初レッスン。
見学へ行った翌週からレッスンが始まった。
担当講師はもちろん、さゆりさん。
まずは自分の好きな様に歌って、それから基礎の呼吸法や発声法の練習。
最後にそれを意識しながら歌う。
だった一度のレッスンで、自分でも驚く程変化を感じられた。
まだまだ身体が追いついていないけれど。それでも、呼吸を意識するだけ、発生を丁寧に行うだけでも声が出しやすい。
それにしても、さゆりさん。
予想はしていたけれど、凄すぎる。
発生練習だけでも声量や声の伸びが別次元。
周りからはよく歌上手いね、なんて言われてそこそこ自信があったけれど、やっぱりそれを生業にしている人達とは比べ物にならない。
呼吸法ならどこでも練習できるもんね。
少しでも近づける様に頑張ろう。
その日から週2回、レッスンに通った。
仕事帰りに片道40分を通うのはぶっちゃけ楽じゃない。
それでもそんな事どうでもいいくらいに、やり甲斐と楽しさを感じているのだ。
慌ただしい日々の中、3週間という時間は今まで以上にあっという間に過ぎた。
あの日以来、サトツさんと2人きりで会うのは初めてだ。
いつも通り、駅で待ち合わせ。
…でもこの日、サトツさんは電車ではなく車で来ていた。
黒のSRV。
車に興味のない私ですら一目でわかる、海外の有名自動車メーカーのものだ。
てゆうか、サトツさん、車持ってるんだぁ。
都内なら無くても困らないだろうに。
助手席に乗ると、今日は少し移動すると言われた。
なんとなく気まずい…。
何を話したらいいのか思い付かずに言葉に詰まっていると、サトツさんが口を開いた。
『ボイトレどう?』
最初は遠慮がちに話し始めたけれど、サトツさんも以前はレッスンを受けていたらしくて、気が付くとどんどん前のめりになっていた。
そんな私をみて、サトツさんは目を細めて笑った。
…こういうところがサトツさんて大人だと思う。
そして、私って本当に子供みたい、とも思う。
そうこうしているうちに気まずさはなくなり、いつも通りの心地良い時間が流れた。
目的地に着くと、そこは私が通うボイストレーニングのスタジオだった。
後をついて入口を入ると、カウンターにいたスタッフが軽い会釈と共にカウンターから出てきた。
『こんにちは。お久しぶりですね』
笑顔で挨拶をするスタッフにサトツさんは
『久しぶり。今日はよろしくね。』
と、こちらも笑顔で返した。
そのままトレーニングルームを通り過ぎ、一番奥にあるスタジオへと案内された。




