祭りに向けて
何度かお祝いを貰っては家に置きに行くを繰り返してから、やっと目的の家へと辿り着く。ノックしてしばらくたてば扉が開き、パワルフと似た顔立ちをした男が出て来た。
「父さん、ラシュンは見たか?」
「ああ、見たとも…とても可愛らしい子だったな」
パワルフの前に族長をしていたシフルフは長い髪を編み込んで後ろに流していた。その後から母であるミュルスも出てきて一気にその場が騒がしくなる。
「まぁ! パワルフ! やっと来たのね!」
顔を近づけてきて目を輝かせるミュルスに苦笑いをしながらも、中に入れてくれるように言えば二人はすぐに中に入れてくれた。
リナル族では決まりがある。というより伝統と言っていいものがある。
元々リナル族は全体で魔力が多く、その扱いに長けている。それはリナル族のこの村が出来た神話に繋がっているのだが、保有魔力が高いせいとその繋がった神話のせいがあり子ができにくい。
神が許し、子を授けてくれて無事にこの世に産ませてくれた。その感謝として子が生まれた七日後に祭りを行う。
パワルフが族長となったのはプァナを嫁に迎える二年前。プァナが生まれた時にシフルフが族長だった。
族長は家系でなるものではない、能力…神に祝福を与えられた者。それが族長となる基準だ。幸いリナルは千年は生きる。産まれてくる子が少ないとはいえ族長になる者が途絶えることは無かった。
では神の祝福とは何か。それは森の祝福でもある。
この村は結界に守られており、隠されたもの。隠すためには力がいる。
祝福とはこの森に完全に受け入れられること。自分の魔力をこの森に流して受け入れてもらえること。その魔力を使って結界を強くすることが出来る。
祭りは年に四回。季が変わる事に行う。そして子供が生まれた七日後にも。
秋に入る前の今の季節。秋の祭りまだ行っていないから、短期間に二回。祭りを行うことになる。
祭りと言っても子供が生まれた七日後に行うものは本来の祭りのものとは異なる。
だからこそ、自分は前族長であるシフルフを訪ねたのだから。
「残り今日を入れて六日か」
腰を落ち着かせてからシフルフはパワルフににやにやと笑みを向けた。表情があまり顔に出ないパワルフとは違い両親である二人は表情をくるくると変える。千年生きるからかその顔は老けておらずパワルフの兄弟だといえば他種族ならたやすく信じるだろう。
「…祭りの準備を手伝って欲しい」
「あぁ、もちろん…ただ、剣舞はお前がやるんだぞ」
分かっているという言葉を飲み込んで頷くことで返事をすれば苦笑いが返された。
剣舞は何度も舞ってきた。それは四季への感謝で子が生まれた祝のものではなかったが、通ずるところはある。
ただ、不安なのだ。
おそらくラシュンはこの村にとって大切な子になる。
だからこそ、神への感謝を受け入れてもらえずラシュンが幼くして命を落としてしまえば……と。
揺らいでいるであろう目を伏せシフルフへ視線を向け直せば温かい笑みを返される。
「緊張はあるだろう、だが神様はそんな狭い心は持ってないさ…舞を間違えたところで関係ない、重要なのは心だからな」
お前なら大丈夫だと、真っ直ぐな信頼を向けられて自分がこれを聞きに来たのだなと納得し、そんな自分に呆れるため息をこぼした。
「そうよ、パワルフは真面目すぎる所があるんだから!」
寧ろ力を抜いて楽しみなさい。ミュルスの言葉に「母さんはもう少ししっかりした方がいい」と返せば頬を膨らませてしまった。相変わらず若い人だ。