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言葉の爆弾  作者: 言葉の爆弾
野望編
8/9

[2]

<1>

「今日は何があったの?こんな何もないのが良いくらいの千葉でさ。しかも千葉だよ。何で僕たち東京の警察が捜査しなきゃ何ないのさ。」

「文句言うな、北河。俺らは関東全域に捜査権が一任されてんだから当然だろう。千葉は関東だぞ。」

千葉の葛西臨海公園をスーツ姿の刑事が歩いている。この光景に違和感を覚えない人間はいないだろう。砂浜のジャリジャリした所を革靴がめり込んでいく。歩きにくいし、砂が靴に入って気持ちが悪い。

「懐かしいわね。ここ。昔よく来たじゃない。施設の皆んなでここに。」

愛華が僕の耳元で囁いた。いつものように冷たい声だがその声に暖かい何かも感じた。

ここは僕の記憶の海の中でも色濃く残っている。まだ、楽しかった時の記憶。まだ、平和だった時の記憶。それを胸に噛締めつつ、歩きにくい砂浜を、歩いていた。

「通報があったのは、今日の朝5時45分で、通報したのはランニング中だった男で名前は飯田明彦28歳、職業は体育教師とのことです。場所はもうすぐですよ。」

淡々とした口調で連絡する竹林。その連絡の様子は殺人の現場を見た第1発見者の事を報告するものではなかった。見ていて感情がないようにも見える。それからしばらぬ歩くと鑑識が張った黄色いテープが見えて来た。内心やっと着いたかと思っていると、隣で真弓が大きな溜め息をついた。

「どうかした?入院明けで大変なら署に戻るか?」

と僕は言う。気遣いのつもりで言ったが何だか怒っているようにも聞こえる言い方だった。でも真弓が気を悪くした様子はない。

「いえ、体は元気です。でも、被害者が若者だと聞いているので、何だか悲しいです。」

「そうか、僕はいつも誰かが死んだらいつでも悲しいけどね。僕は世界を、変えたいとは思わないけど誰もが幸せに暮らせれば良いと思ってるよ。勿論、そんな事は無理だと分かってる。人には目に見えない厄介な感情や考えがあるからね。でも、もしそんな世界があれば警察や裁判所はいらなくなるんだろうね。」

自分でも言っている事が可笑しいとは思っている。でも言わずにはいれなかった。これは僕の本心だから。これを聞いて真弓は引くか、笑うと思っていた。しかし、その言葉を最後まで聞き、理解してきちんと受け止めてくれていた。

「ありがとう。真弓。」

「え?何がですか?」

本気で驚いたように真弓は言う。この小動物のような態度が素である事が真弓の良いところなのかもしれない。真弓の何がですかという問いに真正面から向き合うのには少し勇気が足りなかった。

「何でもないよ。少し遅れた。高谷に怒鳴られる前に行こう。」

少し顔を赤くして言った。それから小走りで高谷や竹林、そして佐々木の所へ行った。3人は自分の警察手帳を見せて、現場の中に入って行っていた。僕と真弓も同じように警察手帳を見せた。

「捜査1係の北河と草原です。」

「お疲れ様です。どうぞ。」

鑑識の男の人が中に入れてくれた。鑑識による監視のため死体が運ばれて行っている。それが僕と真弓の前で止まった。

「ご覧になりますか?」

「ぜひ。」

僕がそう答えると鑑識が死体に被せていたビニールを取り、死体を見せてくれた。首には、首を締めた跡があり赤く腫れあがっていた。体中には打撲痕があり、争った形跡がある。

「酷い有様ですね、この死体。」

真弓がこの死体を見て言った。確かに酷い有様だったが他に何かが引っかかかった。でも何処か分からないが。

「あの、この遺体の写真を撮ったなら署の1係のパソコンに送ってもらっていいかな。」

「分かりました。」

それだけ言うと、鑑識の男がまた、遺体にビニールをかけて運んで行った。その頃高谷たち3人はプチ捜査会議をしていた。僕と真弓はそっとその中に加わり話を聞く。どうやらこのプチ捜査会議は始まったばかりで何とか話についていける。

「被害者の身元は分かっている。この近くにある高校に通う高校生だ。名前は江原達也。逮捕された経験はなし。まずはこの近くで聞き込みを行う。草原、お前は地元警察と連携して聞き込みをしてくれ。」

