に帰られるのは、普通のことです」


 なるほど、とマーサに頷きながらも、普通じゃないのが今までの父親だった。

 シルヴェスターとのお茶会を基点に、流れが変わってきているのだろうか。


(きまぐれな神様も楽しんでくれているかしら)


 ヘレンについて祈ったとき、そういう約束をした。

 だからこそ、未来は変えられると信じられているところもある。


(じゃなきゃ、人生をやり直す意味なんてないものね)


 今まで放置していたクセに、自分にとって都合が良いと干渉してくる父親には辟易するが。

 これもヘレンのため、とクラウディアは拳を握る。

 彼女の娼館行きを止めるのに、父親の協力があって困ることはない。

 侍女たちに頼んで情報は集めてもらっている。

 残念ながら状況的に伯爵家の没落は止められないが、ヘレンはまだ救える可能性があった。


(お父様の機嫌が良さそうだったら、そろそろヘレンのことも相談してみましょうか)


 伯爵家没落後、ヘレンはお金に困って娼館に身を売ったと聞いていた。その頃には他家に働きにいく伝手もなくなっていたと。

 娼館へ行く前のヘレンは貴族令嬢でしかなく、働くという意識が薄かった。彼女もクラウディアと同じく、娼館で人生を学んだのだ。

 生活できるお金があればいいのなら、公爵家で侍女として雇えばいい。

 今ならクラウディアという「本人も知らない」伝手がある。

 自分の心情にさえ目を瞑れば、シルヴェスターとのお茶会は成功したといっても差し支えない。

 これをカードに、クラウディアは父親と交渉することを決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