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04.あなたの弾丸


 私達の家とも言える『kIll』が襲われてから3日。

 あのアパッチは無差別な銃撃を終えると、来た道に沿って消えてしまった。

 今は街のはずれに見つけた空き家に身を潜めている。コテージを思わせるような木造の一戸建てだ。

 時刻は午後の7時を回ろうとしていて、6月の終わりといえどもちょうど日の入りの時間。

 ちゃぶ台の上には小林さんの形見であるガバメントが2丁。

 雪上迷彩と砂漠迷彩モデル。この迷彩……いったい小林さんのお父さんはどんな修羅場を切り抜けてきたんだろう。

 2丁のガバの横には規則的に立てられた金色の銃弾――.45ACP弾――が16発。

 この.45というのは口径のことで、0.45インチだ。

 コルトガバメントの装弾数は7+1の8発。つまり予備の弾倉(マガジン)は無い。

 これじゃあアパッチどころか敵1人と戦うのも危ない。

「弾をなんとかしなきゃな……」

 当てはないが、とりあえず四季に今の問題の1つを言ってみる。

「そうですね……。お嬢様にコレを使わせるわけにはいきませんし、ガバは重さ的に二丁拳銃に適していても私は得意ではないので予備の弾倉を1つ確保できますが………今度の相手を考えると全く足りませんね」

 当初は髑髏(ドクロ)のタトゥーが入ったスキンヘッドで切れ長の目をした男だけだと思っていたのに、蓋を開けてみれば『空飛ぶ戦車』ことアメリカ陸軍の主力、アパッチときた。

 ロケランの1つでもなきゃ勝負にならない。

「あと、接近戦用にも何か欲しいです」

 これまで髑髏の男は連続殺人を行い、その凶器に太刀が使われていることが分かっている。

 接近戦に持ち込まれたら、拳銃しかない私達の勝ち目はますます薄くなる。

「要するに、最低でも弾倉と剣が必要なんだな」

「そうすれば勝負にはなるはずです。……アパッチを除いて」

「それはまた考えよう。とりあえず『kIll』に行ってみよう」

「えっ!?」

 私の提案に四季は目を丸くした。

「瓦礫の下から何か使えるものが出てくるかもしれないだろ?」

「でも、警察とかいませんか?」

 た、確かに……。

「いや、それは……ほら! 夜になればもしかしたら……」

「…………」

 四季は右手の人差し指を顎に当てて悩む。

「まあ、とりあえず行くだけ行ってみましょうか」


 そんなわけで時刻は0時。

 アパッチの機関砲が暴れたおかげで辺りの街灯は粉々。お蔭でうまい具合に闇に紛れ込み、瓦礫の山は目の前だ。

「やっぱり警察がいますね」

「まあ、あんなことがあって警察が動かないほうがおかしいよな」

 ガタイのいい青い制服の男が……確認できるだけで4人はいる。

「なあ、あの警官から銃を奪えないか?」

「失敗したら一大事ですよ? それに今の日本の警官が使っている拳銃はニューナンブM60が多く、.38口径なのでガバとは使う銃弾が違うんです」

ニューナンブ(チャカ)ごと奪って使うのは?」

「それでもかまいませんが……今回はどうしてもガバで戦いたいんです」

 四季の優しい口調の中に、わずかだが信念のような強い思いが感じられた。

「そう……だな、すまない」

「いえ……」

 マズイ、変な空気になった。

「そ、それで、どうやって近づこうか……?」

「近くで事件で起こってくれればいいんですけどね」

「ははっ、そうだな」

 もちろん私達は冗談で言った。不謹慎なのは分かっている。

 だけどまさか、本当に事件が起こるとは……。

 警官達は無線で何かを話していると思ったら、パトカーに乗ってどこかへ行ってしまった。

「……これは、チャンスだな」

「はい、お嬢様」

 私達は警官が残っていないか心配だったが、予感的中。1人だけ残っていた。

 ――どうする!?

 答えは――こうだ!

「きゃっ、ヤダ! ヤメテ!」

 私の全力の甘く幼いロリ声。

 ――タッタッタッタ!

