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言葉の爆弾  作者: 言葉の爆弾
主要人物登場編
5/9

[5]

<6>

僕と真弓は共に警察署に戻っていた。あの被害者金沢理香子の死亡の事で高谷と竹林と対立したからだが、何故真弓がついてきたかは、理由は簡単。僕が暴走した時に止めてくれる人間が1人いないとダメだと高谷が言ったからだ。上司の命令は絶対。それが警察の掟だから、しょうがないと言えばしょうがない。僕の仕事は高谷が怪しいと思った人を片っ端から任意同行させ、それを僕が事情聴取をする。つまり事情聴取が今日の僕の仕事。それ以外はなし。

真弓が僕の取り調べ済みの人を取り調べ室から出していた。次のご用件はと言わんばかりに肩を少しだけ上げて首をちょこんと傾けた。溜め息をついてから僕は口を開く。

「次の人呼んで。」

「はい。分かりました。」

覇気はない。仕事をただただ無心でやるときのモードに真弓は切り替わっていた。今すぐ僕もそうすればいいのだろうが、無心で取り調べをしたらそれこそ誤認逮捕をしてしまう事になる。それだけはやってはいけない。僕の最大の規律がそう告げている。事情聴取をし始めてから何人か目でやった人を数え始めたがもう16人目だ。高谷の嫌がらせはいつまで続くのだろうかと考えてはいけない。絶対に今日では終わらないのだから。次に取り調べ室に入ってきたのは、鳥山美奈子。被害者金沢理香子の友人かつライバルだった人と高谷の電話で聞いている。身なりや取り調べ室に入ってくる態度を見ている限りでは全く怪しくはない。普通の緊張感を持ち、仕事中をかっこをしている。つまりスーツを着ているのだ。しかもスーツには、目立ったしわはなく、大人を担いで落とすした後のようなしわはできちゃいなかったこと。スーツも見た限りではブランド。バックも同じくブランドものだが、1つだけブランドではないものがあった。靴。スーツは高いヒールが似合いそうな服だが、歩きやすいようなのかスニーカーを履いている。だから高谷は連れて着たのだろうが、もしやったなら捕まらないために何とかするだろうに。鳥山美奈子はゆっくりと与えられた席へと座りこちらに微笑んで見せた。余裕をアピールしているのか、いつもの営業スマイルという癖なのかは分からないが無理にはやっていない様子。

「お名前は?」

「鳥山美奈子。死んだ金沢理香子の友人であり敵だった者よ。」

「その発言は自分がやった事をアピールしているのかい?だったら今すぐに精神科でも行ってくるといい。間違いなくサイコパスと診断され、緊急セラピーを受けることになると思うけど。」

「やってないから全てをさらけ出せる。とも思わないかしら?刑事さん。」

「ほとんどの頭の固いデカなら信じないと思いますけど僕は違う。信じます。」

「そう、優しいんですね。若いのにえらいわ」

取り調べ室に置かれたテーブルという境界線がなければ、僕も身震いしていたところだろう。高谷がここに連れて着たのもよく分かる。こいつは怪しい。何かあると思わせることのできるオーラを持っている。鳥山美奈子はテーブルに肘をついてこちらをじっくりと観察するように見てくる。怖かった、誰かにいて欲しくなった。誰でもいい。こいつは僕の思い出したくない人物の見つめてくる目と似ているんだ。だからだろうか。今は冷静に判断する自信がないしできないだろうと思う。

取り調べ室のマジックミラーごしで真弓は北河と鳥山美奈子のことを見ていた。手を組み、そして心配そうにだ。汗をかき、いつもすましながら相手のことをおちょくる北河の姿ではないと真弓は思っていた。その姿を見て真弓と少々怖くなっていた。被疑者鳥山美奈子の持つ独特過ぎるオーラが2人を怖がらせていくのが第3者の目を持ってしても分かる。

「大丈夫かな、先輩。」

無意識のうちに声が口から漏れていた。真弓の口は空き、取り調べ室につながる廊下の電灯が点滅して、暗くなってきていた。

それから沈黙の時間が続いていた。いつもは戦略的に取っていたが今回は違う。残念ながら話し出せないのだ。いつもの僕なら話しているうちに相手の本心が分かってくる。見えてくると言ってもいい。だが、今日はそれがない。むしろ見透されているようで大変不愉快だ。いつの間にか鳥山美奈子を睨みつけていた。

「趣味ではどんな事をするの?」

冷静さを取り戻すために発言したつもりが、かえって自分を焦らせた。

「そうねぇ、相手が失敗してグチャグチャに、なるのを休みの日はしてる。私は、嫉妬深いの。」

「そう。なるほど。」

僕は取り調べ室を出た。待っていた真弓の前にして気が抜けたのか、意識が遠くなっていき、真っ暗になっていった。もう1度、目を開けるのが怖くなった。

「先輩!北河さん。」

最後の力で僕は言う。

「わからない。彼女をできるだけ拘束しておいて。また話がしたい。」

目を瞑ったまま、前の真弓に向かって倒れていった。

<7>

目が覚めたのは夜だった。近くには真弓の姿があるから、署にいることは間違いないと思う。いつもなら断定できるが今日もやっぱり無理だった。

「起きてくれましたか?捜査全然進んでないんですよ、北河さん。早く治して捜査に復帰してください。そうじゃないと私の仕事はあなたの看病になったままなんですよ。」

「ごめんね、真弓。」

「いいですけど。半分冗談ですし、事件は解決はしますが、残念ながら被害者は蘇りません。だから、被害者には、失礼ですが生きている貴方のほうが大事ですよ。」

真弓は頬を朱色にそめながら言っていた。有り難かった。誰かに一緒にいて欲しかったから。それが僕の事をよく理解してくれている人間というのがさらに嬉しい。真弓に礼を言いたかったが恥ずかしさが邪魔して無理だった。

「捜査はどうなってんの?」

「はい。私と先輩の代わりに新人の刑事が配属されまして、捜査を高谷さんと竹林さんとやってもらってます。」

「どんな人なの?美人?」

「先輩が興味を持つなんて珍しいですね。そうですね、可愛いと思いますけど。髪は茶色でウェーブがかかってます。あんまり話した事ないんですけどなんかミステリアスな感じがして何かこう大人の魅力があって、話しかけてもそっけなくあしらわれちゃいました。」

真弓は少しだけ笑いながらそう言う。でも僕は笑えなかった。ありえないと思いつつもそれが該当する人物を僕は知っているからだ。

「もしかして、佐々木愛華じゃない?」

「そうですけど、佐々木と知り合いですか?先輩。」

大変な事になった。そして同時に心強い味方ができ、さらに気を引き締めなくてはならなくなった。




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