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猫と横浜  作者: のらしろ
第一部 猫に引っかかれて明冶にまいる …

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第3話 牛にひかれて善光寺参りじゃなくて


 ホテルで早速買った漫画を読んでいく。

 これは大病院に勤める外科医がタイムスリップして江戸時代末期に行って活躍する奴で、TVドラマにもなった奴だ。

 ドラマは見たことが無かったのだが、読み進めていくとこれが結構面白い。


 数冊読んで、一休みとばかりに近くの居酒屋に夕飯を食べに出る。

 入った居酒屋の大将と世間話をしていると、布引観音の話を聞いた。

 布引の観音様が牛にひかれて善光寺にお参りしたという昔話だ。


 俺の行動が、その話と逆にはなったが、『良いことをしましたね』と言ってもらえた。

 きっとご利益もあるのだろうって、もう十分にご利益があったような気がする。


 俺は先輩の仕事で来たついでにここまで足を延ばしたのだが、ちょうど逆コースが話に出た『善光寺参り』になるらしい。

 今までの探偵業はほとんどが猫探しで、一件あたりの仕事の単価が良くて数万円の案件しかしていなかったのだが、今回の案件だけで10万円以上のお金を稼いだ。


 長野支社の人からレプリカ万年筆と一緒にもらった封筒の中身を見てはいないがそれでも十分な金額を稼ぐことができた。

 そういう意味でも地元の神様にお礼ができたとでも思っておこう。


 宿に戻ってから、先にバザーで仕入れた漫画の続きを読んでその日を終えた。

 翌日は、朝から移動して東京駅の近くにある先輩の会社に報告に向かう。

 ついでに途中で秋葉原に寄って、鉄道関連のグッズの裁き先を探してみた。


 すると、街中でやたら毛並みの良い猫を見つけた。

 またたび体質って実際にあるようなのだが、俺もその体質のようで、たらと猫が寄ってくる。


 まあ、その体質のおかげで今でも俺が探偵業を続けられているのだが、その経験豊富な俺が近づいてきた猫がただの野良猫でないと感じ、近づいてきた猫をその場で保護した。


 猫を保護してしまった以上、街歩きにも限界があるので、俺はそのまま猫を連れて先輩の会社に歩いて向かった。

 仕事の報告の件もあるが保護した猫についても仕事にしたくて、考えながら歩いていた。


 そもそも、保護した猫だが、まずは種類や相場などを知らないと仕事にならない。

 一度、獣医をしているOBに電話を掛けて、そのあたりを聞くと、ICチップのことを教えられる。


 前にも先輩から教えられていたことだが、忘れていたこともあり正直今回は助かった。

 そう、こういうきちんと飼われている猫にはICチップが体の中に埋め込まれているはずだ。


 俺は先輩の助言に従い、携帯でペットショップを探すが簡単に見つかりそうにない。


 行き当たりで店にでも入ろうとしたら、足元を見られそうで信用ができない。

 なので、商社に勤める先輩に電話で相談すると、すぐに会社に近いデパート内にあるペットショップを紹介してもらった。


 しかし、保護した猫を裸の状態でデパートに入るのもできそうにないとかで、結局俺は一度先輩と落ち合ってからペットショップに向かった。

 先輩は社内のペット用品を扱っている部署から藤でできたケージを持ってきてくれたので、保護猫をケージに入れて件のペットショップに向かった。


 ペットショップで飼い主がすぐに判明したが、そこからが大変だった。

 とにかく、そのあとすぐに先輩は会社に連絡を入れたかと思ったら、先輩の上司が同僚を連れて慌ててビルから出てきて大騒ぎ。


『……鍋島……』


 どうも、鍋島さんという方が飼っている猫で、先方でも猫が家出をしており、困っているとのことだった。


 この鍋島様というのが横浜に住む旧家で、先輩の商売上とても大切な方の御親戚だとかで、すぐに先方に連絡が入れられて俺に追加で仕事が回されてきた。

