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「あなた正気?それでも刑事になって2年目?仕事があるんです。2つも。これと車椅子の盗難です。いいですか?今日も帰れませんよ。」
「わかってるさ、でも僕は当番で今日1回も眠れていないんだ。そんな労働基準法違反は許されないだろ。こんな事件さっさと片付けお家に帰ろう。」
相棒の真弓がいつものように僕に嫌みと言うなのアドバイス(忠告)をくれる。だが今はそんなことはどうでもいい。僕はショートスリーパーじゃないんだ、寝なきゃいけない。スーパーマーケットで通報があったのが12分前。ここは治安が悪いと有名なスーパーマーケットで万引きなんて毎日あるような場所なのに今日に限って通報してきた。そのせいで僕は機嫌が大変悪い。ムカつく。僕は隣に歩く真弓を見た。今日、出勤してきた彼女でさえも、機嫌が悪いようだ。
「機嫌悪いね。彼氏にでもふられた?」
「それは嫌み?私が生まれて付き合ったことないこと知ってるくせに・・・。あなたにあおられてさらに機嫌が悪くなったわ。」
僕のことを見ずに真弓は言う。それを聞いて少しだけ僕は笑った。真弓がいつもの日課をしたのと同じで僕もいつもの日課をやった。この町で1番大きいスーパーマーケットは入り口から現場までがとても遠い。こんなくだらない会話をしていても、まだ着かないのだから。
「刑事さん。こっちです。」
このスーパーマーケットの制服を着ている店員らしき人がそう言う。そこは、冷凍食品売り場だった。その店員は青ざめていた。何かに怯えているように。
「お待たせしました。私は草原真弓です。こちらも刑事の北河信也です。現場はこちらで?」
「はい・・・。ここで、人が倒れておられました。倒れているのを見つけてから誰もこのスーパーから出していません。私は遺体を見るのが初めてなもんですから、・・・。」
店員と真弓が事件のことについて話し合っている。僕はそんなことに興味はない。正直どうでもいい。
スーパーマーケットの冷凍食品売り場は広く創られていた。中央にアイスクリームを、小さい子供でも見えるような高さのかごに置いている。両端には主婦が最後の1品に使えそうな豊富な種類の冷凍食品が並んでいる。唐揚げを見ていても19種類。見ているだけでお腹いっぱいになりそう。
「北河さん。スーパーにいた人に話を聞きに行きますよ。」
「ちょっと待って。」
僕はさっきの店員に近づいていく。僕が近づくたびに顔色が悪くなっていく。
「すみません。あなたは随分と仕事熱心なんですね。珍しい。」
そう言いながら僕はにっこりと微笑んだ。
「どうしてそう思うんですか?」
「顔色がすさまじく悪い。普通の人ならきっと休むだろう。しかもあなたはおそらく年齢的に本社員じゃないパートだ。だから休むことは本社員より簡単なはず・・・。ちなみに年はいくつですか?」
「67です。」
手を頭の後ろに回してから、ゆっくりと、もう1度、口を開く。それを不愉快そうに店員は見ていた。真弓もいつでも僕を止められるように真面目な顔つきで僕のことを見ている。
「ううんなるほど。あなたはならパートですよね。なら何故休まないんですか?休まないにしろマスクを着けるべきだ。気遣いとしてはね。」
「それ、何かと関係あります?この事件の何かと。」
「いいえ全く。少し機嫌が悪いだけです。気にしないで。あと僕に5メートル以上近づかないで、うつりたくない。よろしく。」
「ちょっと北河さん。」
「なに?それじゃ行こうか。容疑者のところに。」
倒れている人を見つけてからスーパーから人を出していないと店員は言っていた。だがそこにいたのは3人だけ。このくそでかいスーパーには被害者を含めても4人しか客はいなかったということになる。事件よりもここの光熱費や給料をどうやってつくっているのか教えてもらったほうがいいと思う。容疑者の前に来ても僕は何もしない。ただ、真弓が自分の警察手帳を見せて自己紹介をするのを温かい目で見守るだけ。それが今日僕がここに来た目的であり仕事である。
