才能
シャルは考えていた、新しい自分の絵の方向性を。
「想像で絵を描く」か。
シャルは今まで創造で絵を描いた事などなかった。
絵を描くのは屋外、それが普通だった。
少し目を瞑って想像してみることにした―
・・・!!
真っ先に浮かんだのは鳥の死体だった、雨にうたれる鳥の死体。
「え?」
そんな、うそだと思いつつもう一度目を瞑った―
次に浮かんだのは人々に踏み潰された、息絶えた花たちだった。
「これらを描けというのか?」
僕はもっと美しく、明るい絵を描きたい。
だから美しい絵を描くペリエを尊敬したし、目指した。
だけどそのペリエは僕に想像で絵を描けと言う。
でもペリエがそう言うんだ。
「一回だけ・・・一枚だけ描いてみよう・・・」
そう決心し、シャルは筆をとった。
なぜだろう。
筆はスラスラと残酷な絵を描いていく。
筆が勝手に絵を描き上げていくような、そんな錯覚さえ覚えた。
すぐに絵の全体像は浮かび上がった。
「こんなもの書きたくない・・・」
シャルは筆を止めようとしたが、描きたくないと思う反面、このような残酷な絵を描く事こそが自分の才能だったのだと気づき、その才能に身を委ねようと思う自分も存在した。
筆は止まらなかった。
シャルの心の中で色々な葛藤があったが、シャルはその絵をたったの7時間で書き上げた。
普段シャルが一枚の絵を描こうとするのなら最低でも丸一日から2日はかかるというのに。
雨が降る中、バラバラになった花の上に横たわる鳥の亡骸の絵、傘を差した人が歩いているが、その亡骸には目も向けない。
そんな絵が描き上がった。
まるで自分以外の誰かが描いたと錯覚してしまうほどにシャルの描きたい'もの'とはかけ離れていた。
だからこそ客観的にその絵を見ることができた。
「この絵の'出来'は素晴らしい、今まで描いてきた絵の中で最高の出来だ・・・。 でも・・・最低だ・・・」
美しいものが好きで、描きたくて世界の色々なものを写生してきたシャルが、頭の中で描いていたのは死の描写だった。
自身も気づかなかったシャルの一面。
シャルはおぞましい程の自己嫌悪に襲われた。
「こんな絵を僕は描きたくない!!」
心の声ではない、シャルは叫んだ。
飛んでいる鳥を描きたかった、綺麗に咲いている花を描くのが好きだ。
でもそれらは人には評価されない。
でもこの最低な絵は人に評価される、僕にはわかる。
色々な絵を見てきたからわかる。
客観的に見てそうだとわかる。
「だけどこの絵は捨てよう・・・これは僕の絵じゃない」
ため息まじりにシャルは呟いた。
「とりあえず今日は寝よう、絵を捨てる気力も無くなってしまった・・・」
シャルはベッドに倒れこみ、寝た。