第二話 情報収集
あれから3年が経った。どうやら異世界転生で間違いない様だし、確定で良いだろう。あれから立って歩かないと話にならんと思い、訓練を始める事にした。
赤ちゃん時からグーパー運動及び足モゾモゾ運動して、鬼速ハイハイへと移行し、今ではテレビから這い出てくる人っぽいムーディーな歩き方で結構いい線いってるのだ。同時に言葉も訓練して、柔らか乳児脳ですぐに覚えていった。
うちの村はマクシズ王国の南部ボイド伯爵領マルーン村という、麦が主要作物の200人ほどの村だ。俺は今世じゃシグマと呼ばれ、金髪碧眼の子供をやっている。
この異世界の人類は前世の様に、類人猿から進化をしたのかも知れん。これは進化や順応の話だが、洞窟などで暮らしていたであろう古代では、暗いから目の色を薄くして光が入り易く進化し、髪や肌の色も金髪や白に進化して反射材として周りの光を増加し、効率的に暗闇でも活動出来る様に変わっていったのかも知れん。あと天候が崩れて吹雪くと、狩猟出来ないとかで残り物の腐り毒肉ばっかり食っていたとしたら、同じ発酵物で体内では毒物化する酒とかにも強そうだ。前世は下戸で呑めなかったんだが、呑めないのは人生半分損らしいので楽しみだったりする。
父親はイカツイ顔のガテン系ことジュゲム、狩人をやってる二十歳の気の良い奴だ。母親は可愛い系のハンナ二十歳。両親は俺に深い愛情を注いで育ててくれ、とても感謝のしている。
あと近所に叔父が住んでいる。母親の兄貴で、29歳狐顔ことフォクス。彼は村長をやってるのだ。フォクスの嫁が26歳のミレーヌ。色気ムンムンさんで、昔は争奪戦があったとか。
でもミレーヌは子供が出来なくて、石女と陰口を言われて可哀想な時もある。
それと村に飢饉が珠にあり、連作障害らしく周期的に起こってるらしい。食糧問題は俺の生存率に大きな影響を与えるだろう。なら必要なのは農業の改革だ。
ここは、ラノベ定番の輪栽式農業が良いだろう。だが世界の法則性とやらで、輪栽式農業が通用しない可能性も有り得る。だが、この儘だと生活苦に陥る可能性もある。だから実験の協力者としてフォクスに白羽の矢を立て、二人っきりの時こんな風に声を掛けた。
「フォクス~!」
フォクスは微笑む。
「どうしたんです、シグマ?」
「あのね~伝言~」
「ジュゲム達ですか?」
「違う~おっき~のから~」
「おっき~の?」
「おっき~の!」
俺は、両手を上げてジェスチャーで大きさを強調する。
フォクスは、一瞬天井を仰ぎ溜め息を吐いた。そして微笑んでから、俺を撫でてくれる。フォクスは子宝に恵まれない所為なのか、とても俺に優しいのだ。
「どこで会ったんですか?」
「うち~」
フォクスは首を傾げ「今日は皆畑に……」とブツブツ言って。
「今日ですか?」
「違う~ずぅ~とずぅ~と前」
フォクスは首を傾げて“ずっと前”と呟き、考え始める。
いくら神童と呼ばれ、この歳でペラペラ喋ったとしても、3歳の子供のずっと前は意味不明だろうな。
「ええと、おっき~のがシグマの家で私宛の伝言をシグマに頼んだ……で、合ってますか?」
「うんっ」
困惑顔で確認したフォクスは、話を続ける。
「なんて伝言ですか?」
「え~とね~大地を癒す作物の育て方を授けよう。小麦、カブ、大豆、クローバー、の順で四年周期で育てよ。さすれば実りを約束しよう。だよ!」
「はっ!?」
フォクスは、ポカンとした後で考え込む。
あっ、復活した。
「シグマ、おっき~のさんは、どんな人かもっと詳しく教えて下さい。あと家の部屋に入って来たんなら、ジュゲム達も知ってる人ですか?」
「おっき~のはね~村の裏山よりずぅ~とずぅ~とおっき~の。あとピカピカ光るから顔分かんないよ~。お部屋で寝てる時おっき~のの手で雲の上までいったの~。だけど父さん母さんに言っちゃ駄目なの~」
フリーズモードのフォクスを叩いて、再起動させた。
「まさか……シグマ、あなたの夢じゃないんですか?」
「どっちでもいいよ~でも~おっき~の信じないと、村に災いが起こるって言ってた~」
「ええっ!」
「誰にも言っちゃ駄目だよ~約束ぅ~」
用も済みその場を後にした。しかし後で、復活したフォクスに根掘り葉掘り聞かれた。
「なにが~? おっき~の? だれ~?」
といって煙に巻く。
フォクスは最初こそ怪しんで色々言ってたが、途中から俺のことを未確認飛行物体にアダプトされた人の様に見ていた。なんしか諦めてくれたようだ。
この世界では精霊信仰が盛んで、それを利用させて貰う事にしたのだ。なぜフォクスかと言うと、村長で頭脳明晰、対外交渉も出来て、近隣の村々に顔も利く、だがこの世界の主流である精霊信仰などの超常現象に恐れがあるのを知っていたので、協力してくれると思ったのだ。
