夕紅に染まる
美しい赤い紅をとかしこんだような空が広がる。酒を飲み、歌を歌い、思い思いに宴を楽しむ。
唯一家の中で眠るラシュンはすやすやと穏やかな吐息を零していた。そしてそれをプァナは愛しげに見つめ、丸く柔らかな手を握る。
それを金の髪に金の瞳の美しすぎる男はずっと見続けていた。まるで一分一秒でも惜しむように眠るラシュンの姿をまるで目に焼き付けているかのように。
『ラシュン、夕紅が来た、もう少しで陽が落ち夜の帳が下りるだろう』
そうなればもうお前と会うことも無いのだと男は悲しそうに眉間にシワを寄せる。何年、何十年、何百、何千年。こうして子が産まれる度に招かれた。
そして成長していくと全ての子はこの男のことを忘れてしまうし、その目に映すこともないのだ。
そしてこの男に触れる者もいなかった。
夕紅に染まる空を恨めしげに男は見つめ深く息を着く。窓際でスピツが同情するように鳴いて慰めている。それすらも男の哀愁をより際立たせるものだった。
夜が来れば二の舞が始まる。そして男の帰る道が開かれ、帰らねばラシュンが死んでしまう。なんと、悲しき因果か。
『ラシュン、雷の子、勇敢な花の娘』
雷を越え、勇敢にも鳴いて産まれ、花の名を受けた子。
何人も触れることを拒絶した男の手を取り、笑って見せたその顔が男の寂しさを…凍りついてしまった心を溶かすようだった。
『できるなら、もう一度お前の目に写り、そして私に触れて欲しかった』
悔いを残しているだろう言葉をスピツ以外は拾えない。しかしながらすやすやと安らかに眠るラシュンを起こすという行動はスピツも男も選ばなかった。
金の瞳と金の髪が紅き陽を受けて、男自身も夕紅に染められていく。少し男も考えてしまった。
このまま帰ることを拒絶し、この愛らしい娘を連れていったならば自分の孤独は癒えるのではないかと。
だがそれはしてはいけないと分かっていた。そういうものになってしまったのだと理解しているし、それをどうこうする考えもなかった。ただただ真っ直ぐに思うのだ。
─────なぜ自分はあの日受け入れなかったのか、と。
もう答えの出てしまっているものだが、それでも男はずっと願い続けている。失ったものがいつか帰ってくることを。
「プァナ、ラシュンはどうだ」
男が物憂げに顔をしかめていれば扉を開けてパワルフが無表情の顔を引っさげてラシュンとプァナに歩みよる。
「よく眠っているわよ、明日の朝まで起きないかも」
「それが一番良いだろうな」
パワルフの言葉に思わず『そんなわけあるか』と男が呟く。案の定その言葉は拾われることなく幸せな親子は柔らかな空気をまとっていた。
「…プァナ」
「ええ」
「聞きもしないか」
「見たことは無いけれど、知っているもの…ねぇパワルフ」
「“ちゃんと戻ってきてね”」
「…分かっている」
覚悟を決めるパワルフの頬にプァナは優しくてを滑らせてそっと目を閉じてからまた目を開き微笑む。目の端に光るのはなんなのか、それは誰にでもわかるだろう。
『リナル族、とは』
男がぽつりとこぼす。ずっとずっと思っていたと吐き出すように。
『リナル族とは難儀よな…』
憐れむような視線を向け、そっと目を伏せる。別れの時を噛み締めるように。




