スタジオで。
私とサトツさんを残すと、スタッフさんはフロントへと戻っていった。
スタジオって実は初めて入ったんだよね。
見学の時も外から少し覗いただけだったし、普段のレッスンでは入る機会がないの。
なんてゆうか、よくアーティストのレコーディング風景がテレビで流れるじゃない⁉︎
本当にあんな感じ。
ガラス越しにマイクの置かれた部屋があって、手前に機材がいろいろ置かれた部屋がある。
機材が置かれた部屋へ入ると、サトツさんが近くにあった椅子を移動させ、斜め向かい合わせの様な位置で座る様に促された。
『今日はさ、レッスンの成果を見せてもらおうかな!』
と、いたずらっ子の様な笑顔で言った。
この表情を見るのは2回目。
…なんか楽しんでる。
『いいけど、呼吸法とか発生練習メインでやってるから、歌の練習はまだほとんどしてないんだぁ。…あんまり期待しないでね!』
そう言い終わるか終わらないかの時に、ノックの音が聞こえた。
サトツさんがドアを開けると、さゆりさんがいた。
『お待たせ!りえちゃん、今日はサトツさんがレッスンの成果を見たいんだって!…絶対びっくりすると思う。頑張ろうね。』
そう言うと、私に向かって可愛らしくウィンクして見せた。
黙ってるとクールな印象なのに、喋ったり動いたりすると表情が豊かで、本当に私から見ても可愛らしさとカッコ良さを兼ね備えた素敵な女性なんだよね。
初めて会った時は嫉妬でドロドロしたけれど、サトツさんがこの人を好きだと言うのならば納得だし、なんなら私に勝てる要素なんて一つもないので応援しちゃうかもしれない。
さゆりさんと2人でガラス越しのスタジオへ入ると、いつものレッスンの様に呼吸法と発生練習をした。
ひとしきり終わって、いい感じに声が出る様になったところで、先ずは通して歌ってみる。
曲はサトツさんに渡された例のCDの曲。
さゆりさんとサトツさんの2人に指導を受けながら歌い込んでいく。
まだまだ2人には遠く及ばないけれど、それでも以前に比べると声が出ている気がする。
…気がするだけだから実際のところはわからないけどね。
休憩を挟みながら半日かかってようやくサトツさんから満足気にOKをもらえた。
今日の感覚を忘れないようにしないとね。
『ところで、ライブとかやるんですか?』
これだけ練習したんだから、どこかで歌うんだよね?と思って聞いてみた。
『ん〜、今のところ予定はないかなぁ…。』
……。
え、ないの⁉︎
こんなに練習したのに⁉︎⁉︎
思わず口走りそうになったけれど、言葉を飲み込む。
ま、まぁね。私がボイトレしたいって言って、その費用を持ってくれてるのがサトツさん。練習の成果を見せるのは当然だよね。
なんとか自分を納得させる。
……が。
てゆうか、バンド活動何もしてないんですけどぉ⁉︎
いや、初めは軽い気持ちで始めましたけどね?けどさぁ、なんかもうバンドやってみたい気持ちになってるのに未だにメンバーすら知らないってどうなの⁇
そもそも本当に他のメンバー存在してるの⁉︎
実はサトツさんと私だけでしたって事ない⁇
や、それならそれでも良いんだけど……いや、良くない!良くない…よね?
やっぱり納得できなーい‼︎
『サトツさん、私、他のメンバーの皆さん、まだ知らない、んですが…』
どうやって聞いて良いか分からなくて、しどろもどろになりながら口から出たのは、なんともどストレートな言葉。
一瞬目を細めたサトツさんは、直ぐにいつも通り穏やかな表情に戻った。
『そうだよね、いずれ紹介するから、もう少し待ってて。とりあえず今度みんなの写真でも撮ってくるよ。』
そう言うと、子供にするみたいに頭をポンポンされた。
さゆりさんにお礼を言ってスタジオを出ると、外には沢山の生徒たちが集まっていた。
みんな一斉にサトツさんとさゆりを囲み、私は輪から弾き出された。
はぁ。
なんか、こんなんばっかり。
てゆうか、さゆりさんはともかく、なんでサトツさんも囲まれてるんだろ?
確かにカッコいいけどさぁ…///
いや、カッコいいだけでこんなに群がる⁉︎
輪の中でも、一際甲高い声の女の子の言葉が耳に入った。
『サトツさんのファンなんです!解散してから活動再開するのずっと待ってて…、こんなところで会えるなんて…』
後半は感極まって泣いてる様だった。
他の面々もどうやらサトツさんのファンらしい。
へぇ。
前のバンド解散したって聞いてたけど、結構有名だったんだぁ…。
本当、私は何も知らないんだ。
あぁ、また落ち込む。
そもそもそんなに有名どころなら私なんかボーカルに迎えないでももっと上手い子いくらでもいるんじゃない⁉︎
……メンバーに合わせてもらえないのって、そういう事なのかな…。
久しぶりに会えたのにどんどん黒い気持ちが膨らんでく。
もう帰りたいなぁ。
突然、さゆりさんが大きな声で言った。
『さぁ、みんなそろそろ道開けて!彼、この後も予定があるの。気持ちはわかるけど…でもね、近々嬉しい報告が聞けるかも』
顔を上げると、さゆりさんに少し諫める様な視線を向けながら、『ごめんね』とファンの子達に声を掛けながら人垣から抜けてきたサトツさんは、私の腕を掴むと足早にスタジオを後にした。
何人か追ってくる様子もあったが、足早にエレベーターへ乗り、駐車場へ着いた頃には誰もいなくなっていた。
『待たせちゃってごめんね。』
そう言って助手席のドアを開けてくれる。
こういう所がとってもスマートなんだよね。
慣れてるってゆうか…。
嬉しい反面、いろいろと勘ぐってしまう。
サトツさんが運転席に乗ると静かに車が動き出した。
聞いてもいいのかな?
少し考えていると、信号待ちでサトツさんが先に口を開いた。
『ねぇ、この後時間ある?久しぶりにゆっくりしたいんだけど?』
甘える様に視線を送ってくる。
ドキッとする。
男の人なのに妙に色気がある。
私だって一緒にいたい。
こんな聞き方されたら断れるわけないじゃん。
軽く手を握られて、車が動き出す。
久しぶりにサトツさんと触れ合えて、さっきまでの黒い気持ちはスッと抜けていった。
後に残ったのは微かな熱と、期待。
ホテルへつくと、どちらともなく抱き合ってキスをした。
あぁ、これも、久しぶり。
満たされたく。
私、構ってもらえなくて拗ねてたのかも。




