手術の後も大変だ
病室に戻ったからと言って、手術前と同じ生活が出来るわけではない。腕には点滴、股間に尿道カテーテル、鼻は覆われ口呼吸。
しかも熱があるのか頭が重い、全身だるい。意識も、もやもやしていて半分寝ている状態。
ベッドに横になっても、なーんにもする気が起こらない。ベッドから下りるどころか、体を起こすだけでも億劫になる。
医者からは「鼻水が出るような感じはありますか?」と何度も聞かれる。これは髄液漏れの可能性を調べているので、漏れていたら再手術(手術後の縫合のやり直し)だ。
鼻水は出る感じがあるが、鼻が塞がれているので花粉症の時と同じ感じ。鼻の中を通っているのが鼻水なのか髄液なのかわからない。髄液だと流れる感じがずっと続くらしいが詳しいことはわからない。
とにかく1日がだるい。
もちろん病室だからテレビがある。持ってきた電子書籍(私はKindle派)も読める。しかし退屈だ。鼻を塞がれているせいで、食事もあまり美味しくない。
この数日で思い知ったのは「人間、動くのが大事」ということだ。ベッドで寝たままだと、どんどん体が腐っていく感じがする。許可が出ている範囲で動けるだけ動いた方が良い。
私は手術後3日目の夜、とうとう我慢が出来なくなってベッドの上で身悶えるように体を捻り、動かし、ベッドの端に座っては寝てまた体を起こして座り、食事の後は自力で洗面台まで行って歯を磨く。とにかく動きたかった。
翌日の昼過ぎに、強い便意に襲われた。下痢というほどではないが、腹痛に伴い、トイレで用を足す。幸いにもウンコは自分で出来る。トイレで出してベッドに戻って横になると、数分でまた腹痛を伴う便意に襲われトイレへ。それを時間にして1時間弱、3回ほど繰り返すと一気に体が軽くなった。頭の重みや体のだるさがなくなった。
実は、私は体が復調するとき、必ずと言って良いほどこの現象が起こる。なぜかはわからない。風邪でも高熱でも、数年前にかかったインフルエンザでもそうだ。強烈な腹痛を伴う軟便(下痢ほどではない)が起こると、私にとって「もう終わりだから、あとちょっと我慢して」という合図なのだ。
今回もそうだった。さすがに鼻は覆ったままなので呼吸はしづらいし、食事もあまり味わえないが、それ以外の不調は嘘のように消えた。
もっとも、体調が良くなったが故に私は新たな苦しみを味わうことになる。
相変わらず入ったままの尿道カテーテルを通じてなのでオシッコをしている自覚はない。いつの間にか尿を溜めるケースがいっぱいになっている。手術後、尿がよく出るとは聞いていたが、説明されると私は1日4リットルの尿を出しているらしい。通常が2リットル前後らしいので、倍、出していることになる。しかし、新たな苦しみとはオシッコの量ではない。
突然だが、男の見る夢はほとんどエッチな夢という説がある。自分が見た夢すらろくに覚えていないのにどうやって統計を取ったのかは謎だが、妙に説得力がある。というのも、朝、目が覚めたときエッチな夢を見ていた証拠が下半身に現れているからだ(男限定)。
なんでこんな説明をしたかというと、尿道カテーテルは、麻酔中、体の力が抜けているときに付けられる。これが結構奥まで入っている。通常時に奥まで差し込まれたカテーテル。このまま男の朝の生理現象が起きると……そう、めちゃくちゃ痛いのだ! 普段味わうことのない苦しみ。痛いにもかかわらず、なかなか理性で押さえ込むことの出来ない生理現象。
世の男性諸君。入院で尿道カテーテルを入れられた時の心得。それは「心はいつも修行僧」だ。
そして10/2。念願の鼻を塞いでいたのが取れ、詰め物がまだあるとは言え、手術した方だけなので片方は無事。これで呼吸が一気に楽に。尿道カテーテルも取れた。動きも自由。
仲山凜太郎、8割復活!(完全じゃないのがなんとも……)
それにしても、鼻を塞いでいたのを取った跡は衝撃だった。手術当日を含めて5日塞いだままになっていたので、鼻の周りは垢だらけ、鼻の穴は鼻水でドロドロ。それが乾いた鼻くそが鼻の穴周辺にこびりついている。鼻の周囲だけ半ミイラ化している感じだった。しかも傷口への衝撃を防ぐため、鼻をかむことを禁じられた。しかたないので湿らせたガーゼで何度もぬぐい、やっとある程度見られるようになったときは心底ホッとしたものだ。
手術後に感じた大きな変化が視界。病室の窓からの景色を見ていて驚いた。明らかに、手術後は手術前よりも遠くがくっきりと見える。腫瘍が視神経を圧迫していたのがなくなったせいなのか。
気のせいかとも思ったが、術後の視力検査、
「両目とも1.0。問題ありません」
の言葉に驚いた。私は眼鏡をかけた状態でも0.6ぐらいだった。それが両目とも1.0。気のせいではなかった。術後、視界は回復しても視力は回復しないと言われていたので、これはうれしい結果だった。
その代わり、近くのピントが合いにくくなった。持ってきた本が明らかに以前より読みにくい。ピントがぼやける。全体的に目のピントが遠くになっている感じ。
そのことを眼科の検査の時に言ったら「それは老眼ですよ」と言われた。確かに年齢的には老眼になってもおかしくないが。退院したら、デスクワーク用のメガネを作らないといけないか。
何事も、全てに良い結果が出ることは有り得ない。ちなみに、左目の視界に生じた一部欠損はきれいになくなっていた。視神経の圧迫がなくなったおかげらしい。
なくなったといえば、手術後のMRIで下垂体腺腫の肥大部分がほとんど無くなっていた。中身がなくなってぺしゃんこ状態。
「ほど良いヨーグルト状で、すごく取りやすかった。これだけ取れれば死ぬまで大丈夫ですよ」
が担当医の談。再発の心配はほぼ無いらしい。よかった。ホルモン分泌も一部を除いて問題なし。その一部も投薬でなんとか出来る範囲。
そして10/8、入院して15日目。無事に退院した。
外を見ると台風の影響で雨。入院した日と退院した日が両方とも台風の影響下というのは……。私は雨男ならぬ台風男なのか。それならいっそ直撃してくれれば諦めもつくのだが、両方とも微妙にずれた。中途半端な台風男である。