思いのままに
父さんが俺に視線を向け微笑んできた。嬉しげな眼差しのまま口をひらき、問いかけてくる。
「お前が、思うように舞えばいい…パワルフ、ラシュンが生まれた時どう思った?」
思ったことを聞かれ頭の中で思い返す。
妊娠したと聞いた時駆け回りたいほどに嬉しくて何度も何度もプァナに礼を何度も言った。大きくなるお腹に本当に子供がいるのだと再度実感し、細いプァナの体に目立つ腹部に心配をした。
生まれたと聞いた時、思わずエルフの村を飛び出した。
早く会いたくて、早く俺の姿をその目に映してほしくて。それだけで。
そうして会えた子は手が震えるほどに可愛らしく、小さく、弱かった。このまま目が閉じたまま覚めないのではないかと恐れ、結局眠れない夜を過ごした。
そんな夜にラシュンは大きな声で泣いてくれた。情けなく震える手であの子を抱き上げた。抱き上げた体は思いのほか重くてゆっくりと揺らしてやった。
泣き止ませてあげたくて、笑顔にさせてあげたくて。この世界は怖いところじゃないのだと生まれてきてくれて本当にありがとうと伝えてやりたくて。
実際は腹を空かしていただけだったが、開けたラシュンの綺麗な目が俺に向いた気がした時。
神に心から感謝をした。
この子を俺の子にしてくれて、無事に産ませてくれて、母子ともに健康。何度も何度も感謝を捧げた。そして誓ったのだ、私はプァナと共に何があってもこの子を守ると。この子を授けてくれた神に祈りを欠かさないと。
「私はね、お前が生まれた時天にも登る気持ちだった。大声でパワルフが生まれた、生まれたって騒いで、怒られて…でも眠るお前のそばにずっといた、まるで夢みたいな存在だったから」
小さくて、弱くて、生きているのが不思議なくらい柔い子。
「神に自然と祈りを捧げたし、守ると誓ったさ──パワルフ、聞かなくてもお前も同じ気持ちであろうとは分かる……私の子だからね」
シフルフは笑ってパワルフの頭をくしゃくしゃと撫でる。ミュルスもそれに習ってパワルフに抱きつく。
「パワルフならやれると…そうであって欲しいと…思っているよ、お前はどれだけ年老いても私たちの子だから、もし失敗したって私たちがいるさ」
「そうよ! 申し訳なく思う必要も恥じる必要も無いの! 親が子に何でもしてあげたいと勝手に思ってるだけなんだから!」
子供扱いに戸惑い、同時に胸が熱くなる。
確かに俺も子供だったんだ。生まれた時に父であるシフルフに同じように剣舞をおこなってもらい、こうして生きてきた。
シフルフの前の族長にシフルフだって舞ってもらったはずで、その前の代でも……そうやって繰り返されてきた喜びの感謝の祭り。
「ありがとう、父さん…母さん」
ラシュン、俺の子。俺達リナル族の大切な可愛い子。
どうか、君が少しでも泣くことが少ないよう。
どうか、幸せな未来を歩めるよう。
願って、祈って、出会えたこの喜びを舞にしよう。神への感謝を込めた舞を。
思いのままに、俺らしく。
「父さん、明日から剣舞の練習したいんだ」
「もちろん見てやるさ」
「当日はエルフの長老も祝いに来てくれるそうなんだ、母さん、料理の指示を頼んでいいか?」
「任せて! プァナちゃんと一緒に決めるわっ」
頼りがいのある。誇らしい二人がラシュンの祖父母であることが純粋に嬉しく思いながら少し笑って見せれば二人も当然のように笑を返してくれた。