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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第二章

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44.王弟殿下は気持ちに名前を付ける

「リンジー公爵家のご兄妹が案内人なんて、ついてますね」


 綺麗に笑う側近を、ラウルは胡乱げに見返す。

 レステーアは男子用の制服も違和感なく着こなしていた。

 貴公子然としているのが、何だか腹立たしい。

 睨んでも動じた素振りがないから余計に。


(これ以上、クラウディアには近付けさせられないな)


 他国で大がかりなことはできないと思っていたが、レステーアはやってのけた。

 情報が後手に回っていることを鑑みれば、ラウルよりレステーアの考えを重んじる人間もいそうだ。

 彼らにとっては、そのほうが利権への近道なのだろう。


(純粋にオレを推す奴らもいるから、無碍にできないんだよな)


 むしろ王弟派には、そういった者のほうが多い。

 彼らは彼らなりにラウルを守ろうとしてくれているのだ。

 ラウルの意に反していても。


(兄上のように判断できれば、悩まずに済むんだろうか)


 考えが違うという理由だけでは、簡単に切り捨てられなかった。

 レステーアのことも、一緒に責任を取るつもりでいる。

 彼女も家の利権のためだけに動いているとは到底思えなかった。

 それでもクラウディアに警告しようと決意したのは、レステーアが自分から離れて先頭集団へ向かうのを見たからだ。


(わざと設けられた場か)


 いい加減、夢を見るのはよそう。

 ハーランド王国にとって、自分への接待は情報を得る場でしかない。

 レステーアが引いたのは、相手がクラウディアだったからだろう。


(事前にクラウディアへ何か言っていたな)


 余計なことはするなと釘を刺したが、意味はなかったらしい。

 レステーアは、クラウディアを気に入っている。

 ラウルとくっつけたがっているのは、リンジー公爵家の協力が欲しいからだけではないだろう。

 味方にしたいのだ。レステーア自身の。


(オレのことをからかう前に、自分の気持ちに気付いたらどうだ?)


 そう思いながらも、クラウディアの青い瞳と目が合うなり視線が泳ぐ。

 はにかむ姿を見せられれば、抱き締めたい衝動に駆られた。

 そのたびにシルヴェスターの顔を浮かべて、気持ちを萎えさせる。

 もしくは母親の裸体を想像した。


(うぐっ、これはこれで精神的にくる……)


 煩悩を捨てるためとはいえ苦行だった。

 それでもクラウディアと一緒にいられるのが嬉しくて。

 レステーアの思惑や、政治が絡んでいるとわかっていても、体は熱を持った。

 クラウディアの何気ない仕草から目を離せない。


(夢を見るんじゃない)


 自分の事情に、彼女を巻き込むわけにはいかないのだから。

 美しすぎる彼女のことは、幻想とでも思おう。

 そう考えていたのが災いしたのか。


 一陣の風に、クラウディアが連れ去られてしまう気がした。


 今にも霞となって消えてしまいそうで。

 どこか手の届かないところへ行ってしまいそうな、強い不安に駆られる。


「ラウル様、いけませんわ」


 扇に阻まれて、はじめて自分の行動を自覚した。

 慌てて謝る。


(バカか、オレは)


 クラウディアは実在する人間だ。

 ハーランド王国の王太子、シルヴェスターの婚約者候補でもある。

 そして何より、うら若き乙女だ。

 いくら自分が友好国の王族でも、男である以上、淫らに淑女へ触れることは許されない。

 いや、王族だからこそ、不用意な行動に気を付けねばならなかった。


(立場を忘れるなっ)


 ラウルを監視する目だってある。

 巻き込まないと決めたからには、心を殺せ。

 自分に負の感情はいらない。

 恋心も、いらない。


 政治の邪魔になるものは、全て捨てろ。


 それがバーリ国王である兄の教えだった。


(兄上は、実践しておられる)


 兄にできて、弟の自分ができないことはない。

 そう言い聞かせるものの、上手くいかないのが常だった。

 特に他人が絡むことは。

 だから、どうにかして切り捨てずに済まないか、ラウルは奔走してきた。


(けどクラウディアのことは、オレの心の問題だ)


 負の感情と同様に、自分で決着をつけられる。


(大丈夫、今までだってそうしてきた)


 クラウディアの注意に耳を傾けながら、心に蓋をする。

 しかし誰でもない彼女が、それを邪魔した。

 扇の堅い感触が手の甲を滑る。

 クラウディアに触れられていると錯覚しそうになり、カッと頭に血が上った。


「キミは……っ」


(どうして忘れさせてくれない!)


 放っておいて欲しかった。

 考えなしの行動に呆れて、幻滅して欲しかった。

 冷ややかな目を向けられれば、身の内で燃え上がる炎も鎮火しただろうに。

 向けられる青い瞳は気遣わしげで。

 扇が掴まれたことを怒りもしない。


(優しくしてくれるな……っ)


 なんて自分勝手な考えだ。

 残っていた理性が、ぐつぐつと煮えたぎる熱情に冷や水を浴びせる。

 焼け石に水ではあったものの、深呼吸するきっかけにはなった。

 長く息を吐き、扇を解放する。

 クラウディアと繋がりを持ったままでは、到底気持ちを抑えられそうになかった。

 まだ熱は引かない。

 それでも理性が、頭の中を占めていく。


「けれど今の身分がなければ、ラウル様とお会いすることも叶いませんでしたわね」


「そうだな、身分がなければ出会えなかった……」


 地位が低ければ、公爵令嬢であるクラウディアとは会うことも叶わない。

 王位継承権の放棄は、臣籍降下を意味する。

 クラウディアが王太子妃にもなれば、たとえラウルが上級貴族に落ち着けても、会うのは難しくなるだろう。


(これが一番良いのかもしれない)


 レステーアと共に責任を取るのが。

 自然と視線がそちらへ向く。

 身分差ができれば、クラウディアが手の届かない存在になれば、さすがに諦められるだろう。

 今しがた煽られた熱情も、忘れられるはずだ。

 それに望みをかけて、クラウディアに警告する。

 自分がレステーアを完全に抑えるまでは近付かないで欲しいと。

 クラウディアが目を丸くするのを見て、笑いが漏れた。


(こういう表情もするんだな)


 驚いた顔が可愛くて――切なくなる。


(どうして、こんなにも惹かれるんだろう)


 気付きたくなかった。

 生まれた気持ちに、名前を付けたくなかった。

 けれど、もう、無視はできない。


(クラウディアが好きだ)


 好きだ、どうしようもなく。

 気付いたところで、気持ちに名前を付けたところで、何もできない。

 諦めるしかないのに。


(クラウディアが好きだ)


 気持ちが募っていくのを止められない。


(好きだ)


 愛している。

 衝動的に気持ちを叫びたくなって、話題を変えた。

 唐突な質問でも、クラウディアは嫌な顔一つせず答えてくれる。

 顎に白魚のような指を添えて考える姿から目を離せない。


(だめだ、好きだ。だめなのに、好きだ)


 そして思考は、バカになる一方だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フェルミナ断罪までは一気に読ませて頂きました!その後は惜しくて大事に楽しみに読んでいたら、ここに来てラウルのどストレートの独白が! 切ないですねー。続きを楽しみに読ませて頂きます!
[良い点] 読んでいて、思わず引き込まれてしまう心理描写 皆の心の動きが繊細で引き込まれます
[一言] 逆行前のフェルミナとそれに騙された糞間抜けなクズどもが幸せだというが心底腹正しい 逆行後が幸せなら逆行前はどんなに不幸でも良いと? 反吐が出る
2021/06/13 09:10 退会済み
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