気付いた気持ち
初めて会った日から、また毎日のようにメールをした。
電話は1回だけ。
そういえばサトツさんてどんな仕事をしているんだろう?
いつメールしても返信が早いんだよね。
内容はいつも他愛もない話。
そしてまたあっという間の1週間が過ぎた。
2度目の対面。
先週と同じ駅で待ち合わせ。
待ち合わせより少し早い時間の電車に乗って来てくれる。
こういうのも気遣いだよね。
本当に色んなことをスマートにこなしていて、それを感じさせない振舞いがすごい。
…モテるんだろうなぁ。
仕草や話し方も穏やかで柔らかい。背も高いし容姿もいい。
彼女の1人や2人いるよね。
年齢的に結婚してるって事もある⁉︎
でも確か指輪はしてなかったよね?
ぐるぐる考えていると頭に手を乗せられた。
顔を上げると、いつの間にかサトツさんが笑顔で立っていた。
『1週間ぶり』
『…1週間ぶり』
少し早めのランチをしてまたカラオケに行った。
2人きりでゆっくり話したいって。
『いきなり本題だけど、メンバーは満場一致でりえをボーカルに迎えたいって言ってる。…俺たちのメンバーになってもらえるかな?』
『…私で良ければ…?お願いシマス』
謎に疑問形で、謎に片言で返してしまった。
だって、どんな反応していいかわかんなかったんだもん!
私の返事を聞いてサトツさんは盛大に笑ってた。
うん、変な返しだったよね。自覚はありますとも。
でも活動の拠点は都内なのかな?
私そんなに頻繁に行かれるかわからない。
…主に金銭的な理由で。
片道1時間半。
高速バス使っても往復6000円はするんだよ⁉︎
状況を察したのか、元々決めていたのか、サトツさんが口を開いた。
『俺を含めた他のメンバーは集まって練習するんだけど、りえは大変だと思うから練習出なくていいよ。その代わり、音源渡すから自主練してくれる?成果は俺が見にくるから。』
ほっとしたのと、疎外感が半分づつ。
他のみんなは集まるんだぁ…。いいなぁ。サトツさんにたくさん会えるんだ。
『とりあえず、これ。
オリジナルのデモなんだけど、俺が歌入れてるからこれで覚えてもらいたい。』
1枚のCDを渡された。
その後はまた2人きりのカラオケ大会で盛り上がった。
やっぱり楽しい!
たっぷり歌って、その後はまた駅まで並んで歩く。
ふと手が触れた。
そのまま掴まれて、手を繋いだまま歩いた。
私より少し体温の低い、大きな手。
恐る恐る顔を見ると前を向いたまま少し照れた様子のサトツさん。
なんか、学生の頃より青春してるかも⁉︎⁉︎
恥ずかしくて、嬉しくて、その後は何を話したか覚えていない。
改札で見送ってから、車に乗る。
しばらく余韻に浸ってぼーっとしていると、メールが届いた。
『今日はありがとう。
これからはバンドメンバーとしてよろしく!』
メンバーかぁ。
ついさっきまで嬉しかったはずなのに、『メンバー』の文字に落ち込んだ。
受け取ったCDをオーディオに入れて再生した。
サトツさんの声が流れた。
堪らなくなって、少し泣いた。
『私、サトツさんが好きだ』