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第七話 浸透勁

 遺跡は、20メートル四方位の大きさに10メートル程の高さの岩で出来た建築物だった。両開きの岩の扉が正面に付き、岩の棒が扉に閂として噛ましてある。


「お前ら、行くぞ」


 四人が嬉しそうに扉を開け中に入っていった。俺は、そんな彼らを離れた場所で見ているしかない。四人の俺を見る目付きが、随分と酷い物に成っているからだ。もう餓鬼は用済みって訳だな。


「凄ぇぞ、こりゃあ!」


 オビートが興奮する声がする。随分と良い物がみつかった様だ。


「当たりね! この遺跡最高!」


 エンリエッタが喚く。


 暫く経って全員が荷物を持って出て来た。発見したのは高価な貴金属らしく、彼らは換金すれば幾らになるのか皮算用している様だ。その中でもシャイアントの持っている長剣が、特に見事だった。


 80センチの片刃の剣身に方形の朱色の鍔、片手と両手のどちらでも握れる漆黒の長い柄が付いている。シャイアントが長剣の柄尻を弄ると、パコッと音がして柄尻が開いた。奴は懐から魂石を取り出すと其処に突っ込んで蓋をする。どうやら長剣には何か細工がされている様だ。そしてシャイアントが柄をグリッと回した。すると銀色だった剣身が真っ赤に染まり炎が吹き出す。成る程、そんな仕掛けなのか。これが帝国遺物なのかと長剣を眺めていると、彼らは遺跡で泊まる為の準備を始めた。


「おいっ! ちょっと試し切りと狩りに行って来るから待ってろ!」


 シャイアントは、長剣を試したくてウズウズしてるな。彼らがその場を後にすると、すぐさま焚き火を起こして煙が遺跡に入る様に工夫をする。遺跡内部を殺菌する為の煙だ。充分な煙が入ってから、お手製の炭入りマスクを付け中に入った。


 中には既に何もないが俺の狙いは壁と床だ。触りさえすれば地図が表示された岩の時の様に、何かが起こるのではと期待している。呼吸を整えて魂力の満ちた手で順番に壁や床を撫でると、床の中央に触った時に脳内液晶画面が起動して、メッセージが表示される。


『魂力の入力を確認しました。まだ、規定量の魂力が入力されていません』


 よし! 思っていた通りだ。やはり帝国の遺跡は俺の魂力に反応する。でも規定の魂力ってなんだよ。どうすれば良いのか分からんが、兎にも角にも入力を試みるしかないか。おりゃ! どうだ!


『規定値の魂力の入力を確認しました。開閉しますか?』


 何かを開けるかどうかの質問が表れる。開ける事を選択すると、床がスライドして階段が現れた。早速焚き火からまだ燃えてる薪を取って階段に投げまくり、殺菌処理をする。そして暫く経ってから降りていった。


 六畳間位の空間に台座があり、頭に被るであろうサークレットとランドセル位の箱が置いてある。他に何かしら無いかと部屋中の壁や床を触るが、全く反応しない。諦めて鎮座してある物品を取り、床を閉める選択をして遺跡の外に出た。


 さて、サークレットは多分だが頭に被って使用するのだろう。被れば恐らくだが、地図の時の様に新たな機能を脳に移植出来るのではと睨んでいる。本来は博打要素ありきの行動はしたくなかったのだが、これも全ては大物に成る為の試練だと思えば良い。


 ある程度の対策は練ったが、その中でもこれが一番の博打になるのだろう。俺は覚悟を決めて、得体の知れないサークレットを被った。


『ピーンポーン』


 前世のドアベルの様な音の後に、脳内液晶画面が表示される。賭けに勝った様だ。画面右上に文字があり、上からマップ、ネットワーク、身体防御、回復、倉庫と災害施設用らしいラインナップだ。そういえば緊急用だったな、この遺跡。


 脳内地図の表示は、以前と変わりがない。そりゃそうか。ネットワークは何故か文字が灰色で表示され使えなかった。ネットワークだから繋がる相手が必要なのかもな。身体防御と回復の文字は緑で表示されて使えそうだ。