 駆け足が近づいてくる。

「何をしている!?」

 声がした路地に拳銃を構えて姿を見せた警官。

 やはりニューナンブM60だ。

「……あれ?」

 警官の目の前には、誰もいなかった。

「……っ!? ぐぅ……」

 気配を消して背後を取った四季は腕を首に回して一気に締め上げ、気絶させた。

「ナイスだ、四季!」

 青い丸型ポリバケツに隠れていた私は姿を見せ、四季の手を取って残骸の山へ駆けた。


「お嬢様、何か見つかりましたー?」

「うーん……どれも使えそうにないなー。そっちはどうだ?」

「こっちもダメですねー」

 武器の保管は3階でしていたから、ここまで崩れているとどれも壊れてしまっている。

「……! お嬢様、弾倉です!」

「ホントか!?」

 四季が見つけた黒い官ケースの中には.45ACP弾が詰まった真新しい弾倉が4つと、1枚の紙切れが入っていた。

「何だこれ? なになに? ……これがいつか、誰かの役に立つことを祈る。小林……」

「小林さんが、これを……?」

 四季は思わず官ケースを抱きしめた。

「……四季、マズイ。車の音がする」

 恐らくさっきのパトカーが帰ってきたんだろう。

「今日のところは帰るぞ」

「………」

「おい、四季?」

「この音、パトカーじゃありません」

「まさか、軍用車両か?」

「とりあえずどかに隠れましょう」

 私達はなるべく音を立てずに反対側の通りに移り、少し離れたとこに生きていた茂みに隠れた。

「あれは……ガントラックですね」

 ガントラックとは、小型もしくは中型の輸送用トラックのキャビンと荷台に装甲を施した即席の軍用車両のことだ。

 攻撃ヘリの次はガントラって……やつらはいったい何者なんだ?

「あれ、なかなかの装備ですよ」

 あぁ、分かっているさ。

 重機関銃(ヘビーマシンガン)が1つと、軽機関銃(ライトマシンガン)を持った男が3人。

 対戦車用とかじゃない。アレは私達を狙った装備だ。

 どうする? 今あんなのと戦って勝てるか?

 答えは否! 考えるまでもないって!

「このままやつらが去るのを待とう」

「そですね」

 しかしここでさらに車の音が聞こえてきた。

 今度こそ、さっきのパトカーだ。

「マズイ……な」

「マズイ……ですね」

 ガントラとパーカーが鉢合わせ……間違いなく銃撃戦が始まってしまう!

 ――バリバリバリバリ!!

 悪い予感ほどよく当たるものだ。

 ガントラックの4つの機関銃が早々と火を噴いた。

 2台のパトカーの先頭を走っていた方は集中砲火に遭い、フロント部分が爆発し後部が浮いた。

 制御を失ったままガードレールに突撃し、10mほど火花を上げて止まった。

 脱出した2人の警官はフラフラしている。恐らくどこかしら怪我をしたのだろう。

 もう一台のパトカーは90度回転して車体を壁にし、警官2人がニューナンブで応戦している。

 しかし拳銃の弾はガントラックの装甲に阻まれ、キンキン、と音を立てるだけだ。

 ――バリバリバリバリ!!

 鼓膜を激しく揺さぶる轟音が再び鳴り響く。その音に紛れて大きな爆発音が1つ。

 先に集中砲火に遭っていたパトカーが、また爆発したのだ。今度はさっきのよりも大きなもので車体がその場で60cmほど浮いた。

 爆風で2人の警官は吹き飛ばされ、倒れたところを軽機関銃で蜂の巣にされた。跡には肉片が転がっているだけだ。

 ――ファンファンファン!