「じゃあ僕も。」

「ダメだ。お前は江原達也の高校の生徒に話を聞きに行ってくるんだ。佐々木、お前も行って北河を監視しろ。何かしたら報告するんだ。わかったな?」

「分かりました。」

静かに愛華は答えた。僕も愛華ならまだいいかと思った。竹林や高谷比べれば。

「俺と竹林で、江原達也の保護者に会いに行く。では解散しろ。終わったらすぐに署に戻って報告しろ。」

「了解しました。行くわよ、信也。」

「ああ。行こう。」

<2>

江原達也が通っていた高校は私立で中高一貫で人数が果てしない数だった。なのに、噂が回るのは早いようでもうほとんどの生徒が警官が来たと知っているようだ。始めてから高校という場所に少しだけ緊張していた。それは、愛華も同じ事。2人揃って僕らは大学は愚か高校にも行っていない。

「高校ってこんな所だったのね。」

学校の校長室で待たされている間、愛華は1人言か心の声が漏れたかしていた。それは僕も同じ気持ち。行ってみたかったという気持ちがある。最も、女子であった佐々木愛華はもっとこの気持ちが強かったはずだ。もっとこの高校という場所に憧れを持っていたはずだ。

「お待たせして申し訳ないわね。刑事の方。」

反射的に僕と愛華は立っていた。昔、施設で調教されたのが、2人揃って大人になっても染み込んでいる。その行動を見て、校長は少し苦笑した。

「仲がよろしいのですね、私は中込静子、ここで校長をしています。刑事さんたちが何を聞きたいのかは存じ上げております。先ほど江原くんのご家庭から、連絡がありました。亡くなったと。」

「では話が早い、江原くんの所属していた部活は何ですか?あと、所属していたコミュニティ何でもいいので教えて下さい。」

中込校長は僕と愛華のコーヒーを校長室のテーブルに載せ、微笑んだ。それから生徒表のような物をペラペラとめくり、江原達也の名前を探している。

「彼は、サーフィン同好会ですね、部員は4名です。彼は委員会などには所属していなかったですから、これが唯一のコミュニティだと思います」

「その4人の名前は?」

愛華ぎ訪ねた。自分の胸ポケットにいれていた手帳を取り出して、メモする準備をしている。それを確認してから中込校長は話し出した。

「名前は、原大雅、鈴木尚、小野寺美玲、飛騨純子と名簿には、記載されてます。」

「なるほど。」

出されたコーヒーを飲みながら、話を聞いた。隣の愛華はしっかりとメモをしている。僕はそれを確認し、メモは取らなかった。

「他にご質問はありますか?」

「いえ、ありませんが、今名前を出した生徒全員をここに呼び出して下さい。お願いします。」

僕がそう言うと、中込校長と愛華が同時に驚いた顔になった。何に驚いたのか、全く分からないが、どうやら僕は無神経な事を言ったらしい。自分を落ち着かせるように咳払いした後中込校長は言った。

「今、生徒は授業中です。それを妨害して捜査をするって冗談ですよね。」

「冗談に聞こえるほど面白いですか?これは殺人事件の捜査ですよ。犯人に怯えながら日々過ごすより、早く犯人を見つけて生徒を安心させてあげようとしているのが可笑しいですか?」

しばらく沈黙が続いた。校長室に入って来た時の優しい校長先生の顔ではなかった。僕の事を腹立たしく思っているただの叔母さんになっている。

「分かりました。すぐに放送で生徒を呼びます。その代わり、ここではなく応接室で話を聞いて下さい。いいですね。」

「はい、ありがとうごさいます。」

追い出されるように校長室から出された後、中込校長の後に続いて応接室まで歩いていく。歩いている間に放送で4人の生徒を呼びだしているのが、聞こえた。応接室に着くと中込校長はすぐに出て行った。余程僕にムカついたのだろう。応接室の大きなソファに腰を降ろして深々と座った。すると、隣にいる愛華が僕の左肩をつつく。

「さっきのセリフ、まさか貴方まだあの事を気にしているの?あの時の私達にはどうする事も出来なかったはずよ。それで納得できなくても、自分を責めるのはやめたほうがいいわ。」