 俺は賭けに勝った訳だが、この増えた項目を誰かに相談しても分からないだろう。この表示されている画面にも説明文らしき物もなし。自分で色々と確かめるしかないのだろう。


 回復は言葉の通りだろうが、何をどう回復するのかは検証が必要だ。倉庫はさっきのランドセルサイズの箱を調べると、やはり仕掛けが施されていた。留め具が付いていたのだ。留め具を外し上蓋を開けて、俺の持っていた干し肉を仕舞った。そして脳内の倉庫表示を確認すると、こんな表示が出る。


『収納しますか?』


 収納すると念じると干し肉が倉庫に収納されたと表示され、倉庫リストなる項目が追加された。タップする感じで念じてみるとリストが表示される。勿論だが今入れた干し肉が表示されている。箱を開けてみても何も無くなっていた。良し! 使えるなこれは。ネットワークは反応無し、やはり相手が必要なのかな。


 次は身体防御を念じてみると、何となくだが身体の表面を透明なオーラが覆った感じがする。これが身体防御なのだろうか。腰に装備していた短剣で太股を軽く突いてみた。すると剣先が触る感触はあるが、身体防御とやらはちゃんと機能してくれている様で傷一つ無い。ならばと、徐々に剣先の勢いを強めてみた。本気の力を込める頃には、太股に軽く圧力が届く程に成り始める。


 剣先の勢いを身体防御が軽減してくれて、何とか耐えられる程にしてくれた様だ。


 恐らくだが俺の身体を覆う透明なオーラに外側からの衝撃を与えると、実際の衝撃を減らしてくれるのだろう。剣撃を耐えられるのならば、それはこの世界において凄いアドバンテージになる。


 やっとチートを手に入れた! 宝くじに当選したのだ! 凄く嬉しいが、そろそろ四人が戻ってくる筈だ。その前にランドセル型の倉庫箱を自分の背負い袋に隠さないとな。俺が遺跡を探った痕跡を全て消し去り、連中の帰りを待った。


 夕方に四人は戻って来たが、随分と辛そうで身体の調子が悪そうだ。思ったよりも早く結果が出たな。もう数日かかると思っていたが。千年単位で密閉された空間なんて、衛生的に良い訳がないのだ。空間は際限の無い細菌無限増殖場になり、人が呼吸すると細菌感染して高熱になり場合によっては死ぬ。だから俺は煙で燻してからマスクを付けて遺跡に入ったのだ。


 多分四人とも無防備な状態で居た為に感染したな、サッサと殺してやった方が楽かもしれん。飯も喰わずに、四人は未だに危険な遺跡内部で寝てしまう。俺は安全な外で見張りをする事になった。困ってる時は助け合いの精神なのだ。


 さっき四人がフラフラしていた時に思う処があり、彼らに触れてみた。またベルが鳴る。


『ネットワークを構築しますか?』


『チャイルドロックネットワークを構築しますか?』


 この二つのガイダンスが表示された。脳で相互にネットワークか。脳に液晶画面が出るのならそう成るわな。古代人は脳同士で色々出来るネットワークを構築して居たのだろう。兎にも角にも確かチャイルドロックは、子供が危ない物や大事な物を弄らない様にするもんだった。


 災害用の脳内チャイルドロックプログラムと云う事は、子供に気が付かれず尚且つ弄れない仕様が考えられる。それは奴等にも気付かれないと云う事だ。四人が寝た頃に、待機状態のガイダンスにチャイルドロックの仕様へ[イエス]と答えた。すると地図上に、四人分の光点とそれに附随する小さな液晶画面が浮かんだ。


『プログラムを送信しますか?』


 そんな文字が表示される。まだ待機状態のままの方がいいか。それに無線仕様みたいだし、離れてみても距離は関係が無い様だ。流石は古代帝国、まあ最初だけ相手に触れる必要がある様だが。


 明朝起床した四人は更にフラフラとして、熱も上がりヤバそうだった。このままだとマズイと分かったのか、すぐ出発するそうだ。そして二日経っても行きの一日分も進めずに全員が寝込んでしまい、死へのカウントダウンが始まった。