「ここにいる北河がみなさんにいくつか質問していきますので答えてください。少々言葉足らずのこともあると思いますが悪気はないので、そこは了承してください。」
真弓がそう言って首でこっちに来いと合図する。しかもおまけに睨み付けるというおまけもついてきた。それに驚きながらも、僕は真弓のほうに行き、彼女の書いたメモを受けとる。それから主婦らしき人の前に立った。すると主婦らしき女は自分の前で手を組んだ。そしてこちらが悪いことでもした子供でそれを怒る大人のような顔をしてくる。この女、僕が1番嫌いなタイプだ。そして1番、得意なタイプだ。僕はニヤリと笑った。
「何故笑ったの?何がおかしいの?」
怒鳴るように言う。いかにもさきほど僕が勝手に作った設定のようだ。それが可笑しくて、面白くて、今度はニヤリと笑うのではなく、少し微笑むように笑った。そして無意識のうちに、バカにするように、相手のことを指差した。
「いいえマダム。なにも面白くありません。人が死んでいる光景があなたにはそんなに面白いですか。ならあなた正直いかれてますね。」
ここで1度言葉区切り、相手の様子を見た。怒っている。間違いなく。それは誰が見ても一目瞭然だった。
「なに?この警官。警察なら何を言っても許されると思っているの?」
その女は僕ではなく、真弓のほうを向いてそう言う。真弓はいつものように、苦笑いする。そのあとに僕に凄まじい殺気をプレゼントする。いつものパターンが終わるのを確認して、さらにその女を攻撃する。完全なる悪意を持って。
「マダム、あなた先ほど、自分の前で手を組みましたよね?それは何でだかわかりますか?おそらく無意識でしょう。無意識でやるのは自分と相手の間に壁を作りたいからだ。作りたい理由は僕の直感だと2つある。僕の紹介に嫌気を感じ、話したくもないと思ったか、・・・もしくは僕たち警察に知られたくないことがあるから。・・・・・では聞きます。何故殺したの?」
「・・・・・・・・殺してない。」
「 僕の目を見て言って下さい。」
そのマダムは僕の目をゆっくりと、じっくりと、見てから言う。
「殺してない。」
「違う、この人じゃない。目の瞳孔が開いてないから嘘はついてない。真弓、リストから外して。」
「は?バカじゃないの?」
僕の後ろから声変わりしていない少年の声が聞こえてくる。その少年は平日の午前中に何故いるのだろうと思ったがとりあえずスルー。上半身はTシャツ、下半身はGパン、靴はローファー。
「何故君のような学生がこんな時間にここにいるの?見たところ・・・中学生くらいだけど・・・。」
「今日は学校休みで母さんに買い物頼まれた。」
「あっそ。嘘だ。その年で平然と嘘がつけることは感心しない。1度サイコパス検査してみたら。今日休みの学校はない。そういうのは、警察に連絡あるんだ。それが今日1件もない。それに靴がローファーだ。おそらく制服を脱いでこのスーパーのロッカーにいれにきたんだろう。でも、靴は面倒でそのままにした。この子は犯人じゃない。でも真弓、リストからは外していいけど、少年係に連絡して。素行不良がいるって。」
僕は皮肉たっぷりに笑った。少年は悔しそうにこちらを睨み付ける。
「大人をなめちゃいけないぞ、ボウヤ。」
そして残ったのは1人。70過ぎのおおおおおおおばあさん。
「あなたが犯人だ。そうでしょう。おばさん」
おばさんは車椅子に乗っている。足が悪いようだ。僕がそう言うと、真弓が口を出した。
「待って!メモ見た?凶器は重たい鈍器。高齢者には持てるものじゃない。しかも、この人足がわるいんですよ。」
「君は名探偵コナンの1巻の1話を読んできたほうがいい。この女もそういう手口だ。それとこの車椅子は駅前のスポーツジムのものだ。この人はその会員。昨日の夜も来ていた。それにそのジムから車椅子の盗難届けあったろ。それはこ・。」
それを言うとおばさんは立ち上がり、勢いよく走り出した。僕はまた笑う。
「ほら真弓、行くんだ。高齢者なんかに負けるな。」
真弓は嫌そうに走っていった。僕はそれを見届けるとスーパーの出口に向かって歩き出した。もちろん車椅子を回収して。
「1回で2つの事件解決。」