族長の一人娘
ガサガサと背の低い木が揺れる。枝が数本ポロポロと落ち、ぐっと何かが立ち上がる。緑の美しい髪に大きな金の瞳の娘だった。肌は健康的な色で、少し焼けている。
「ちゅかまえたっ!」
舌っ足らずながらも叫び、手に握ったものを掲げる。掲げられた手に握られたのは青色の蛇だった。
「ふふふん、やっぱりラシュンの勝ち!」
えっへんと腰に手をやって偉ぶる娘─ラシュン─に青蛇がチロチロと赤い舌を出す。乱雑に掴まれているというのに噛もうともしないのだから、どうやらラシュンの相手をしていたのだろう。
ふんふんと鼻を鳴らしながら、そっと青蛇を地面に下ろす。少しうなだれているように見えるのは気の所為だろうか。
「こら、ラシュン!」
そこで誇らしげなラシュンを咎める声が聞こえる。びくりと小さな肩をはねさせてゆっくりと声のした方を見ると金の瞳をつり上げ、右の高いところで結っているリナル族の女性が不機嫌そうにラシュンを見下ろしていた。
「り、りあにゃおねえちゃん…」
まだ慣れていないのか、焦ると舌っ足らずな言葉になってしまうラシュンのほっぺたをリアナと呼ばれた女性が引っ張る。程よく焼けたもちもちの肌があっけなく伸び、それにつられてラシュンの体が傾く。
「いひゃい!」
「勝手に森の中に入ったらダメだって言われてるでしょう!?」
「ひぃらない! ひぃらないもん! らひゅん、はひってなひー!」
ただでさえ慌てて言葉が上手く発せないラシュンのほほが引っ張られているから最早言葉の原型がなかった。
痛みから少し泣きそうになるラシュンを気遣うように青蛇が足元でうろつき、空ではラシュンの声を聞き付けた鳥やリスが、心配そうに見下ろしていた。
「あなた達もラシュンが大切なら止めてみなさいよ!」
完全にご立腹なリアナの矛先はその動物達にも向けられる。言葉は分からないものの責められていることは分かるのか、居心地悪そうにうろちょろしつつも離れない動物達にリアナは深い溜息をこぼした。
────ラシュンが産まれた日からもう早く五年が立っていた。大人たちの心配は余所にすくすくと育ち、好奇心旺盛なその性格にリナル族の者は揃って手を焼いた。
森に入るなと言い聞かせているのに勝手に森に入り、何を思ったか木に登りぶら下がって遊んでいたり、毒蛇である青色の蛇を玩具のように振り回したり。
酷い時は森に住む小さな猿をプァナに持たされたつばの大きい帽子の中に隠して家に持ち帰った時もあったとリアナは頭を抱える。
子供はそういうものだと年寄り達は微笑ましそうに見守るが、プァナが大人しかった為、てっきりラシュンも大人しい性格なのだと思っていた…。
離乳食を食べ始めた時は積み上げられた木の実にプァナとパワルフが困り果て、離乳食を脱し、少し固めのものを食べれるようになると森の奥でしか取れない果物が家の前に置かれていることもあった。
毎朝スピツ達がラシュンを起こしに来るし、青蛇は振り回されたり乱雑に扱われるもののラシュンの傍を離れない。リスや鳥たちは時々こっそり小さな甘い実を持ってラシュンの元へ通った。
周りの大人が与えずとも森の生き物が勝手に与えていく程に何故か酷く気にいられているラシュンの好奇心はそれのせいでより一層強くなったのではとリアナは少し思いもした。
つまんでいた頬を離してやると少し赤くなった頬を撫でながら涙目でじとりとリアナを見上げる綺麗な金の瞳。
「…なによ?」
「ラシュン悪くないもんっ!」
「どうみたって悪いでしょうが!」
「いーーーっ!」
「こら!」
そこからバタバタとラシュンとリアナの追いかけっこが始まり、リアナ族の者達はそれぞれの仕事をしつつまたやってるのかと苦笑いをこぼしていた。