「あんたっ帰ってきたんだね! 嬉しい!」


 エンリエッタは昔のエア彼氏とヨリが戻った様だ。オビートは意識が戻らない。ネリアンはブツブツうわ言を呟く。シャイアントだけ意識があるのか、空を眺めて考え事だ。


「坊主、いやシグマだったか。俺たちゃもう駄目だ。お前独りだけで帰れるかどうかは分からんが、遺跡のお宝は凄ぇ金になる。だから帰れたら俺の分け前を故郷の家族に届けて欲しいんだ。もし意識が戻る様なら他の奴等にも訊いて、出来れば届けて欲しいんだ。俺の最後の頼みだ」


 突然調子のいい戯言をほざくゴリ男に内心呆れ果てながら「分かりました必ず届けます」と言うと、涙を流して感謝してきた。単純な奴だな、届けねぇよ。



 四人が寝たのを確認してから、回復プログラムを四人に送信し起動した。病に回復が効くのかどうかの実験だ。同時に俺の魂力を個々の脳プロに1万程だが送ってやる。


 すると、奴等の回復プログラムがぐんぐんと魂力を消費し始める。どうやら成功のようだ。夜営場所の周りに鳴子を仕掛け、俺も少し寝る事にする。


 騒ぐ声で起きると、四人は自分達が治ってる事に驚いていた。だが奴等の個々の回復プログラムの魂力は残り少ない。今も、ぐんぐんと魂力を消費している。使い切れば、また病に身体が負けて倒れる事に成るだろう。俺が再度魂力を補充してやれば自己免疫力で完治するのだろうが、やるつもりはない。


「シグマ、悪いが状況は変わっちまった」


 シャイアント達はニヤニヤしている。こうなる事は、分かって居たのだ。しかし、身体防御を手に入れた事で勝算は充分にある。確かに俺は赤ん坊から身体を鍛え上げてきた。とはいえ、渾身の攻撃でしか相手にダメージを与えられないだろう。だが急所なら別だ。最初から急所狙いで片付けるか。


 俺は服の破損回避と相手の驚きからの隙の為に、服を脱ぎ上半身裸になる。


「シャイアントさん、どういう事ですか?」


 まあ予想は付くが。


「分かるだろ、身体も治ったしお前ぇはもう用無しなんだよ。昨夜は感動したぜ、お前ぇは良い奴だ。しかしな、それはそれ、これはこれだ。じゃあなシグマ、恨むなら馬鹿な自分を恨め」


「そんな!」


 演技してみる。


「おい、ネリアン」


 シャイアントが顎を振って指示した。


「また俺かよ仕方ねぇな、分け前増やしてもらうぜ」


 嫌々に見えん。四人は完全に俺を舐めていて、三人は好き勝手に他の事に集中しだした。ネリアンがこっちに歩いてくる。俺の前で止まり、両手の短剣の右短剣を俺の胸に突き立てるが勿論刺さらん。身体防御が効いているのだ。


 驚くネリアンの目を、人差し指と中指の二本の指で突く。すると奴は咄嗟に反応し、奴の鼻筋の前で左短剣を縦に構えた。確かにこのままだと俺の指の股は裂けるハメになる。そこで俺は人指し指一本に変更し、手首を内側に捻って奴の短剣を避け片目を突いた。


「おおっ……」


 呻くネリアン。激痛で殆ど声すら出ない様だ。怯む相手の頭を両手で掴み顎を跳び膝蹴り、口から歯を吹き出し意識を失った。奴は無視して次に。


 独り背を向けて、野営場の外側を見張っているエンリエッタへ忍び寄る。地面が砂地のお陰で静かにいけた。


 後ろから跳び箱みたいに跳んで肩車してもらう形になり、俺の股で相手の頚部をガッチリ固定して後ろ向きに落下しながら捻る。太股の間で人の頸の骨が破損する音が鳴り、エンリエッタの頭部は一回転半位して彼女は絶命した。


 振り向くと残り二人が驚愕し、こっちを見ていた。するとオビートが叫びながら走って来て、槍を俺の胸に突き立てるが刺さらない。激昂するとは……あの女に惚れてたのか?


