招かれた存在
賑やかなリナル族の村。本来であればゆったりと静かな時を過ごすこの村で行われる誕生祭。
誰もが喜び、誰もが笑い、誰もが生まれた子の未来に思いを馳せる。幾度とその祭りを越えて新たなリナル族の子が生まれ育っていった。
そしてその子が新たな子を産む度に、神降ろしの舞を舞い、永久に存在する神を招く。
『今回は早かったな』
リナル族の中に紛れる金の髪に金の瞳の男は何処か距離を取ったように笑い、踊り、祝う彼らを見ていた。
『長の子か…名はラシュンだったか…珍しく花の名を与えたのか』
軈て、ゆっくりと歩き出し、沢山の人に囲まれた中。怖がることも泣く事もせずに笑っているラシュンとその子を幸せそうに見つめるプァナの元に歩み寄る。
その姿が見えていないのか、または見えてはいるが認識できないのか。誰一人として止めることは無い。
ただ産まれたばかりのラシュンの目は、金色を纏う男へと向いていた。赤子の視力は弱く、恐らく顔は見えてはいないだろう。
だが、小さな彼女は確かに目の前の存在を認識し、目を向けた。そしてその小さな手を金色を纏う男へと伸ばす。
「あーぅー」
『…ふむ、なにを言っているのか全くわからん』
「ぅあー」
『そもそも言葉かこれは?』
なおも手を伸ばしてくるラシュンに根負けしたかのように息をつき金色を纏う男は自らの手で優しくその手をとる。
良くない事だとは男は分かっていた。本来なら関わらぬのがこの弱く幼い子にとって幸いだと知っていた。
だが、雷を恐れぬ子だったというのなら、あるいはと。何処か願いにも似た物を抱いて。その柔らかで小さく脆い手に触れたのだ。
「ぅー」
『なんとも…ないか?』
男は恐る恐る問いかけるが、何せ産まれたばかりの子である。前世の記憶が残っていることの無いこの森で生まれた赤子であるラシュンにそれに応える術はなく。それ以前に何も考えていないということが男にもありありと伝わった。
『暫し共にあることを許せ、ラシュン』
「うぅー」
遠くからスピツが羽ばたき、飛んでくる。美しい青い翼が空が落ちてくるようで幻想的だ。リナル族代々の長のみに近寄るという彼等も唯一祭りの時のみ村へとやってくる。
『お前達も元気そうでなによりだが、あまり子に近寄るなよ? どうせ 既に長からも釘を刺されたろう』
ピィピィと抗議するように鳴き声を上げるスピツ達を煩わしげもなく聞き、少し罰が悪そうに視線を下げる。
『いや、私からでは無いから問題は無かろう、この子から伸ばしてきたのであって私はただそれに応えただけだ』
どこか言い訳じみた事を口にしながら男はラシュンを見る。特に何も変わった様子はない事に安堵 する。
柔らかそうな緑の髪に金の瞳。見慣れた色であるはずなのにどうしてこうも特別に見えるのか。
「ラシュンは祭りが好きなのかしらずっと楽しそう」
『…そうなのか?』
プァナの言葉を聞き相も変わらず男のことを見上げ笑うまだ存在が薄いラシュンに男も微笑み返す。エルフよりもはるかに美しい顔立ちの金色を纏う男が笑うだけで周りの空気が浄化される。目には見えないが確実に先程よりも澄んだ空気にスピツ達も調子が良さそうだった。
『初めてだ、ラシュン…夜が来て欲しくないと思ったのは』
周りを気にせずラシュンの手を取ったまま男は寂しげに笑ったが、それを見るのはスピツ達と唯一男を認識できたラシュンのみだった。
そのラシュンも成長すれば見えなくなる。見えなくなった頃には生まれてまもない今の記憶は少しも残ってはいないだろう。
寂しいという気持ちと、仕方ないという気持ち。ラシュンが成長するのが楽しみだという気持ち。願うことの許されない男はただ祈った。
少しでもこの小さな存在を感じれる事を。また、その小さな存在が自分を少しでも長く認識できるようにと。




