選定
目覚めると、そこは形容し難い様々な色が独自の虹を主張しあう、まさに混沌だった。
五兆年もの間、ただひたすらに生殺与奪に思いを馳せていた彼にとって、全くの無からの突然の視覚の変化など取るに足らないことで、この混沌の時空が自分をどんな世界へ誘ってくれるか、そこでどんな殺しができるか。
心はそれ一色に染まり、自然と笑みが溢れた。
永久の時を経験した彼は、その無限に思える時の中、一秒一秒殺しについてのみ考え、もともと彼に備わっていた感情のすべてが、殺しという行為の上に成り立つようになったのである。
殺せるから、楽しい。幸せ。嬉しい。
殺せないから、悲しい。憎い。
彼が五兆年の時の中、溜め込んでいた殺しの欲求はもはや彼の存在自身であり、生きる意味、即ち追い求めるべき幸福になっていた。
その壮絶な幸福への欲求が、彼が何をすべきか彼に伝える。
それはもはや自然の摂理であり、誰一人として阻止することは出来ない。神でさえも、そうできなかったように。
彼は彼の欲求が伝えるまま、混沌の時空に無数に存在する世界の中から、自分が降り立つべき地に、ごく自然な動きで入っていっく。
義龍には神から与えられた万物不可侵の肉体、時空を歪めかねない天文学的な怪力、生物の域を凌駕する反射神経と適応能力、そしてそれらを自在に操る能力が備わっていた。
通常、神以外の生物には耐え得ない、いや、存在することすら出来得ない時空の狭間。
彼の体には想像もつかないような負担がかかったが、それは流石神の授けた肉体と言えよう。毛ほども影響はなく、むしろこの5兆年の間に受けた拷問の数々に比べれば、赤子の手で愛撫をされているかのような感覚。
目の前に5兆年ぶりとも言える光が広がって行き、義龍にとってそれはまるで、大天使の天国への迎えの様にも思えた。
いや、彼にとって救いなどという言葉はなんの意味も持たない。
自分一人で孤独に五兆年耐えてきた彼には、当然の報酬だった。そして彼はそれを受け入れるように歩き出す。
どの世界に行こう。どんなに美しく素晴らしい世界が待っているんだろう。
楽しみで仕方がなかった。幾万とある世界の中で、最も規律が取れ、確立され、強者と弱者の明確な差別化ができていて、そして自分以外に転生したものがず、そして転生を関知、知り得るものがいない世界。
彼は吟味に吟味を重ね、ついに見つけた。
魔法、魔物、ギルド、騎士団。ありきたりだがとても美しく、バランスの取れた世界だった。
「決めたぁ…。」
その様はまるで閻魔の審判。地獄か天国かをさまよえる魂に告げるその一言。重く、背の世界の行く末、運命を一瞬で決めた。
彼はためらいなく、ゆっくりとその世界に向けて時空の狭間を歩いて行った。