「分かってるさ、でも僕はまだ自分をを許すことができないんだ。時間がいる。それより捜査に集中しよう愛華。いつもクールな君らしくない。」

「そうね。今は捜査に集中しましょう。」

しばらく待つと4人が同時にやって来た。確か、原大雅、鈴木尚、小野寺美玲、飛騨純子だったか。

隣の愛華が、自分の警察手帳を出しながら笑顔を作った。

「貴方たちの部活の仲間の江原達也くんが亡くなったのは知っているよね?」

「はい。ですが噂程度でしたが、本当なんですか?」

「ええ、残念だけど本当よ。そこで警察の私達が貴方達に話を聞きに来たの。答えたくなければ答えたくないで結構よ。・・・まず、座って。」

言われるがままに少年少女達は応接室のソファに座った。顔色に緊張が隠せていない所が幼くて可愛い所なのだろうが、愛華から見れば、まだまだ未熟ということなのだろう。この営業専門の笑顔も疲れたのかやめて本来の涼しそうな顔に愛華は戻った。手帳にメモを取る準備をしている愛華を無視し、僕は彼らに質問を飛ばす。

「君達、江原達也を殺した?どう?もしくは嫌いだったりした?」

いきなりのそしてストレートな質問に驚きを隠せていない。それは愛華も同じであった。基本的に僕は聞きたいことは最初に聞く。その事を包み隠すように言葉を修飾したりはしない。面倒だし僕にそんな語学力がないからだ。

この質問をした意図は江原達也を殺したかどうかを判断するためにしたものしゃない。

誰しもいきなり、犯人かとストレートに聞かれるとは思っていない。つまり不意をついたことになる。そうなればどんな奴でも顔に出るものだ。たとえポーカーフェイスが得意な奴でもね。ここにいる4人とついでに愛華の驚いた時の顔を見た。僕はその顔を絶対に忘れない。

沈黙が続いていく。唖然だと言うべきか。どうなのかは分からない。僕は会話のない時間は嫌いじゃないからいくらでも待つけど、お隣さんはそうにもいかない御様子。癖て腕を組み、左指でタンタンと音をたてていた。この間が可哀想だ。

「分かった、質問を変えよう。君達と江原くんの繋がりを教えてよ。どんな事でもいいからさ。それなら答えられるでしょ。」

答えやすい質問でも生徒4名はしばらくは口を開かなかった。それでさらに愛華は苛立ちが大きくなり隠しきれてない。それを察したのか、1人の男子生徒が口を開く。

「この同好会のリーダー的役割でした。立ち上げたのは俺だけどあいつは俺より上手かったし、社交的だから。」

「そうか、君、名前は?」

「鈴木です。」

「出来れば、フルネームを教えて欲しいな。」

「鈴木尚です。」

被疑者鈴木尚はそう言って頭を下げた。すれねつられて僕も必要のないお辞儀をした。他の生徒にも話を聞きたいが時間の都合上あと1人くらいだけだろう。左に付けられた腕時計を見ながらそう思った。

「ここの部活にコーチみたいな人はいる?教えてくれるならボランティアでもいいから。」

「それなら、ボランティアと言うか、自分も楽しみながら教えてくれる人はいますよ。名前は、新田秀樹だったと思います。」

「そうか、ありがとう。参考にするよ。」

そう言って僕は立ち上がると、愛華もつられて立ち上がった。4人に僕だけお辞儀をしてから、応接室を出た。愛華は相変わらず無愛想。最初の笑顔が何だったのかと言いたくなるくらいの。応接室のドアを愛華が閉めようとした。僕はそれを慌てて辞めさせ、最後の質問をする。

「やっばり最後に1つだけ聞かせて。好きな色は?」

鈴木尚は、

「緑。」

と1言で言った。対照的に小野寺美玲は

「えんじ色です。ワインみたいな色。」

「へぇ、面白い。」

「ええと、原大雅くんと飛騨純子さんはどう?」

原大雅が赤、飛騨純子は黄緑。それを聞き出した所で愛華にストップが掛けられて応接室から強制退場する事になった。それでもまだ質問があった僕は粘ってみたが、愛華の肩を掴んで引っ張る力の方が強く、そこから連れ出されてしまった。