俺の知識は作物の順番と四年周期だけだし、フォクスならヒントだけでも充分にやり遂げる事だろう。こんな感じで第1プロジェクト[おっきーの]は、フォクス頑張るという大成功な訳だ。
5歳になった。周りとの会話ぐらいしか娯楽がない人々から、膨大な盗み聞きと幼児技何故何何でで色々と調べた。
昔に古代帝国があり、人々は神の如き力で栄えていたそうだ。だがある時、人々は力を失い滅びかけた。それが千年程前で、この頃の遺物も有り摩可不思議物らしい。それと大陸の中央に位置するマクシズ王国は、前世の九州みたいな形をしている。暦は前世と変わらず365日、今年はマクシズ暦1003年だそうだ。今だと精々これ位しか分からん。
俺は世間話をする親類四人と、フォクスの家で晩飯を食っている。ミレーヌの膝の上で後頭部の感触を堪能しながら、俺は新たなプロジェクトの手順を再確認していた。四人の会話の頃合いを見計らい、声を掛ける。
「お話したい事があります」
5歳迄に徐々に喋りを進歩させ、丁寧な口調で切り出す俺に皆が注目する。
「どした? シグマ」
ジュゲムが、ぶっきらぼうな調子で聞いてくる。
「実は、こんな物を作って来ました」
テーブルの上にコトリと置いた、野球ボール位の塊を見てもらう。蝋燭の灯りに照らされたそれに、皆の注目が集まる。
「これは何かしら?」
ミレーヌが俺を後ろから胸で押しながら、赤いボール状物体を弄る。
「見た事ないね~こんなの~」
ハンナは、向かい側からコロコロとボールを転がす。俺が間延び口調だったのは、先生がハンナだからだ。
「唐辛子を削って、球状に固めた物です。とある御方から教わりました」
とある御方と言った時に、フォクスが驚愕の表情でこちらを見る。黙って頷くと、フォクスが凍り付いた。
「毒って教えたはずだ!」
ジュゲムが吼える。
まあ、5歳の子供と毒のコラボは駄目だよな。
一般的な毒判定方法は気合いで端っこをかじり、痺れや痛みなどで判断するからか異世界に於いて唐辛子擬きは落第らしい。
しかし唐辛子に瓜二つな見た目から金の匂いがするので、ジュゲムが生け捕ったウサギに無理やり食わせて安全確認を取り、自分を実験体にもした。
商品的にパンチが欲しくて、球状の木片にオクラのネバネバの様な物と唐辛子粉を練って塗り天日干し、乾燥して固まってる奴をパッカンし木片を取り、空いた空間に辛子粉を詰めて接着して唐辛子ボールの完成だ。
殻が器替わりでそのままズタ袋に入れ輸送に便利、大きい鍋ならボールごと入れてピリ辛スープ、肉なら振りかけ、冬は靴下や木靴の中へ振りかけ暖まる。旅人は出会う敵すべてに投球し、痴漢撃退スプレーみたいに使用する。
興奮するジュゲムをフォクスの口添えもあり宥めてから説明を終え、四人に肉と共に食わせて儲かりまっか? と訊いてみる。
「毒の印象を払拭さえ出来れば、充分商品になります」
フォクスが言ってくれて、かなり安心する。
「頭良いのは知ってるが、まだ5歳でこれか……父親の威厳が……」
ジュゲムは、ブツブツと何か言っている。まあ知的な意見は期待してないので、後で採取してくれればそれで問題無いだろう。
「凄い~美味しい~」
ハンナは凄いを連呼している、問題無し。
「私には合わないみたいだわ、ちょっとね……」
ミレーヌは、辛いのが駄目な様だ。極少人数リサーチだが、好感度75パーセントなら合格かな?前の様に丸投げして協力をお願いして、第2プロジェクト[スパイスボール]は、おまいら精々頑張れという大成功な訳だ。
結果的にスパイスボールは、新しい香辛料として利益を叩き出した。特に人気の火付け役になったのは、行商人達だ。彼らにスパイスボールは受け入れられた。
剣は知らんが、ガキの頃に石投げ遊び位は皆やる。元々石投げ自体が、行商人の自衛方法の一つだ。それに冬場の旅路に辛い鍋物はぴったりで、香辛料は嵩張らず利益率も良いし、放っといても行商人が唐辛子の認知度を高めてくれた。
その中でも以前からマルーン村に行商に来るハグナムさんは、フォクスの幼馴染みでもある。暫くは、彼がスパイスボールを宣伝してくれていた。
そんな彼は行商時に、盗賊に囲まれたそうだ。絶体絶命の時の為に伝えておいた名付けてハルマゲドンモード、別名飽和自爆攻撃で多数のスパイスボールを周辺へ投げ、自分だけ風上へ逃げて水筒の水で目を洗い、盗賊達は目を擦り行動不能になったそうだ。
結局全員縛って街に連れて行き騎士団に預け、盗賊達を犯罪奴隷として売った金で都市部に店を構える事になった。このエピソードにおいては武ではなく、度胸や判断力、商品への理解などが行商人の心の琴線に触れたようで、唐辛子が行商人の人気商品になるのを助けてくれた。