絶望
両親にもらった1年間、既にその内の10ヶ月が過ぎようとしていた。
彼は睡眠をとったり食事をしたり、人間の生活においての最低限の事、それらをする以外の時間はずっと絵を描き続けていた。
彼がこの10ヶ月で描いてきた絵は100枚を超えようとしていた。
「くそ、何でだよ」
彼は取り乱し大きく腕を振り筆を地面に叩きつけようとしたが、すんでのところで理性が働き動きを止めた、彼が感情をあらわにするのは珍しかった。
彼の絵は10ヶ月前と比べて変化が無かった。
厳密に言えば少しの変化があったが、彼にとってそれはいいものではなかった、彼の絵は写真により近くなっていたのだ。
「僕はカメラを越える事ができない・・・」
写真の様な絵が描ける・・・
他人に自慢するのなら良い能力だろう、だが画家としては・・・?
彼にはもう自身の絵を向上させるアイデアが何も無い、彼は絶望し涙した。
「今描いたこの絵が僕の限界だ、現時点での限界ではない、僕の出しうる能力の限界だ、だからもうこれ以上は上手くはなれない、わかるんだよっ!」
一旦は理性が働いたものの、数ヶ月前の絵と比べても上達した点が特に見当たらない自分の絵を見ているとあふれ出す感情は止められなくなった。
彼は拳を振り下ろしキャンバスを叩いた、キャンバスは勢い良く倒れ、衝撃で涙はこぼれ頬を流れた。
「10ヶ月の間ずっと絵を描いてたのに、めぼしい上達は無し?時間の無駄だったじゃないか、くそ」 彼は筆を地面に置き、うな垂れた。
「皆僕の絵を褒めてくれた、だから僕は素晴らしい画家になれると確信していた、少なくとも自分の限界がここまで低いだなんて思わなかった」
彼は暗いため息をついた。
しばらく放心状態になった末、
「・・・家に帰るか」
彼は少し落ち着いた様子でそう呟いた。
彼の絵の練習の日々は10ヶ月で終わった。
キリがいいのでここで一旦切ります