第八話 漢
遺跡から帰って既に三日経っている。あの後の事だが四人を始末した後、下呂を吐いてしまった。これは罪悪感からではなく生理的な物だろう。いや……同じ種族である人間を殺した禁忌の念からか? そしてランドセル型倉庫箱に入るサイズの金目の物を全て入れ、入らない物は背負えるだけ持って帰って来た。
エンリエッタの弓は上等なのでジュゲムにあげる予定だ。炎剣は俺の脳内ネットに登録可能で、設定を色々と弄れる様に成った。破壊力やら射程距離とかを弄れば面白い事に成りそうだ。まあ、それなりに魂力を消費しなければならないが、俺の魂力量なら心配は要らないだろう。
更には脳内表示で、俺専用の魂具に成ったと表示されている。俺の魂力でしか炎が出なくなる様だ。刀身自動修復機能付きの鞘も登録して俺専用にし、残りの盾とか小剣や槍は外食ペアにやるつもりだ。
今回のプロジェクトの顛末を、ジュゲム達には作り話で説明した。やはり親達には殺人の事とか言えんわな。
詳細はこんな感じで纏めてみた。旅で邪悪な化物の眷属達に襲われ俺の加護で何とか倒し、冒険者達に事情を話すハメになる。そして彼らが協力してくれる事に成り、眷属の来襲の時に彼らが「俺達に構わず先に行け、後で必ず追い付く!」て俺に言ってくれる。俺は彼らを見捨てる事を躊躇するも、シャイアントに叱られる事で泣く泣く先へと進んだ。そして俺が精霊の加護でボスを倒し戻ると、夥しい眷属達の死体の前でシャイアントが仁王立ちしていて「シャイアントさん俺やりました。皆の平和を守りました」って言うと返事が無くて「シャイアントさん?……そんな!」そして俺が泣き叫んだと話をすると親共は感動してくれた。
そして親達から、シャイアント達を称える銅像を作る話も出た。しかし、そんな善良な奴等では無い事は俺が良く知っている。だから言ってやった。
「彼らはそんな事の為に戦った訳じゃない。そうですよね? シャイアントさん……」
空に向かって微笑みながら、シャイアントの幻に問いかける素振りをしてやった。実際シャイアント達は、名誉の為に戦った訳じゃない。金銭の為に戦った訳だから嘘ではないだろう。すると親達も諦めてくれた。あと途中で帝国遺跡も見つけ、炎剣やお宝を手に入れた話もした。そうしなければ、俺の荷物の説明が付かないからな。
さて今回手に入れた複数の脳プログラムは、俺が能力を使う事で魂力を消費する様だ。まあ、腐る程に魂力はあるのだから使いたい放題だ。
まずは身体防御だが、致命傷を軽傷に、重傷を無傷に出来る位の効果が期待出来る。普通に食らう攻撃を十割だとすれば、一割程に軽減してくれる様だ。これはシャイアント達と戦った後に俺の身体を調べたら、わざと槍で突かれた部分に血が滲んでいた為に判明した事だ。やはり自分で太股を刺して確かめた衝撃より、殺す気で刺された槍の衝撃は軽減仕切れなかった様だ。それでも充分だが。
回復に付いては常人の十倍の速度で回復力が上がる。例えば小さな切り傷が跡形も無くなるのに10日掛かるとすると、1日で消えると云う事だ。細胞分裂の速度が上がるのか? それと感染症は人の細胞を侵食するが、10倍の速度でそれらを凌駕して修復する様だ。後は普通にしていれば、抗体が細菌を退治するのだろう。病でも回復を有効に使用出来ると云う事だ。新陳代謝の線もあるかもだ。これは一人だけ生き残っていたネリアンが実験に付き合ってくれたのだが、実験の過程で死亡してしまった。殆ど拷問に近い内容の実験になってしまった事が原因だ。彼の尊い犠牲のお陰で、第三者にネットワークを介して能力を作用出来る事も判明した。彼の冥福を祈ろう。
兎にも角にも俺の身体防御や回復は、常人とは隔絶した能力を発揮出来る。冒険者としての準備万端と云う訳だ。
今日はジュゲムとフォクスを誘って裏山の巨岩に来ている。火サスみたいに大事な話は断崖絶壁でする物なのだ。
「父さん、叔父さん。話があります。今回の一件で色々考えさせられました。僕は成人したら村を出て冒険者になります」
チートゲットして、安全がやっと保証されたからな。
「そうか……冒険者達との件で、そんな気はしてたがやっぱりな。お前は昔から特別だった。南部の田舎で燻る玉じゃないと思ってたぜ。でもな、親として言わせて貰うが村の外は危ねえぞ、分かってんのか?」
ジュゲムは俺を認めながらも、心配してくれている様だ。
「そうですねシグマが普通じゃないのは認めます。でも、叔父としても心配ですね。シグマの事だから何か考えがあるんですね?」
冷静沈着にフォクスが語る。
「はい、勿論です」
俺は10数メルドはある岩から飛び降りる。
「「おいっ!」」
ジュゲム達が騒ぐ声が遠ざかって行く。俺は5秒程も落下してから地面に危なげなく着地し、そして階段を昇ると二人が驚愕した顔で出迎えた。
「これが精霊の加護の力ですか、見ると聞くとは大違いですね。確かにこれなら身を守れるでしょう。納得です」
フォクスはウンウンと頷いてから唸る。
