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前日譚 その3

ペットショップに向かう道中。突然、肩を捕まれた。


「ちょっと、そこのお兄さん」

振り向くと、ラフな格好をした男が立っていた。

石鹸みたいな香りがした。息が首筋にかかりそうだ。


男はしばらく俺の顔を覗き込んだ。

「あ、あの、なんでしょうか」

「うーん。透明のわりに、普通やね」

男は口をへの字にして落胆を見せた。

魔法の話、だろうか。なんだか貶められた気分だ。


「……いや、ちゃうか。透明なのに“普通”なんが、君の異常性やろうね」

「まあええわ。魔法、そのうち使えるようになるで」

「それと、『白の探偵さん』には気をつけやぁー」


言葉が一つずつ、自分の胸に突っかかる。

意味はわからないのに、警戒だけさせられる。

――とことん、不愉快な男だ。


男が背中を向けたので、思わず反射で引き止めた。

「待っ――」

「なんや? これ以上はお金取るで?」

「ほな」と言いながら手を振り、男はどこかに去っていった。


手渡された名刺には『神成 稲荷』と書かれてた。

肩書は空欄。連絡先だけがやけに整っていた。


卯月さんは肩をすくめて言った。

「……嵐のような人でしたね」

俺は深くため息をついた。


背中に刺さった値踏みするような視線がまだ消えない。


「おい、そこのお前」

振り向くと、そこには黒い女性が立っていた。

黒のモノトーンコーデ。地味なのに、やたら目を引く。


「お前だったよな? 不法滞在未遂」

息が喉で引っかかった。

――警察の件が出回ってるのか?


「失礼。名刺です」

彼女は表情だけにこやかにして、名刺を差し出す。

――

稲葉探偵事務所

 事務所顧問探偵 葉月 凛

――


「わ、わぁ。すごい。本物の探偵さんだ」

卯月さんは目を輝かせていた。

葉月さんは淡々と言った。

「まあ、そんなに憧れる職業じゃありませんよ。実情はペット探しとかです」

彼女は一瞬視線を外した。

「……ただ、それでも少し人手が必要でして」

「どうでしょう、お暇な時で結構です。お手伝いいただけないですか?」

「もちろん、日給は出します」


「え?! 探偵さんになれるんですか! やりたい!」

卯月さんがそういうと、一瞬だけ葉月さんは苦い顔をした。

「どうでしょう? ――彼女さんも乗り気のようですし」

卯月さんはしかめっ面で首を振った。

「彼女、じゃないです」と小さく。


葉月さんの鋭い視線が、俺に刺さった。

断る理由がない。金もない。

それに、警察にあることないこと言われても困る。


「あ! 私、明日なら空いてるよ?」

「……じゃあ、葉月さん。明日でどうでしょう?」

葉月さんは頷いた。

「ええ、こちらは問題ありません」

「日時は明日、12時までに名刺の住所にある事務所に来てください」


「では、よろしくお願いします」そう言って、葉月さんはどこかに去っていった。


「や、やったぁ! 一日探偵体験だ!」

卯月さんがはしゃいでいたので、俺は釘を指した。

「あ、あの。今日の目的、忘れてないですよね?」

「なんでしたっけ?」

……この女。


こうして、

俺たちはペットショップへと向かい、火柱を見ることとなる。


今でも思う。どこかで、別れておけばよかったんだ。

そうすれば、『君』を殺そうだなんて思わなかった。

――卯月桃を。

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