変化
初めてサトツさんにに会ってから1年半が過ぎていた。
相変わらずさゆりさんのレッスンに通っていて、休日にはサトツさんと会って、穏やかな日々が続いている。
一つ気掛かりなのは、まだメンバーを紹介されていない事。
写真は見せてもらった事がある。
サトツさんと私以外に3人のメンバーがいるらしい。
ギターのTAKA
ベースのRyo
ドラムのYama
年齢はサトツさんと同じか、少し若いくらい。
私が最年少だって。
結成1年半のバンドとしては年齢層高めかな?
最近、思う事がある。
今日は思い切って話してみよう!と朝から気合を入れているわけです。
待ち合わせ場所に着くと、既にサトツさんが待っていた。
車でのお出迎えです。
未だにサトツさんに会う時はドキドキする。
これだけはなかなか慣れてくれない。
他愛無い話をしながら、行き先を決める。
今日はどうしても話したい事があったから、ゆっくり話せる様に私の部屋へ来てもらうことにした。
何気に部屋に呼ぶのって初めてなんだよね。
ちょっと恥ずかしいけど、周りを気にせず話せる場所ってなかなかないから仕方ない!
『私、仕事辞めたの。』
フリーズするサトツさん。
『私、仕事辞めたの。』
聞こえなかったかな?と思ってもう一度言う。
『……あ、そうなんだ。次はもう決まってるのかな?』
サトツさんがやっと絞り出したのがそんなセリフだった。
『決めてない。この部屋も、来月で契約満了だから引き払う予定なんだ。』
うん、どうやら、サトツさんは珍しく私の意図を図りかねているみたい。
『サトツさん、私ね、東京へ行こうと思ってる』
あ、なんか間違えた。
これだけ聞くとお花畑みたいじゃん!
『えっと、仕事は元々転職を考えてて、だから今より選択肢の多い場所に行こうって思ってて、ちょうどアパートの契約も切れるし…』
言い訳するみたいに早口で喋る私をサトツさんが抱きしめた。
『りえ、オレのところへ来ない?』
……。
『へ?』
なんとも間抜けな返事だと思う。
密着した身体を離すと、サトツさんが少し照れ臭そうに言った。
『りえがいいなら、だけど。うちには部屋も余ってるし、一緒に住もう?』
……。
今度は私がフリーズする番だった。
『えっと、それって…』
突然のことに全く思考の付いていかない私に丁寧に説明してくれた。
『りえが来てくれたらいいなぁ、って前から思ってはいたんだ。もっとたくさん会えるし、それに、ずっとメンバーに会った事がないって気にしてたじゃない?練習にも顔出しやすくなるし。でもりえの生活もあるから言い出せなかったんだ。』
あ、やばい。
なんだか嬉しくてじわりと目頭が熱くなる。
重いって思われたらどうしよう、とか、そんなつもりじゃなかったとか言われたら立ち直れない、とか、悪いことを沢山考えていた。
でも、サトツさんはやっぱりそんな人じゃなかった。
もう、泣きながら頷く事しかできない。
サトツさんも嬉しそうに抱きしめてくれる。
『これからは好きな時にいつでも会えるね』
私だけじゃなかったんだ。
もっと会いたいって、距離がもどかしいって思ってたの。
その日はそのままサトツさんも私の部屋に泊まっていくことになった。
『本当はりえの部屋にも来てみたかったんだ。誘われてもないのに女の子の部屋に行きたいなんて言えないし…。誘ってくれてありがと』
そんな事思ってくれてたんだ。
やっぱりサトツさん、大好き!
夕食は初めて手料理を振る舞った。
実は、料理は結構得意だったりする。
サトツさんは何を食べても嬉しそうに美味しい、美味しい、って言ってくれて、なんだか私が恥ずかしくなっちゃった。
仕事は昨日までて終わり。
後は有給消化のみ。
アパートは来月まで借りて、その間に就職活動をしようと思ってたけれど、サトツさんに甘えて今月いっぱいで引き払うことにした。
それから、いい機会だからライブをやらないかって。
2ヶ月後にイベントの誘いがあるらしく、私がフリーなら出てみようって。
初めてのステージ…。
上手くできるかわからないけど、せっかくならやってみたい。
こうして、退職・引越しと同時に、初舞台も決まった。




