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こっそり守る苦労人 〜黒き死神の心〜  作者: ルド
血に塗れた冬の悲劇。
23/33

第22話 ????。

遅くなりました。

カクヨム様の方が落ち着いたんで、更新となります。

このまま章の終わりまでいきます。

【????side】


「……」


 その様子を――から眺めていたソレが抱いた気持ち。――それは『失望』であった。

 

 なぜ、あそこで手を止めるのか。

 なぜ、あそこで心が揺さぶられるのか。

 なぜ、思い通りにならない。


 この為に悪夢を見せ続け、感情を惑わせたというのに。


 長い時間を掛けて異能者を殺す(・・・・・・)――『殺戮者』に変えてみせる。……筈だった。


 事実、途中までは上手くいっていた。

 疑念を抱かせる余地は一切与えず、常に側で(・・・・)彼をコントロールしていたつもりが。


 いったい何処で間違えたのか。……彼の前で気配を出したことなど一度もなかった筈が。


 ……もしくは、まだ足りなかったのか。


 彼の全てを掌握したつもりが、まだ人間らしい部分を残してしまったということか。

 最後の最後で、あの女の声が彼の心の奥底まで響いてしまった。

 

 結局、無駄だったということか。

 ただ彼を手に入れる為の障害を排除したかっただけなのに。彼女の望みを(・・・・・・)ただ叶えたかっただけなのに。


「……」


 2人の様子を眺めていたソレは作戦を変更する為、――の意識を少しずつ奪い始める。

 ――全てを終わらせる為に。 





 未だに違和感の答えを見つからない。何故手を止めてしまったのか、俺は俺自身が分からなくなった。


 幼馴染だろうが関係ない。凪は裏切っていた。妹を襲おうとした時点でそれは確定した。筈だが……。


「ケホケホ……っ!」


 俺の拘束から解放されて、直前まで首を絞められていた所為で咳が酷い。気絶させる要領だったので殺すつもりなかったが、ギリギリのところだったのでかなり辛そうにする。


 当然だ。ここまで追い詰めたのは俺なんだから。

 なのに自分の意思ではなかったかのような驚いて、彼女の首を絞めていた手と心臓の激しい動揺の震えに思考回路が大混乱していた。油断したら過呼吸になりそうだ。


「凪……俺は」


 何か言うべきだが、言葉が出ない。というか思い浮かばない。

 こんなに緊張するような俺だったか? マズイ、思考が定まらな……


「ま、間違っていたとは、言わない……。頼ってばかりなった原因は、私たちが弱かったから」


 ここで呼吸が落ち着いたか、座り込んだままであるが、こちらに視線を凪が見上げてくる。


「零はきっと正しかった。いつも最善を尽くしてたのだって分かってたよ。けど……それだけじゃ駄目だ」


 体の調子を確認しながらゆっくりと立ち上がる。狼狽える彼の視線と合わせて、乱れていた息を整えて語ろうとする。


「昔の零だったらきっと見えてた。けど、力に溺れた今の君じゃ身近な存在の違和感にも気付けない」

「い、違和感って……」

「おかしいって少しでも思わなかった? 今も感じない?」


 否、違和感はある。あるんだ。

 けど、その正体が見えない。どうしても(もや)が出て辿り着けない。

 目の前の凪は気付いているようだが、身近な存在の違和感とはいったいどういう意味だ?


【黒夜】も力を得たことで俺は何を失った?

 何も失ったつもりなんてなく、ただ自分自身を成長させることが出来たと満足していたが。


「私も自覚がないのが重症だったと気付くべきだった。やっぱり止めるべきだった」


 悔しげな表情で俯く凪。ただ俺が打ち込んだ箇所が痛いだけかもしれないが、こんな顔をする彼女も珍しい。 ここまで来ても俺はどうしたらいいのか分からず、とりあえず何か謝ろうと……


「おにぃちゃん……」

「っ!」


 声を掛けられて思い出した。急な展開の所為かそれとも無意識に逸らしていたか。


 どっちにしても最悪の展開だ。 狙われていた妹の存在を忘れて、凪に何度も暴力を……っ


「どうしてなぎおねぇちゃんを……」

「あ、いや、これは……その」


 振り返ると怯えた顔と震える瞳をした妹が俺を見上げていた。

 それだけならいつもと似た感じでなんとなりそうであるが、今回はそれに加えて青ざめた顔と溢れ出ている涙がハッキリと見える。……見ているだけで胸が張り裂けそうな気分だ。掻きむしりたくなる!


