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小さな広場は今、セアラの舞台と化していた。
可憐でありながらどこか切ない深みのある歌声は、通り過ぎようとする人々の足を止めてゆく。
物心ついたときから歌うことが好きだった。
一人、また一人と増えてゆき、セアラの前に人だかりができる。
そしてまた一人、青年がセアラの歌声に気付き、歩みをセアラに向けた。
あれ?
セアラは歌いながら息苦しさを覚えた。どうしようもなく切ないような苦しいような、懐かしさがこみ上げる。
あの人は、誰? 誰かに似ている。
けれど思い当たるような人物は誰もいなくて、誰だっただろうとそればかりが頭の中をぐるぐる回っていた。
そんなセアラの視線に気づいたのか、青年もセアラに目を向けてくる。
二人見つめ合うようにして、セアラは歌い続ける。
青年はセアラに見入っていた。セアラもまた、その青年の中に懐かしさの元を探そうとする。
やっぱり、思い出せない。
ふと首をかしげたその拍子に胸元を飾る花の形をした鈴の首飾りが、チリンと音を立てた。耳になじんだ音色なのに、それがなぜか奇妙な懐かしさを沸き上がらせる。
それは今までになかった感覚だった。そして音色と共に脳裏をよぎる懐かしい面影。
あれは……。
歌い終わった瞬間、青年がうっすらと笑みを浮かべる。セアラが歌った後そんな表情を浮かべる人を、一人だけ知っていた。
「お兄ちゃん……!」
思わず叫んだ。
青年がひどく驚いた顔をして、セアラを見つめてくる。その顔に、ようやく昔の面影を見つけた。
……やっぱり!!
セアラの顔が輝いた。
「……セアラ、か……?!」
青年は、ひどく驚いた顔で彼女の名を呼んだ。