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平和で結構。  作者: 広瀬楓
第一章 絶滅追憶マシンガン
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01.5 灯七紀陽翔の記憶

◆02.3333 朝六時二分 自宅近隣のコインランドリーにて

 

 コインランドリーに入ると独特の洗剤の匂いが僕の鼻を占領した。平日の朝にも関わらず店内には結構な人がいた。まあ、それも何時ものことで。よくいる人は大体個々の近くの大学に通うために寮に入ってる学生。近所の会社に勤めているOL、会社員。様々だがどの人も眠そうな顔をしているのは同じだ。因みに言うと僕もその仲間だ。



 僕は案外此処の雰囲気が好きだったりもする。何故か?そりゃあ、ほっといてくれるからに決まっている。

 


 僕は洗濯機にワイシャツを突っ込みスタートボタンを押した。洗剤を適当にぶち込んだためワイシャツは真っ白になってくれそうだった。

 近くのベンチに腰を掛け、一息ついた。朝だからか、何時もはコインランドリーを快適にしている筈のクーラーと呼ばれる人類最大の発明は僕の腕を鳥肌で埋める事にしか役に立っていなかった。





 そういえば「彼女」と一緒に此処に来た時もこんな風にクーラーが効いてたっけ。それで、「彼女」は笑いながら「大丈夫?」って心配してくれたんだよな…。







でも、君は、もう、いない。







 僕はまだ、君の顔が忘れられない。僕はまだ、君の声が忘れられない。僕はまだ、君の香りが忘れられない。僕はまだ、――――――――――――――君が隣に来てくれるんじゃないかと錯覚している。


 






 僕は記憶を司ると言われてる海馬の奥深くに閉じ込めていたとある記憶を探り始めた。









 それは、去年の四月八日に「始まった」、「運命」「だった」。







◆四月八日


 僕は初めて、「彼女」に出会った。それは偶然で、でも、必然的だった。もしかしたら、一分一秒違っていたら君とは合わないで済んだのかもしれない。愛しい君に逢わなくて済んだのかもしれない。それでも僕たちは、出逢ってしまった。まるで、後々のことを引き起こす為かのように。

 それは、入学式の直後・クラス分けの結果を知らせる紙が張り出され、それを一年生ほぼ全員が我先にとそれを見ていた時だった。周りの髪の色がすべて黒にも関わらず「彼女」だけは茶色で艶々と輝いていて、綺麗だった。僕は偶然彼女の髪を見てしまいそして吸い込まれるかのように「彼女」の顔を見ていた。あんなにも人がいたのにどうやって「彼女」の場所に辿り着けたのか僕は今でも思い出せない。



 「彼女」の顔は、白くて綺麗で「彼女」の「目」は紅くて。僕は「彼女」に何故だか惹かれていった。



 本当にそれは偶然で、必然だった。とにかく僕と「彼女」―――――――――――七滝掎綺(ななたきひあや)との出逢いだった。…多分。





◆五月二九日


 次に七滝と会ったのは、高校生になって初めての中間テストの結果を知らせる紙の前だった。上位五〇人は名前に太線と罫線が入っていて、僕はギリギリ五〇番目だった。まだ七滝の名前を知らなかった僕は一位に「七滝掎綺」と書かれていても「ああ、凄いなあ」としか感想が持てなかった。

 そんな淡白な感想しか頭に浮かばなかった僕は、暫く紙を見ていたのだがそろそろ教室に戻ろうと思い方向を転換した。その時だった。

 ドンッ

 思いっきり人にぶつかったのだ。しかもその人は資料などの紙を山ほど抱えており、僕にぶつかった反動でその資料は全て廊下に舞い落ちた。舞い落ちたと言えば聞こえは良いが、ばら撒かれたと言った方が正確だろう。僕は慌てて床に散らばった資料に手を伸ばした。そして謝罪の言葉を口にしようとした瞬間―――――――――――――――僕は目にした。してしまった。

七滝がそこにいた。


◆六月十二日


 七滝のことが忘れられない僕は、彼女を見かけるたびに、胸が高鳴るのを感じた。

 病気かと思うくらい、顔は熱くて、触ったら、火傷してしまいそうだった。


◆六月十三日


 また、彼女を見かけた。

 目線があった。

 彼女は目をそらしたけど、耳が、真っ赤だった。




◆七月一五日


 彼女から告白されました。僕の頭の中はパラダイスだった。今なら空でも飛べる気がした。





◆二月一四日


 ――――――――――――――――――――彼女が「死」にました。

僕が七滝の病室に着いた時、彼女はベッドにいた。上半身を起こした状態で、目線という目線は特に…無かった。



 ―――――――――――何処を見ている訳でもなく、ただ、表現するのであれば、宙を見ている様なそんな七滝を十秒も見ていられることが出来なかった。



「七…滝…?」

恐る恐る呼ぶと、七滝は頭ごと僕の方に視線を向けた。

 その眼を見た刹那、僕は悟った。






――――――――――――――――――――――――――――【彼女】は【記憶】を【手放して】【いる】。







 僕のことなど一㍉も覚えていない彼女の眼は、僕を見据えて口を開いた。

 僕の大好きな、七滝の声が耳の中で濁っていった。







「         

                                   」






◆05.2 朝六時四十八分 自宅近隣のコインランドリーにて


 一通り思い出した後、彼女との日々をかなり忘れていることに自嘲した。未だに忘れられない?ふざけるな。記憶の欠落が…多すぎる。一番幸せで忘れたくなかった日々は、あっさり僕の記憶貯蔵庫から追い出され、代わりに一番思い出したくない記憶ばかりが出しゃばっている。



 しかし、僕はもう一つすっきりしない所があった。




 …あの時、彼女は何て言ったんだっけ…




 その言葉ばかりは、いくら考えても、思い出せないのだ。いくら考えても、いくら思い出そうとしても、まるで…記憶がされてしまったかのように、僕の脳内から抹消されてしまっているのだった。


 少しそのままボーっとしていると洗濯を終えたことを知らせる電信音が僕の耳に届いた。洗濯機の中からワイシャツを取り出し、そのままコインランドリーを後にした。







 ―――――――――――その時、誰かが僕の名前を呼んだような気がして思わず振り返ったのだが、誰もいなかったのでそのまま自宅へと帰って行った。








 今日の仕事は何だろう。






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