森の歩き方と
翌日、リアナとフィルはラシュンと共に森の中を歩いていた。ラシュンの手にはやはり青い蛇が握られ、肩には小さな猿が乗っている。
「フィルにぃとリアナお姉ちゃんと来るのは初めてね!」
「パワルフから森の歩き方を教えてあげて欲しいと言われたんだよ」
「ついでに、ラシュンがどう過ごしてるかも気になるから先に教えてね」
いつもとは異なり怒らない二人にラシュンは誇らしげに胸を張り、青い蛇をぶんぶんと振り回す。
乱雑に扱われる小さな友人が心配になる二人だったが小猿は慣れているのか反応しなかった。
「と、とりあえずその蛇は手放してあげな?気になって仕方ないから」
「そぉ?」
フィルに言われ渋々手を離し青い蛇が地面に落ちる。無邪気な残酷さに思わず二人は言葉を無くすが青い蛇はそんな彼らに律儀に頭を下げるとラシュンの肩までするすると上り首元にだらりと引っかかる。
怠惰な様子に小猿がため息をついたのを信じられない気持ちで見た大人達は軈てラシュンの様子に変化を見つける。
リナル族共通の金の瞳が淡く光を帯びていた。
ぼんやりとした表情で斜め上を見上げながら歩くラシュンとそれに寄り添う小さな友人達。
「ラシュン、もしかして森が何か言ってるの?」
「うん、また教えてくれてるの…今日はあまり奥はいったらだめなの」
確かに森はラシュンのことを守ろうとしているのだと察してからリアナはラシュンの手をとって握る。
反対をフィルが握ると、ゆっくりと二人はいつもの調子で話し出す。
「森はラシュンにとって優しいかもしれないけれど、それはあまりリナル族以外に知られたらダメよ?」
「どうして…?」
「良くないこともあるからだ、俺達はそういった事に“慣れている”し、知っているが他の種族はそんなことを知らない」
少し不満げなラシュンをカラカラと笑ってフィルがとある場所を指さした。
「普通の森の歩き方も覚えような、ラシュン」
「……うん」
「あのキノコはロウキアと言って神経に作用するキノコだ。食べると麻痺毒におかされる。軽度ではあるからそのうち治るし、怪我した時の処置の時食べることもある」
ピンク色のキノコをラシュンがまじまじと見つめるのを見守り、今度はリアナが指をさす。
「あれがサルーラの木、夏になると黄色の実をつけるの。甘くて美味しいし、ラシュンも食べたことがあるでしょう?」
「美味しいよねっ!」
キラキラと目を輝かせ笑うのを二人は楽しげに見下ろし、直ぐにまた説明に入る。
全員でしゃがみ地面にフィルが掌をつけると目を閉じる。フィルが淡い緑の光を帯びる。
「リアナお姉ちゃん、フィルにぃは何してるの?」
「土の中の水の流れをみているのよ。最近雨が降ったでしょう?その流れが可笑しくなってると何処かの川が氾濫したりしてしまうのよ」
「そうなんだ…」
「魔力を土の中に送って、中を擬似的に見るの。元々フィルは土と水への相性がいいからこれが毎日のフィルの仕事、とても大切なことよ」
「うん、森も気持ちよさそう…」
また瞳に光を帯びさせ声を聞いているらしいラシュンは嬉しそうに笑う。確認を終えたフィルとリアナも微笑み、全員立ち上がると、リアナは手を離し少し前に歩き出す。
「フィルにぃ、今度はリアナお姉ちゃん何してるの?」
「風を感じているのさ、リアナは風と相性がいいからな、腐りかけた植物や生き物の匂いがあれば植物なら癒すし、生き物の死骸なら埋める。これもとても大切なことだし、リアナが得意とする仕事だ」
「…森を守るために?」
「そう、森を守る為に。森の声を聞けない俺たちが出来ること」
森の声を聞けるラシュンは恐らく森に聞けば森自身が答えてくれるだろう綻び。
けれどそれではこの森はラシュンに依存してしまうのだと二人は語る。
「リナル族は古くからこの森に住む一族だ、森を守り、森と共に成長してきた。これからも成長していく。」
「たとえ、種族の数が減ったとしても私達はこの森を愛しているから続けて守っていくのよ。森の声が聞こえずとも、森の生き物に敵対されようとも、一種の自己満足でしかないけど…そうやってリナル族は長くこの森に根付いた」
ラシュンは目を輝かせ、くるくると踊る。子供らしく意味のなさそうなそれに風が反応し木々がざわめいた。
「自己満足なんかじゃないって!森は知ってるって!」
返ってきた言葉に思わず二人の目に涙が浮かぶ。それははるか昔からこの森で生活してきたリナル族を認めるような一言だった。
「…ねぇ、ラシュン森に聞いてもらってもいいかしら」
「なぁに、リアナお姉ちゃん」
明るく笑う小さな選ばれた子にリアナは声を震わせながら問いかけた。
ずっと、ずっと願っていて。なぜ、許されないのかと疑問に思って、恨めしくも思っていたこと。
「なぜ、私達は子供ができないの?」
その一言にフィルの顔が一気に青ざめ、空気が変わった。




