ステータスチェンジ
「なぁ弓長。どうして人間は見た目で判断するんだ?」
ヤクザ顔の面を持つ三矢正明は仕事仲間でイケメンである弓長晶に尋ねた。
そんな質問。お前さん、何年その面で生きてきたんだって言い返したい。
「分かりやすい人生のステータスじゃないですか」
「女にもモテるイケメンはそう思うが、俺達は思えん!」
顔というステータス。なんとアンバラがあるものだ。現実というゲームに訴えるよう、三矢は弓長の胸倉を掴んで殴ろうとする行動までとる。
「顔の造り直しとかできねぇのか!?さっきの客!明らかに俺にビビッていただろ!!脅してねぇからな!」
「三矢さん。整形とかありますよ?イメチェンしましょう。それと、私を脅迫してませんか?」
「俺だってな!お前みたいな甘いマスクを被りながら営業をやりてぇよ!女がホの字になるような営業トークしてぇよ!俺がやると、ヤクザ営業と勘違いされるんだよ!」
やれやれとしながら、三矢の手を振りほどいてネクタイを締めなおす弓長。
悩みはいくつもあるだろう。一生、麻痺った顔。毒ってる顔。腐った顔。饅頭みたいな旨そうな顔。
イケメンというレア顔を取得した奴はどうして、努力して手に入れたという思想でいるのか?せいぜいできてスキンケアだけだろ?骨格は整形まで行かなきゃなんねぇんだよ。……努力じゃないんだよ。結局、金なんだよ。あと才能と運。
「金使って顔を作る時代になったんですよ?可愛いは作れると、言われるじゃないですか?」
「俺は男だ!大体、そのなんだ……イケメンってなんだよ。弓長は分かる!松代さんもわりかし分かる!」
「は?」
「イケメンを定義しろ!弓長!お前、イケメンだろ!?」
一体何が三矢にあったのだろうが。自分のヤクザ顔を捨てたい気持ちはあるんだろう。それで、次に選ぶ顔はどんなのが良いか……漠然のイケメンと言っても色々ある。カッコイイ系、可愛い系、大人らしい系、男らしい系、マッチョ系などなど。この世が進んで行くほど増えていく。
「男の人にそう言われると、気分悪いですね」
「いいから教えろ!なんかこう……お前みたいに。ちょいポニーテールが決まって、目はさわやか、体つきだって俺より劣るが貧弱じゃない。肌も綺麗だ。例えるなら、女らしさある美男子!イケメンリーマン!現在、彼女持ち!」
「気持ち悪くなってきました、三矢さん。腐女子の安西さんと林崎さんを呼びますか?」
「俺にそんな趣味はねぇよ!退くな!お前を分析し、イケメンを知りたいだけだ!」
後ずさる弓長と、一歩追った三矢。
混乱している三矢に弓長が助言してこの緊迫状態を解く。
「そもそもイケメンというのに限らず。広く多く人に認められることを、三矢さんは求めている気がします。人の感性はそれぞれですよ。イケメンの範囲内も」
「……なるほど」
「実例を見せましょう。瀬戸くーん。ちょっと来てよ」
ちなみにこの会社は小さなゲーム会社である。社長を含めても10名も満たないゲーム会社。
三矢と弓長はゲーム製作にも関わるし、経理や営業にも関わる。幅広い仕事を引き受けている人材であった。便利屋ポジション。
「なーに弓長」
弓長はここのグラフィッカーの1人。子供としか思えない身長を持つ、エロイ童貞。瀬戸博を捕まえて質問する。
「君の考える美少女ってなんだい?」
「それはもう、二次元で、巨乳で、目が大きくて、肌がふわふわして、背が高く……」
「ね。三矢さん。最初から瀬戸くんと女性の好みが違うでしょ?」
「弓長。まだ瀬戸が言いたいことに続きがあるみたいだぞ」
「意見が合って、どんな命令でも聞いてくれて、毎日三食のご飯を作れて、子作りに積極的で……」
瀬戸の細かな条件はきっとORだろう。IF文かつ&で条件を決められたら、二次元とはいえヒットできる美少女はいないだろう。わずか10秒で20ほどの条件を吐く瀬戸に、感心しながら弓長は現実に戻す。
「仕事に戻っていいですよ、瀬戸くん」
「ああぁぁ!妄想したら、仕事を放棄して描きたくなった!頑張るよ!弓長!さっさと仕事終わらして、美少女を作るよ!」
足早に作業部屋に閉じ篭った瀬戸。そのテンションはここに来た時よりも高くなったようだ。モチベ上げに貢献。
瀬戸に限らず。顔についての考え方は人によって異なるだろう。つまりはイケメンというステータスは人によって様々なのだ。
「というわけです。そんなに悩まなくても、三矢さんを慕う人は必ずいるじゃないですか。会社の人間はそう思ってますよ」
「弓長……」
だいたい。上手く、イケメンなどの定義の話がまとまってから。
「それで俺が弓長のような、スマイル営業ができるか?イケメンと思う人はいるのか?」
「それは無理ですね。ヤクザ風営業が合います」
結局。三矢はヤクザ顔なので、イケメンにはまずならない。イケメンじゃないのならそれ以外の道を歩むのがベストなのだ。これはイケメンじゃない奴等にはカンケーのなかった話であった。落ち込む三矢だが、この両親から頂いた面をついに変える時が来たと決心。カードを取り出す。
「金使うか」
「三矢さん。手術を受けられるほど時間がありませんよ。休暇なんてこの先ありません」
「そーよ。さっきから何不毛なお話をしているのかしら?答えなんてないでしょう?」
営業は確かに成功した。わずかながらそれを許していた。二人の雑談を気にして集中を解くほど愚かな社蓄はこの会社はいない。だが、ただ1人……。
2人が恐れている人物が背後にいた。容姿端麗であっても、社内随一の行動力がヤバ過ぎて震える。酉がこっちを向いてにこやかな笑顔で、調理場の包丁を持ちながらいる。酉なら包丁で遠慮なく、人を斬れるほどの行動力があることを2人は知っている。
「と、酉さん!いや、酉社長!」
「い、いらしていたんですか……なんですか?その包丁は……て、手料理の準備?」
「お仕事。さぼっちゃダメよ?三矢、弓長。この空間に休憩時間はないのよ」
バチンッ バチンッ
この会社の社長。酉からキツイビンタをもらった三矢と弓長。その後、包丁は酉が調理場に向けて投げ込んで壁に突き刺さった……。
ヤクザ顔だろうが、イケメンだろうが。容赦なく行動できる社長。無論、それは仕事や目的においても容赦がない。
「俺なんかより酉さんが一番恐ぇな」
「ええ、まったく」
人の内面の恐ろしさを知った二人であり、また人間を忘れて社蓄に成り果てるのだった。