「何だと!? 刺されよぉ!」


 オビートがぐいぐいと槍を押した。まあ刺さりはしないが、地面に踏ん張らないと弾き跳ばされそうだ。相手が驚き固まる間に、オビートの左手首を掴み固定して、小指を掴んで折ってやった。ジョイスティックの様に小指を回すと、骨が鳴る。


「ぐがあぁぁ! 痛え! 糞餓鬼が!」


 叫ぶ奴を無視して奴の手首と肘を掴み、相手を腰に乗せて一本背負い。


「え?」


 オビートは意外そうな声を出した。奴より小柄な俺に投げられた、意味が分からないのだろう。外人さんは皆さん、そう仰います。体格でしか判断出来ないんだな、奴等。


 偶々あった地面の石に奴の頭を叩き付けると、頭が割れてプルンと頭の中身が零れる。絶命した奴を無視して次へ。


 シャイアントは、炎の長剣に魂石を充填していた様だ。柄をグリッと回すと刀身が赤熱化して炎を纏った。そしてシャイアントが威圧的に歩きながらこちらに近付く、流石に赤熱化した剣身には強化した俺でも焼き斬られるだろうから避けなくてはいけない。



「何者なんだオメェは! 仲間をよくも殺ってくれたな! 結構やるみたいだがこいつにゃ敵わねぇぜ!」


 炎剣に余程自信が有るようだ。俺は左腕を緩く前に突きだし、右拳はアゴのちょっと前に構える。奴は俺の傍まで来ると攻撃を開始した。


 盾撃と炎剣が怒涛の如く上下左右から襲ってくる。しかし、奴の単純な剣技を予想する事は容易い。それに、道中の戦闘において奴の動きを観察していたのだ。横凪ぎに首を刈ってくる炎剣を臥せて躱し、盾に依る打撃を身体全体を移動させて避ける。


「糞! ちょこまかと!」


 奴は盾を捨て両手で長剣を握り、益々剣の回転数が上がってゆく。しかし幾ら速くなろうが、既に奴の剣技の拍子や溜めの癖を掴んでいる俺には意味が無い。暫くして剣の炎は消え、さっきの剣撃の嵐が嘘みたいに剣がゆっくり降りてくる。


 シャイアントが上から真っ直ぐ降り下ろす剣を半身になり躱し、懐に飛び込み両手を相手の腹に添える。奴の顔を見てニヤリと笑ってやった。


「ま、待て!」


 普通はこの態勢から有効な攻撃など打てないと判断する筈だが、生死の掛かった状況で何かしら感じ取ったか。もう遅いが。


 腰を震わせて、その場で両足を震脚……発勁。


『破!』


 相手の腹へ一瞬で両掌を捻り込む。その瞬間シャイアントの目は飛び出し、神経の紐だけで眼孔から垂れ下がった。鼻、口、耳からも血が吹き出し絶命した。


 練習場のゼリム樹脂以外で初めて使ったが、浸透勁は凄い威力を弾き出してくれた。


 浸透勁を周りの人が見ると、掌を相手に付けた状態から押しただけに見える。すると相手の目、鼻、耳、口から血を噴いて死んだ様に見え、掌から氣が出て相手の中で爆発したとなる。しかし気などは存在しないのだから、別の理由があるのだ。


 浸透勁とは呼吸法の際の切腹の話と関係がある。外側からの圧迫撃によって、切腹の話とは逆のベクトルを起こす事なのだ。大気圧で圧縮されている肉体を、更に圧迫撃によって圧縮する。するとサンドイッチ状態の本体は自己容量の逃げ場を失って、唯一の圧力の逃げ場である人体の穴へ殺到する。


 4000年の国の拳法は人体を水袋と考えて、敵の身体に触れてからの体内での変化を重要視し、体内の圧力や体外気圧を上手く利用した圧迫撃を産み出したのだ。



 こうして第3プロジェクト[邪悪なる波動]は大成功で幕を閉じた。





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