「立ち入り禁止だった屋上に上がったのを怒っているの? それともパパやママと一緒に来なかったから? ……もしかしておにぃちゃんに内緒で来たから?」


 しかし、この事態を引き起こしたのは俺である。襲おうとした凪の動機は未だに不明であるが、何も知らない葵がまともに理解できる訳がない。


「いくらなんでも……こんなのひどいよぉ。……なんで、なんで、なぎおねぇちゃんを」


 当然ながら待ってなどもくれない。

 涙目の妹に睨まれて情けなく取り乱す。本当にどうしたら……


「答えて……答えてよ、おにぃちゃん!」 

「っ!? 葵……」


 声を荒らして叫ぶ葵。遂にその目は怯えだけじゃなく、敵意も含まれているのを感じた俺は何も考えれなく―――





「決まってるじゃない。君がそう誘導させたからでしょう? 葵ちゃん(・・・・)

「ふえ? ……わ、たし?」




「は? 凪、お前?」


 何を言った? 今。

 告げられた途端、ポカンとする俺と葵。俺もそうだが、言われた葵も意味が分からず涙目のまま首を傾げて凪を見つめていた。


「理由は極めて単純。昔から邪魔だった私を始末したかったから。自らじゃなくて零にやらせようとしたのは、零を意のままに操れるかテストしたかったから。……見事に失敗したようだけどね」

「な、なぎおねぇちゃん?」

「さっきの零の話からして英次くんにも何かしたのかな? 彼は能力も凄いし勘も鋭いから厄介になる前に片付けたかったってところ?」

「な、なに言ってるのなぎおねぇちゃん……っ!? さっきからなに!? 言っていることが全然分からないよっ!?」


 それはそうだ。凪の話は完全に異能世界の話だ。能力にも目覚めてない一般人の葵に分かる筈がないのに。……何故、凪は葵が分かっていることを前提で話す? これじゃまるで葵が本当は知ってるかのような……




「そうだよね。今の(・・)葵ちゃんにはチンプンカンプンで分からないよね。だからさ、早く交代してよ(・・・・・・・)



 告げながら拾い上げたのは、先ほど俺が首を絞めている最中に落とした鉄の杭。

 その行動を見せた途端、俺もすぐ動こうとしたが、視線を葵からこちらに移した凪の鋭い眼光が俺を射抜く。


「今度は止めないでね、零。――本当の意味で葵ちゃんを助けたいなら」

「――っいや、おねぇちゃん!」


 ……俺は動けなかった。

 怯えたように取り乱す葵の悲鳴が耳に突き刺さるが、何が正しいのか判断が付かない。

 俺の横を駆けるように葵に迫る凪をあっさり見送ってしまった。


「なんで、なんでなの! おねぇちゃん!?」

「うん、ごめんね葵ちゃん」


 振り上げる杭。

 恐怖で歪む妹の顔。

 見ていることも出来なかった俺が思わず逸らしそうになった―――瞬間。














「――アハハ、それは(・・・)流石に困るよねぇ〜」














 怯えた瞳が消えて、濁った色をした(ソレ)がこちらを覗いた。


 刹那、彼女の姿が霧のように消える。


 凪の一撃が空を切っただけに終わると。




「こっちだよぉ? お・に・い・ちゃん」

「……?」




 次の瞬間、背後から彼女の声がして不意に振り返る。

 すると見たことない満面な笑みをした葵がこちらを見上げて……



「ッ――零ィっ!!」

「じゃあ――死んで?」



 手にしていた見覚えのあるナイフが俺の腹に突き刺さった。

 僅かな躊躇いすらない一撃を前に俺はただ立ち尽くすだけ。夢でも見ているかぼんやりとした思考の中で、間近で立っている妹を見つめていた。


「あ、あお……い?」

「は、はは、はははははは……! アハハハハハハハハハハハハハハっ!! アハハハハハハハハハハハハハハっ!! アハハハハハハハハハハハハっ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!」


 彼女はあっさり突き刺したナイフを引き抜くと、俺の腹から血が噴き出す。

 狂ったような高笑いをした彼女は、まるで血に酔ったかのようにその場で舞う。


 その姿はもう俺の知っている妹とは明らかに異なっており、俺の視界には妹の姿をした別の何かにしか映ってこなかった。









 第22話『いもうと』




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