 遠くでサイレンが聞こえる。きっとパトカーの増援だろう。

「敵は私達に気付いていない。パトカーが増えたところでここから逃げよう」

「いや、下手に動いたら危険です」

「じゃあ、どうするんだ?」

「……警察と協力してやつらを倒しましょう」

「何言ってんだ、私達まで捕まっちゃうだろ?」

「顔を見られなければ大丈夫です。幸いにもここにはろくに灯りがありません」

 そう言って四季はスカートの中――レッグホルスター――から雪上迷彩のガバを取り出した。

「お嬢様はここにいて下さい。あなたは私が、守ります!」

 そう言って四季は走り出してしまった。

 暗闇の奥に赤色警光灯が1、2、3……たくさん見える。


 私は走りながら銃撃戦に適した位置を探している。あまり警察に近いと顔が割れるし、離れたら狙い撃ちにされる。

 まだ敵は私には気づいていないようだが、時間の問題だろう。

「よし……」

 うまい具合に通りに斜めに建てられた家を見つけた。

 建物は左の警察側だからこれで気にせず撃ち合える。

 拳銃の平均交戦距離はだいたい7m。ここからガントラックまでの距離も7m。ギリギリだな。

「小林さん、お嬢様……四季美里亜、いきます!」

 右手で銃を持ち、左手は照準を安定させるために右手を包むように下から銃把(グリップ)を支える。そして身体はなるべく晒さずに、ガバと顔だけを出して狙いを定める。

 そういえばこれ、サプレッサー――銃身の先端に取り付ける、発射音と閃光を軽減するための筒状の装置――ついてないから1発撃ったら私の居場所、バレちゃうんだよね……。

 ――ズダンッ!

 雪化粧されたガバメントから撃ち出された.45ACP弾はガントラックの上で重機関銃を操る男の額を捉えた。

 パトカーの赤色警光灯しか灯りがない中、敵は装甲されたトラックに乗り、機関銃で姿はあまり見えない。

 それでも、私は撃ち殺した。

 自分が生き残る為に、1人の人間を撃ち殺したのだ。

 引き金を引いた後はすぐに身体を引っ込めて陰に隠れた。

 敵はわずかだが動きが鈍り、確かな混乱を見せている。それもそのはずだ。圧倒的有利な状況だったのに仲間が1人、撃たれたのだから。それも撃った相手は警察じゃない別のところにいて、姿を確認できていない。

「さあ、残りは軽機関銃の3人ね」

 私は再び銃と顔だけを出して狙いを定める。次で完璧にこの場所はバレるわね。それでも、撃つ!

「――私はお嬢様の弾丸。弾丸はただ、敵を貫くだけ――」

 ――ズダンッ! ギンッ!

 放たれた弾は無人の重機関銃に当たり、L字の弾道を描いてまた1人、人間を絶命させた。

 跳ねた弾で敵を撃つ技術、名前は忘れたから――『跳弾狙撃(リープスナイプ)』って呼ぼう。

「あそこだ!」

 ――バリバリバリバリ!

 轟音とほぼ同時に隠れていた家の壁が粉々にされていく。

 だが、敵の攻撃要因は既に半分。

 警察もさっきより威力が下がったことに気付いたのか、一気に追い詰めようとしている。

「これ以上は無理かな……!」

 私はそこから離れ、お嬢様がいる茂みに向かった。

 ――バババババ!

 その途中、違う音がするのに気づいた。

 これは3日前……いや、日付が回ったからもう4日前になるのか。突如現れたアパッチの回転翼の音だ。

「くそっ! 逃げ切れない!」

 アパッチは背の高いビルからその姿を現し、パトカーの群れに向かってAGM-114ヘルファイア空対地ミサイルを放った。

「ミ、ミサイル!?」

 私は目を疑った。いや、装備していたのに気づいていたはいた。だが、まさか本当に撃ってしまうなんて……。

 ミサイルの着弾と同時に地面を衝撃が走った。今の揺れ、震度4は堅いな。

 アパッチはあろうことか、生き残ったパトカーに向かってもう1発ミサイルを落とした。

 間髪入れずに地震は続き、私はその場で膝をついた。

「お嬢様……!」

 心配だ。戦いに巻き込まれてはいないだろうか。

 ――バリバリバリバリ!!

 アパッチの機関砲とガントラックの軽機関銃、2つの連射機の砲火で警官は皆殺し。警察は全滅した。

「はぁ、はぁ……お嬢様?」

 茂みを視界に入れられる距離まできたが、そこにお嬢様の姿はなかった。

 今は上手く逃げてくれたことを祈るしかない!

 私はその場で小さくなり、アパッチとガントラックが遠く過ぎ去るのをじっと待った。




2日連続投稿です☆


今回は途中から四季の視点でバトルシーンが進み、彼女が活躍する展開に!

しかし、またも現れたアパッチによってガントラックを仕留めきれず……。

さらに、姿を消してしまったれいは一体どこへ……?


第5話をこうご期待!


from.ルキ



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