しこり。
結局、その後は何を話したのかほとんど覚えていない。
私たちの関係に名前をつけたくて(この場合の名前は【恋人】一択なんだけど)、どう切り出そうかとタイミングを伺っていた。
そのせいで、サトツさんとの会話を聞き流すという失礼な事をしてしまった。
駅まで送ってもらって別れた後、新幹線の中で何度もメールを打っては消しを繰り返した。
結局なんて書けばいいのか答えが見つからず、マニュアル通りのお礼メールをするに留まった。
サトツさんからのメールで一つ思い出した事がある。
帰り際に私が言った言葉。
『ボイストレーニング、やってみようかな?』
元々そんなにやりたかったわけではないけれど、ボーカルなのに楽器担当のサトツさんより下手では格好がつかない。
それに、昨日、散々ダメ出しをされたのが地味に堪えていた。
深く考えずに放ったセリフに、サトツさんは思いの外食いついてきた。
『それなら、知り合いが講師をしているから紹介するよ!』
あれよあれよという間に、顔合わせの日時が決まっていた。
…いいの。
どうせ休日の予定なんて寸前まで決まらないし、一日中ゲーム三昧する事だってある。
1人で人◯ゲームやり込んでるって友達にバレた時は、ちょっと引かれたんだった。
そんなわけで、早速次の休日にはサトツさんのお知り合いの方に会う事になった。
その週は忙しかったとかでほとんど連絡がなかったが、前日になると待ち合わせ場所の連絡がきた。
意外な事に、私の住む県内にいるらしい。
待ち合わせ場所には電車で行く事にした。
車だと1時間もかかるし、電車なら途中からサトツさんと合流できる。
当日、新幹線の乗換駅で合流したサトツさんは珍しく眼鏡をかけていた。
黒いフチのついた、やや大きめなメガネだった。
イケメンは何してもカッコ良くしかならないな…。
あれ以降初めての再開だったのと、連絡も疎遠になりがちだった事もあって言葉に詰まった。
心なしか、サトツさんもよそよそしい気がする。
目的地まで30分ほどの電車の旅は少しの気まずさを残した。