 先にペットショップに向かうときに慌てて用意した籐でできたケージに件の猫が入れられたまま、俺にそのまま横浜の鍋島様のところに運んでほしいとのことだった。


 別にかまわないので、俺はその場でその仕事を受け、仕事の報酬として封筒に入れられた10万円を受け取った。


 尤も、その際に受け取りの書類にサインを要求されたので、俺は先日手に入れたばかりのアンティーク万年筆を使って自分の名前を書いてみた。


 書き味も良く、とても気に入った。


 仕事を受けた際に、先輩からは『くれぐれも先方に失礼の無いように』とくぎを刺さされ、先輩の上司の方からは、猫に負担のかからないように東京駅からはグリーン車を使って横浜に向かってほしいと注文が付いた。


 ここ東京駅からタクシーも考えたようなのだが、渋滞などで猫の調子が悪くなることを恐れているようだ。

 それでも、横浜からはタクシーで赤レンガ倉庫前に向かい、そこに車でいらっしゃるご婦人にケージを渡すことになっている。


 俺も初めてのことなのだが、赤レンガ倉庫前で待ち合わせ、「高級車で来るご婦人なので間違うことが無いだろう」と言われたので、俺はそのまま指示に従った。


 それでも先輩は東京駅の東海道線のホームまで付いてきて、俺にグリーン券をわざわざ買って寄こして、俺がグリーン車に乗り込むのを確認してきた。


 どこまで信用が無いのかと、文句の一つも出そうだったが、さすがに10万円の仕事が勝手に回って来たのだ。

 気分もよかったこともあり、俺は空いているグリーン車の一階席に座り手を振り先輩に挨拶を交わす。


 品川駅を過ぎたあたりだろうか、猫の様子が気になりケージの隙間から手を入れて猫の様子を探った。

 というよりも暇だったので、猫と遊ぼうとしていたのだ。


 さすがに車内で猫をケージから出すわけにもいかないので、逃げられる恐れもあることだし、指先を入れて猫に触ろうとしていたのだが、猫の機嫌が悪かったのか、ケージに入れた指先をその猫が引っ搔いてきた。


『痛た!』


 思わず手を引くが、ケージから手を抜き去る前に意識が飛んでいた。

 そうだ、そこから記憶が無い。

 それで、現在につながったのだが……


 というか、猫だ。

 今更だけど猫は無事なのか。

 俺は思わずケージを覗いて見たが暗くてよく見えない。

 しかし、持ち上げたケージがやたらと重く感じる。


 俺に渡された時にここまで重かったはずは無かったのだと思い、少しだけケージを開いて中の様子を探ると、そこには猫はいなかった。


 猫用でないこのケージは中型犬でも小さ目の犬ならば入れることができるくらいの大きさで、保護した猫一匹ならば広すぎる。

 が、その中に猫はいなかった。


 いくつか考えられるのだが、俺がこのわけわからん状態になる時に、猫の方で付き合っていられないとばかりに付いて来なかったというのが一番しっくりときた。

 そうなると中には何があるのかって、もう少しケージを開いて中の様子を探ると、お金の他に立派な紙がぎっしりと詰まっている。


 いよいよ訳分からない……が、ここでお店を開くにはあまりに不用心でもある。

 いくら一圓札だと言えどもお金には変わりがないし、そもそも俺のいるこの世界?時代?ではその一圓の価値もはるかに高そうだ。


 ならばそんなのを無造作に広げるわけにもいかないので、俺は一度ラウンジを出てからフロントに向かい、このホテルに部屋を取る。


「すみませんが、予約は無いが部屋を借りたいのだが」


「はい、今ですと1泊一円の部屋ならご用意できますが」


「十日ばかり連泊したいのだが、問題ないか」


「ええ、問題はございません。

 すぐにお部屋にご案内いたします」


「ああ頼む」


 そう言って、その場でフロントから要求された金額をあの百均で買った巾着から取り出して支払う。


 ボーイさんが荷物を持ってくれるというのだが、大切なものがあるのでと断りケージだけは俺が手に持ってボーイさんに付いていった。







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