「早く署に戻って連絡しないといけないわ。早くして。」

「僕はいい。無意味な会議は時間の無駄だしね。それより興味深い話が聞けたし、そこに行ってくる。新田秀樹さんの所にね。」

「それは監視している私が許可できない。絶対に私と来てもらうわ。」

「あっそう。じゃあ君のクールキャラが崩壊した瞬間の録音を聞いてもらおうかなー。署の人、全員に」

そう言って閉所に監禁した時に泣いていた時の録音を流した。それを聞くと愛華の顔はみるみるうちに赤くなっていく。いつかこの様な時が来るとして置いたが早速来た様だ。僕はニヤニヤと笑って愛華の顔をじっくりと眺めておく。

「分かった。今回だけ許可する。その代わりその録音は消して、誰にも見せないで。いい?」

「勿論。これはこうしよう。」

僕は録音機を下へと叩きつけて、それを自分の足で思い切り踏んだ。ニコッと笑い僕はその場所から離れていく。愛華は車に戻って行った。愛華の今の発言を他の録音機で録音しているとも知らずに。

自分のポケットから携帯電話を取り出し、登録されている唯一の番号にかけてた。

「はい、草原です。」

「真弓か、僕だ。今から僕の言う所まで向かいに来てくれ。ちょっと愛華と喧嘩しちゃってね。」

「いいですけど、何処ですか?車に乗ってるんで場所によっては車線を変えなきゃいけないんですよ。」

「大丈夫でしょ。愛華がきっと君に電話しているはずだから、多分あんな奴に付き合ってらんないからよろしくみたいな感じでさ。」

「あってます。すぐ近くなんで、もう着きますよ。」

「そう、じゃあ待ってる。」

<3>

「ここですか?そのコーチが住んでるのって?」

「ここだよ。あの生徒が嘘ついてなかったらね。でも僕が見た感じ、嘘はついてないな。隠してることはあるけど。」

「そうですか。今まで外したことないですからね。きっと今回も当たってるんでしょうね。」

確かにここに私立の高校のコーチが住んでいるというのに驚きがないと言うのは嘘になる。ボロく新人社員が住んでいそうなアパートだ。私立が雇いそうな凄腕コーチは住みそうにないな。

中込高校から貰ったメモによると205号室。その前に着いた。そこのパストは片付いているから、ここに住んでいることは間違いないだろう。僕は扉から離れて手でどうぞと合図した。扉をトントンと叩くのは真弓の仕事だ。僕と真弓の間だけで通じるこの仕事。尋問は僕。それを暖かく見守るが、真弓。

「すみません。警察です。新田秀樹さん聞こえてますか?・・・・・・いませんね。」

扉に目を向けていた真弓の目がこちらに向いていた。

「いるぞ。絶対にね。でも僕の予想だと2日酔いで気持ち悪くて死にそうになっているだろうけどね。」

「どうしてそう思うの?」

「まぁ見てて。」

「新田コーチ!俺です。鈴木尚です。クスリを持って来ました。頼まれてた物です。」

すぐにガチャリと音がして扉が開いた。開いている途中に声が聞こえた。

「やぁありがとう尚くん。昨日は楽しかったねぇ。」

扉が完全に開いた所で新田秀樹の目が大きく開いた。隣で真弓が警察手帳を見せている。だからか、すぐに扉を閉めようとしたが、真弓が足を挟んで閉められない様にする。かなり鈍い音がして痛そうだが、僕は新田秀樹に笑いかけて言う。

「お邪魔しまーす。」

閉めた扉を真弓に開けて貰い、僕は中に入って行った。中はサーフボードがあって、他は全部ビールの空き瓶のみで、沢山転がっている。1人で飲むにはアルコール中毒を超えてしまってそう。まだ玄関なのにそれが確認できるということは、ビールの空き瓶は相当あるだろう。

靴を脱いで部屋に入るとアルコール臭が凄かった。2日酔いでも飲み続けられるような体とは、凄いと思った。後ろからついて来た真弓に顔を見ないで言った。

「彼らの隠してたことが分かった。」

「何ですか?」

「部活終わりにここで飲んでたんだ。多分毎日ね。それだから僕と愛華が言った時に早く話を変えたかったんだろう。」

「なるほど。じゃあ話はもうしないですか?」

「そうだね。この人を署に連行して。殺人はしてないけど他の事をしてたね。未成年者飲酒禁止法違反。じゃあ署に帰ろう。みんなで話をしよう。」

「無意味な会話をしに。」

「ああ。帰ろう。」


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