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プロローグ

ここはどこかの研究所。そして、研究所の地下施設。

密閉された地下という空間の中、最奥の研究室から不審な声が聞こえてくる。

中を覗けば、そこには大きな棺程度のダンボール箱に、白衣を着た男女が二名、腰を屈めてその中身を確認していた。


「ふふふふふ……」


白衣を着た40代半ばの中年男性は、その脂ぎった顔で箱の中を見つめ、いやらしい笑いを漏らしていた。

それを見て、同じように白衣を着た女性が、ゲテモノを見るような顔つきで口を挟む。


「博士。脂ぎった顔で笑わないでください。純粋に気持ち悪いです」


激しく同意です。


「おおぅ、霧絵くん。その一言で私は純粋に傷ついたぞ!? ちょっとだけ心に傷が入ったよ!」


その箱に入っているものから目を離し、博士は横に立っている女性に向けて言った。


「あら、博士に純粋さなんてありました? それは以外です。私には、肥えた豚が欲情した時の顔にしか見えなかったので」


白衣を着た女性――霧絵は、そう言いながら博士に向けて微笑んだ。

微笑みの下に隠された哀れみたっぷりの蔑みは、もはや言うまでも無い。


「私は豚ではないぞ! 確かにここ最近は体脂肪が増えているが……それでも私は豚のように醜くない!」


「いえ、豚のように醜いのでは無くて、博士自身が豚以上に醜いんです。改めて実感しました。気持ち悪いですね……あ、いえ訂正します。改めて実感しました。キモいですね」


「それは訂正に入っているのだろうか……?」


博士は悩み顔で腕を組み、首をかしげる。改めてキモいですね。


「と、とにかくだ! この《Type-AX1736》は和也にとって絶対に必要になる! 私が保証する!」


握り拳でその箱に包装されたものを見つめながら力説する。

博士のその脂ぎった顔から脂ぎった汗が滴り落ちて、霧絵はグロテスクなものを見つめるかのような顔つきになる。


「……ところで、何故この女性ロボットは裸なんですか? 無駄に巨乳なんですか? ……あぁ、成る程。博士の趣味ですか。だからさっき笑ってたんですか。本当に腐った豚ですね。あなたが人間だということに驚きを隠せません」


霧絵は、博士こと腐った豚に尋ねた。

腐った豚は、眉間にしわをよせて喘ぐように言う。


「私は腐った豚じゃないぞ! それに、巨乳は私の趣味などではない……男の「ロマン」だからだ!」


「そうですか。では博士。私の半径3m以内に近づかないでください。近づいたらその男のロマンと共に博士の眉間に発砲します」


「え、それ酷くね?」


引きつった笑顔を見せ、霧絵から数歩後ずさる博士。

腐った豚でも発砲は怖いらしい。命まで取られるとは本人も思っていなかったのか、ダンボールと霧絵から離れ、研究室の外の扉から中の様子を伺う。


「……後はそれを和也の所まで輸送するだけか。よし、霧絵くん。ちょっと宅急便を手配してくれ」


「分かりました。シロネコヤマトの宅急便ですね」


霧絵は腐った豚の指示通り、ポケットから携帯を片手に取り出すと、手馴れた手つきでボタンを押す。

コールがかかり、電話にでる霧絵。それに対し半径3mを越えないように、こっそりと研究室内に入ってくる腐った豚。


その時だ。


「なぁ、霧絵くん……せめて半径3mじゃなくて2mにしてくれないかウィィィィィ!?」


「どうしました博士。ついに豚として覚醒しましたか? それはいけません。今すぐ楽にして差し上げますね……って、これは……」


霧絵は一旦電話から耳を離し、腰に携帯してあったリボルバーに弾を装填しつつ、博士の眉間に向けて発砲しようと焦点を定めた。

だが、その焦点を定めた博士の後ろにいる人物に、霧絵は驚きを隠せなかった。

そう、そこには……


「ちょ、霧絵くん! 私マジで感じてるよ! ナイスバディの夢心地にトリップしているよ!」


金髪碧眼の、髪の長い女性がそこにいた。


そいつは……まちがいない。先ほど宅急便で送り届けようと思っていたロボットだった。

先ほどまで包装されていたロボットが、いつの間にか起動し、博士を襲っていた。

それはもちろん性的な意味ではなくて、危険な意味で。

ロボットは博士の首筋に手を回し、羽交い絞めの状態に持ち込んでいる。

博士自身は、その押し付けられたロボットのナイスバディを、にやけ顔で堪能していた。


本当に死ねばいいのに。


霧絵は、博士に向けて聞こえるようにつぶやいた。

その言葉に応対するかのように、博士を羽交い絞めをしているロボットから、機械的な声が漏れてくる。


「キケン……感知……ジョウホウ……削除……博士……マッサツ……」


「え、今なんか抹殺とか聞こえなかった? 博士の後に抹殺とか聞こえなかった?」


「大丈夫です博士。私には摩擦としか聞こえなかったので」


「そうか……この体制で摩擦か……それは男としてイヤッフゥゥゥゥゥッ!!!」


鼻息を荒げてガッツポーズをする博士。


首へし折られて死ねばいいのに。


霧絵は、博士に向けて叫ぶようにつぶやいた。



助ける余地も無し、か。

宅急便の手配が完了すると、霧絵は手に持ったリボルバーを腰に戻し、くるりと後ろを振り向いて研究室を後にする。

もちろん、彼女にとって博士はどうでもよい空気のような存在なので、助ける気などさらさらない。

まして、博士こと人類と呼べぬ豚の虐殺シーンを見ているほど霧絵は暇ではない。


「博士。後でちゃんとそのロボットを和也さんのところまで届けてくださいね。私は帰って寝ますので」


「分かったぞ霧絵くん! この子は私が責任を持って和也のところに送り届けるぞよぉぉぉぉぉ!!」


「博士……抹殺……」


「そうだロボットくん!! ははは早く私に摩擦うぉぉぉぉぉ!?」



豚の発情に付き合いきれません。

その一言を胸に、霧絵は研究室の扉を閉める。

それと同時に聞こえる、豚のつんざくような悲鳴。


「いい気味です。しばらくロボットにターミネートされてなさい」


博士に聞こえるはずもなく、一人つぶやく。

含み笑いを浮かべている様子も、彼女のドSっぷりがよく分かる瞬間でもあった。


「……はぁ」


ふと足を止め、深いため息をつき、彼女はポケットから一枚の写真を取り出す。

それは昔から保持していた物なのか、今ではずいぶんと色あせて、古くなっている。

今でも肌身離さずに持っている、一枚の写真。

それは霧絵にとって、何よりも大事な物であり、何よりも大切な「宝物」であった。


「和也さん……」


笑顔で並んでいる霧絵と和也の写真を見て、彼女は想い人の名をつぶやき、その場で再び深いため息をついた。





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