月下に二の舞
高い、金属同士が擦れる音が聞こえる。真っ黒な布に真っ白な月を模した絵が描かれたそれを目元を隠すように結った。
美しい双剣同士が滑り、音を鳴らす。アンクレットがそれに追ずる様に音を奏で、リナル族の者たちが月明かりのみの下、手に鈴を持ち、奏でる。
月明かりのみな中櫓からははしごが外され、櫓の上に目を隠されたパワルフのみが剣舞を捧げる。
昼とは異なり夜に紛れぬ真っ白な衣装は艶があり、月明かりに煌めく。
「…なん、ですかこれ」
唖然とする若いエルフ達。震えるセリオがそう小さく零すのをフェルムンドは横目でちらりと見てから深く息を吐く。
「二の舞じゃ」
「っでも!真っ暗な中柵もないのにあんな高い場所で…周りに止めれる人も…」
一の舞では四方をリナル族が囲む。それぞれの方向から音を鳴らす為、位置を把握することは出来るだろう。
だが二の舞では舞手のみが上がる。目を隠した舞手にはどこが堺か分からない。
「なんで、こんな」
セリオの顔が真っ青になる。すやすや眠るラシュンを抱き締めパワルフをただ見上げるプァナを思わず見つめ吐き出した。
「これが月が落ちるまで続く」
「…っ」
「セリオ、リアナ族は理由があるから行うのじゃよ、それを危ないからと止めてしまえば子が死ぬ、行わなければならぬ」
セリオはだって、と続けたくなる。あんな高い場所で一人舞うパワルフもそれを見上げただ待つプァナも。喜ばしい日のはずなのに、どうしてこんなに悲しく苦しいのか。
月が動く。風が吹き、木々がざわめき、剣の音、鈴の音、小さく聞こえる虫や鳥の声。
「リナル族って、なんなんですか」
「リナル族はリナル族じゃ」
「なぜ彼らだけ」
産まれるのも奇跡が必要で、その奇跡も仮のもの。それから試練を周りがこなし、そうしてやっと生きる資格が与えられる。
「これじゃあ余りにも」
『哀れよな』
聞こえはしないと知っていても金の髪に瞳の男は悲しげにパワルフを見上げる。パワルフから伝わる感情とプァナから感じる感情。それは悲しい因果。長い事それを見つめ、月の動きを感じる。空が少しづつ明るくなり夜の世界の端が光の線を引く。
『ラシュン、ラシュン』
このままいけば問題なく道が開き、そうして男は帰らねばならない。
『いずれ忘れるだろう、花の娘…』
すやすやと眠るラシュンの頭に少し躊躇しながら触れる。小さな頭に少し生える緑の髪が少しづつ明かりに光を帯びる。
撫でられた事に反応したのか瞼が震え、目が開かれる。金の瞳が男をみあげる。それが堪らなく嬉しい。
『きっと、幸せにおなり』
『よく食べ、よく遊び、よく学び』
『いずれ来る試練を乗り越え、形を変えることが出来たなら…どうかまた私と出会って欲しい』
くしゃりとラシュンの顔が歪む。プァナがそれに驚きあやそうと揺らす。どうしたの?大丈夫よと宥める母の声が聞こえているはずなのにラシュンは泣き始める。
そんな中も二の舞は続き、スピツ達が鳴き始め、歌を歌う様にそれが聞こえる。
「あああっ」
まるで惜しむように、いかないでと言うかのようにラシュンは男に手を伸ばす。首が座っていないので視線しか向けられないラシュンはその小さな手で必死に男を掴もうとする。
『本当に勇敢な子よ』
男の瞳から遂に涙が落ちる。語りたいことは沢山あった。できるなら言葉を交わし合いたかった。もっと共に在りたかった。それ程までにラシュンのそばは心地よく、懐かしい。
『だが、もう行かねばならない』
「うぁぁっ」
『お前はこの日を覚えていなくとも私は覚えているし、祭りの度私は降りてくる。そうしてまた祝う。その日にはもう私を見る事は出来ないがそれでも…その日だけは共にある』
見えなくとも。触れれなくとも。それでもいいと男は笑う。涙を零しながらもラシュンの手に触れる事もせず、ゆったりと歩き出した。
それをラシュンは泣いて嫌がる。事情の知らぬプァナはそれを宥めるが、それでも泣きやもうとはしない。
男の体がふわりと浮き上がる。櫓の上で汗を流しながら、舞い続けるパワルフの隣にたち、口を開く。聞こえはしない声の歌。
祝福を与える、“神の歌”。
聞こえるのは産まれた子のみ。
神の輪郭はゆっくりとぼやけ、光となり空に登っていく。それを誰も気付きはしない。それをラシュン以外惜しみもしない。
『幸せにおなり』
その言葉でさえも。
誰も届きはしない。
やっとお祭りが終わり、数話の後少し時が進みますー!




