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第一章-始まりはいつも血の雨-<其の一>

冬。


暖かな日光が、部屋の窓から輝くように差し込んでいる。というより、それは暑いくらいの日光だった。

だからと言って、外に出ても少しは暖かいんじゃないのかと意気揚々に玄関を開けたのは間違いだった。

途端に我が家に入り込んでくる冷たい冬風。冷風が顔を、身体を瞬く間に冷やしていく。


馬鹿なことだと分かっていた。


温暖化が進んでいるとはいえ、12月が暖かいわけないじゃん。


「……さむっ」


一言呟いて、俺こと佐伯和也は全快にした扉を閉めた。

うわ言のように寒い寒いと呟いて、リビングにあるストーブまで駆け寄る。

隣には、台所で包丁を持ち、トントンと軽快なリズムで野菜を切る母親の姿が見える。

……ん?


「母さん。そろそろストーブの石油が無くなるよ。給油したほうがいいんじゃないか?」


「あら、そう? それじゃ和也。玄関にある給油ポンプから石油を入れてきてくれない? 母さん、今は手が離せないから」


「あぁ、分かった。玄関だな。入れてくるよ」


エプロン姿で料理をする母を尻目に、玄関まで小走りで走る。

片手には、石油を入れるための容器。

名前は忘れた。まぁ、覚えなくても必要ないだろう。


玄関の靴箱の横から、買い置きしていた給油ポンプを取り出し、容器の蓋を外して石油を入れていく。

手慣れた作業でそれを満タンまでいれ、ほどよい重さになったところで蓋を閉める。

よっこらせっ、と声に出しながら、石油が入った容器を持ち上げる。その時、ピンポーンという、ごく普通の家庭にありきたりな呼び鈴が鳴った。


「あ、はーい。どちら様ですかー?」


石油の容器をその場に下ろし、玄関越しに尋ねる。

すると、外から若い青年の声が元気よく聞こえてきた。


「こんにちはー! シロネコヤマトの宅急便でーす! お荷物をお届けに参りましたー!」


「あ、それはご苦労さまです。今あけますねー!」


応じるように俺は玄関の鍵を開けて、ドアを開けた。

だけど、そこで待っていたものは、もはや宅急便とは呼べない代物だった。


「……でかッ!?」


俺の家に届いた宅急便。

それの全長は、おそらく俺の20cmは越すであろう大きなダンボール。

「シロネコ便」と周りに貼られてあるシールは大きさ故に何重も使われているのか、トレードマークである猫の絵が「無駄遣いニャ……」と言わんばかりに、もの悲しげな表情に変わっているように見えた。


縦に入れても横に入れても、絶対に玄関で詰まるよね、これ。


「そ、それじゃあ判子をもってきますね」


巨大な宅急便に少しだけ驚きを隠せないまま、俺はリビングまで向かおうとする。


「あ、判子は結構ですよ。ご本人様の名義と肉印をして頂ければ」


だが、そんな俺に笑顔が眩しい宅急便の兄さんが優しく言う。


「え、ご本人って……俺ですか?」


「はい、佐伯和也様宛にお荷物が届いております。是非ご確認をお願いいたします」


「俺宛に……?」


住所や郵便番号、電話番号などが記載されたところを確認する。

そこには、確かに俺の名前が書かれてあった。

そして、その送り主が……


「佐伯達也……って、これ父さんの名前じゃん」


俺の父親の名前が、流暢な文字で記されてあった。

珍しい。研究所に篭って、そこいらのニートと同じような生活に陥っている父から届け物とは。

昔っから怪しげな研究をして、そのまま家に帰らなくなってから5年は経ったが……まさか生きているとは思わなかった。

まぁ、携帯に何通かメールや電話が入っていたりするのだが……全部ウザくて無視してたし。着信&受信拒否は当たり前だったし。


自分の名前を確認すると、俺は肉印を押して領収書を受け取り、荷物を受け取った。

宅配お兄さんは「またどうぞー!」と一言言って、駆け足でその場を離れていった。

それにしても……この宅配物、重い。まるで、人間を担いでいるような重量感がある。


「一体、父さんは何を送りつけてきたんだろ……ったく」


悪態をつきながら、よろよろとした足取りで玄関に入る。

そのまま荷物を落とさないように細心の注意を払いながら、階段を上って2階の自室へと運んだ。




「よいしょ、っと」


ベッドの上に宅配物をぼふっと乗せ、その横に座る。

改めてじっくり見れば、本当に大きなものだ。


「……っていうかコレ、本当は人間でも入ってんじゃねーの?」


まじまじと箱を見つめ、苦笑する。

アホか。普通に考えて、人間なんて入ってるわけないだろ。

もし入ってたりしたら、父さんを警察に連れていくって。うん、絶対に。

法廷で「悪気はなかったんです。つい魔が差しました!」って言わせてやるよ。


ま、そんなどうでもいいことを考えても埒があかないので、大きな段ボール箱をベッドに寝かせる。

そしてカッターナイフを机の引き出しから取り出し、器用に封を開けていく。

何だろな〜という好奇心もあってか、ちょっと乱雑に封を開けてしまう俺は大雑把なのかな。


よし、中の物のご対面♪ っとちょっとだけワクワクしながら、最後のダンボールの封を開けた。


…………。


…………。


…………。


…………うん。


あの……これは、何?


少しばかり、考える時間をください。


目の前のダンボールに入っている摩訶不思議アドベンチャー的なものの存在を認識するまで、時間をください。


よし、頭の中で整理がつきました。説明します。

簡潔に説明すれば、箱に入っているものはただの宅配物ではありませんでした。

それと同時に、自分の父親に激しい憎悪が湧き上がってきました。えぇ、信じていたのに裏切られた気分です。

あ、元々信じているつもりもありませんが。

とにかく、父親には明日辺り警察に行ってもらいます。そして俺の手で顔面にパイをぶつける予定です。

もちろんジョークとかではなくて、17年間育てて頂いて誠にありがとう。でもアンタには12年しか育ててもらってないよね、という感謝の意を込めて。


さて……長々と話しましたが、その中にあったものを発表します。


簡単に言います。


フリフリのメイドです。


その一言に尽きます。


父親……あ、いえ訂正します。ファッキンファーザーは金髪のメイドさんを送り届けやがったのです。






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