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その8 魔導士

今日も変わらず、探偵社に行く準備をする。

顔を洗うため、洗面所へ向かった。

最近なんだか水がおかしい。というか妙にざらついて、ネットリと落ちる気がする。

ポットで入れたお茶ですら、飲み心地が違う。水質でも変わったんだろうか。


――息がひっかかった。

水が、明らかにおかしい。


考える間もなく車を出した。寝癖もパジャマも気にせずに、手のひらの『それ』を保ちながら。


――探偵事務所内。

「凛! こ、これ見て!!」

急いで凛を呼び出し、『それ』を見せるように手のひらを突き出した。

空中には、水が留まっていた。落ちない。

両手が青く光っているのが、自分でもわかった。


「な、なんか、魔法出た!」

「しまえ。はしたない」

そう言って凛に軽く殴られる。

水泡の制御が切れ、床を濡らした。

……魔法って、はしたないものなんだ。


俺は水道で再確認した。やっぱり、水泡を作って、空中で浮かせられている。

水泡を頭に持ってきて、寝癖を直す。

そうして水泡を上げると、髪の毛は程よくしっとりしていた。

タオルいらず。


「魔法使えるなら先に言えよ」

凛は不満げな顔をしていた。

「いや、今朝起きたらなんか使える様になってたんだって」

「そんなアホなことがあるかよ」

「大人が使えても、それはガキのことから使い続けた人間だけなんだよ」

そんなこと言われても、俺だって知らない。


俺は重りを吐き出すように言った。

「……グール倒したのも俺になる、のか? 水魔法で浄化、とか」

凛は顎に手を当てて、しばらくそのままにした。

「まあ、水の概念として『浄化』があるから不可能ではない」

「ただ――再現は無理と思うぞ?」

「お前がグールを心根から『救いたい』と思えるなら別だが」


――不可能だ。

心のどこかで、“仕方がない”と割り切った時点で、ダメなんだろう。

そんな魔法の不便さに、なぜだか現実味が湧いてきた。


深く息を漏らす凛。

「まあ、なんにしてもほどほどにしとけ。魔力切れるぞ」

そう言われ、素直に水泡の制御を切った。

「魔力って、寝れば回復するの?」

凛は失笑した。

「なわけがあるか。映画でも見て泣いてろ」

俺は眉をひそめ、疑問を顔にした。

「魔法打つ時には、感情をガソリンにしてんだよ」


「あと」

凛は言った。

「着替えてこい。いつまでパジャマでいる気だ」


――時刻はお昼頃。

俺たちは書類整理をしていた。


咲希はつばを飲み、喉を鳴らした。

「……桃は元気してました?」

「まあ、元気そうには見えたよ」

その言葉に、咲希は首をかしげた。

「魔法。まだ使えないんだとさ」

椅子の軋む音が聞こえた。


凛は空を仰いだ。

「というか、あいつ普段何やってんだ?」

「ペットショップの店員」

俺の言葉に怒号にも似た驚きが返ってきた。

「はぁ?! ペットショップの魔導士だぁ?」

「あ、あの人、そんなすごい人だったんだ」


俺はバカのふりをして聞いてみた。

「ペット店員がそんなにすごいの?」

咲希は唖然として答えた。

「ペットは癇癪で魔法を出すでしょ? だから、それを止められるA種の魔導士が欲しいんですよ」

「警察とかもな。とにかく引く手あまただ」


そんな人間が、魔法を使えなくなった。

冗談じゃない重さが、やっと腑に落ちた。


空気を変えたくて、俺はテレビを付けた。


テレビではニュースをやっていた。

『不知火仁一郎の犯行に医院長は「知らなかった」と話しており……』


俺たちは不知火夫人に、「旦那が極秘の研究をしている」とだけ伝え、

その流れで、不知火医師の日誌や現場の写真をインターネットにばらまいた。


「結果は医者が捕まって万々歳……か」

「ずいぶん痛い目見させられたんだ。精々、ムショで冷たい飯食ってろ」

凛はしめしめと笑っていた。


息を吐き切り、胸の奥が冷えていく。

それでも――卯月さんに会う覚悟を決めた。

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