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その13 舞台

終末の喜劇――コラプス。

黄色の雨合羽は、彼の信奉者の証だ。


だから雨合羽の拠点を見つけなければ、コラプスが顕現し、世界が壊れる。

――“どこで”“どうやって”顕現するのか、だ。


まずはSNSで目撃情報を探った。

『雨合羽』『黄色』『晴れ』など。

結果として――宮崎の高千穂周辺に多かった。


……東京とかじゃないんだ。

天照大神を祀っているからか、あるいはアウトライアーの手にかかった自分がいるからか。

いずれにせよ、意図を感じる。


――高千穂。

驚くべきは、高千穂が都市部並に栄えていることだ。

駅前にはチェーン店の看板が並び、ところどころに土産袋を持った観光客が見えた。

俺の知っているそれは、田舎町だった。


ひとまず『喜劇』が起きそうな舞台に当たりをつける。

劇場に向けてひた走った。


――高千穂演舞場。

若者が周囲におらず、おっかなびっくりで入ったが、中は案外見慣れた感じだった。

映画館の椅子を思い出す作り。お線香のような香りがした。

今日は『うずめの舞』という演目をやるらしい。


『喜劇』の名の通り、コラプスは劇を使いこの世に顕現する。

だから高千穂にある、演舞場と映画館、それからオーケストラホールに目をつけた。


だが辺りを見渡しても、雨合羽を着ている人なんていない。

徒労のニ文字が頭をよぎる。違和感すら見当たらなかった。

――なにもないことが一番怖い。


空気を、あるいは気分を変えるため、映画館へと向かった。


――シネマサンシャイン高千穂。

映画館のカーペットの匂いに心が踊る。人々の感情はまちまちだ。高揚、退屈、無感情などなど。

高校生の集団が楽しげに感想を語っていた。これに苛立ちを覚える辺りに自分の人間性を感じる。


ふと、あることに気づいた。


――食べ物売り場がない。

なぜだろう。経営側が割を食うだけな気がするが。

ポップコーンの香ばしい香りがしない映画館というのも新鮮だ。

“飲食禁止”の表示はない。なのにゴミ箱はほとんど空で、同調圧力めいた作られた場を感じた。

ロビーの足音まで拍を取るように、やけにリズムの整った音楽が流れ続けていた。


――上映室。

やけに座りの悪いもたれかかった椅子。その割に、なぜだか座り心地がよい。

手すりには水のON/OFFボタンがあった。映像の音の大きさに辟易する。

没入感を増すため、4DXにした事を後悔し始めていた。

それでも座っているのは、異様に楽だった。


……視聴後。


「お、面白かったぁ」

思わず口から出た。

以前見たものより、映像と動きのズレが無くなっていた。すっかり映像に没入させられた。

特に匂いがよかった。集中したせいか、嗅覚が敏感になっている。


疲れたし、そろそろ帰ろうかな。


そんなことを思っていると、誰からか声がかかった。

「佐藤祥也さん。ですね?」


振り向くとそこにはスーツ姿の男が立っていた。

少し甘い柑橘系の香りがした。


そこまでで、とどめておけばよかったんだ。

鼻が、違和感を感じ取ってしまった。


草の根をかき分けた嫌な匂いがした。

濡れた土に、葉の青臭さ。あるいは硬い殻……

そう、虫だ。


その瞬間。


彼の姿はカマキリに変わった。

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