「参ったな一本取られたぜシグマ、でもヒヤヒヤさせんなよ」
ジュゲムは胸に掌をあてて息を吐く。
「僕の心配は無用ですよ。この力があれば傷を負う事は無いですから、あと家族にも僕ほどじゃないですが力を分けるつもりです。そうすればミレーヌ叔母さんの出産も安心ですよ」
身体防御と回復を全員に施していれば色々と安心だな。
「ほ、本当ですか? 高齢出産だから本当なら助かります」
フォクスが珍しく興奮した様子を見せるが無理も無い、出産を控えた妻子が居るのだから。
「僕はこの力を使えば村から出ても充分やっていける筈です。許可を頂けませんか?」
「仕方ねぇな好きにしろや。ハンナは寂しがるがな、あんなもん見せられちゃあな」
苦笑いするジュゲムは寂しそうだ。
「まだ先の話とはいえシグマの決心は揺らがない様ですし、残念ですが反対出来ませんよ」
「ありがとうございます。僕は炎剣シャイアントに誓います。立派な冒険者なると! 安心してください」
炎剣を掲げて炎を放つ。
こうしてミニプロジェクト[誓いの炎剣シャイアント]は大成功したのだ。
いつもの空き地で訓練をしていると、外食ペアがやってきた。
「「シグマ君、二週間もどこ行ってたの?」」
二人とも14歳になり身長が170メルに達しガタイも更に良くなった。初めて会った頃みたいに、効率も考えず我武者羅に木剣で殴り合ってた子供はもう居ない。剣術や槍術は、流れと切れのある精錬された剣術になっている。反射だけじゃなく重心、筋肉の張り、拍子、呼吸で相手の先を読み、もはや剣士と呼んで良いだろう。チャンバラなんか俺は知らないが闘争の基本的なセオリーは変わらない。だから相手の動きの機微を感じられる様に、何とか形にはしてやれた。前世の本職から見れば穴は有るかも知れんが、ヤンキーバットよりゃましだ。闘う為には体格や反射も大事な要素だが、相手の事前の情報はもっと大事なのだ。
外食ペアも外見は木剣振るだけで何も変わらないが、中身は別物に変化されている。
更に俺が脳ネットワークで強化してやればそうそう倒されないだろう。1年後の彼らの成人時には、もっと上達して出発できる。
「二週間の話は後でな、ファミレス、コンビ今日は二人に贈り物がある」
「何を貰えるんだい?」
コンビの声が期待に満ちている。
「旨いの?」
ファミレスよ、食い物じゃないぞ。
「俺が精霊の加護を受けたかも知れない、という噂は聞いてるか?」
神童と呼ばれてからそんな噂がたったらしい。
「うん、皆は村長さんに口止めされてるけど流石に知ってるよ」
やっぱりフォクスが裏で動いてたか。
「そこでだ、俺の授かった加護をお前達にも分ける事は可能だ。冒険者は危険な職業だが、これがあればお前達の安全性は格段に上がる。どうする? 欲しいか?」
流石にコイツらとは出会いこそ最悪だが、付き合いも長く信用出来る。ネット接続自体のリスクはチャイルドロックで無いに等しい。まあ甘いかもしれんが、1番の理由は何だかんだ言ってコイツらに死んで欲しく無いからだな。
それに相対的に見て人を切り捨てながら進む奴の世界は閉じていき、人との絆を大事にしてる奴は世界が拡がってく、そしてそれは強みだ。
「欲しい! くれんのか?」
「待ってファミレス! ねえシグマ君、僕らを強くしてくれたのは間違い無く君だよ。友達だし信頼してると言っていい、だけど付き合いが長いからこそ分かるんだけど何か狙いがあるんだろ? 君がただ友達甲斐だけで此処までしてくれるなんて思えない。もしも、それだけだったとしたら僕らは甘え過ぎだ。もっと僕らにも頼ってよ、そしてもっと君への友達甲斐を感じさせて欲しいよ。じゃないと寂しいじゃないか」
悪い舐めてたわ、ガキだと思ってたが立派な漢だな。
「そ、そうだな俺もそれを言おうとしたんだ、ウンウン寂しいぞ!」
ドモってんぞ。
「ははっ、ねえファミレスもこう言ってくれたし、教えてよシグマ君の考えてる事。出来るだけの事はするよ? それだけの借りはあると思ってるし、何よりそうしたいんだ僕達が君の為にね」
やっぱり嬉しいな、そんな事言われると。
「お前達の気持ちは分かった。そう言って貰えて俺も嬉しいよ。あんがとな」
「へへっ、照れるよそんな風に言われると、まあ打算的な面も無い訳じゃないさ。前から思ってたけど、シグマ君には僕らとは違う景色が見えている。それを僕らも見たいんだ。認めてくれて嬉しいよ」
「そうか……そうなると長い話になるな。次の訓練日にこの続きを話そう。お前らその日に泊まりで裏山へ行けるか?」
計画変更だな良い方に。ただ単に加護をやるなんて言って動いて貰うつもりだったが、俺の思惑を話すか。
「余裕だね俺ら冒険者になんだぜ、そんくらい出来ねぇとな」
いやお前らの親父さんの許可の話だぞ?
「トマス父さんの心配なら要らないよ、一泊くらいなら何とでもなるし」
「そうか、なら今日は訓練だけして次の訓練日に泊まり掛けで話そう」
「「わかった」」