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その11 お寿司

日が経ち、桃はさらにやつれていった。


凛は俺の背中を叩き、部屋に入った。

そのまま膝を抱えて座る桃に近づいた。


凛は少し体を強張らせた。

「よう、ご機嫌そうだな、プリンセス」

桃は顔だけゆっくりと凛の方に向けた。

「凛、さん。……ごめん、ね?」

「はっ、何がゴメンだ。さして悪いとすら思ってないだろ」


誰もすぐに声が出せなかった。

「いい加減、意地張るのをやめろ。不愉快だ」

唾が喉に引っかかった。

「ごめ……」

そこまで言った桃の口を手で押さえた凛。


舌打ちをした後、まっすぐ桃を見て言った。

「あの時は――わ、私が、悪かった」

「……頭に血が上って、お前の気持ちにまで、き、気が回らなかった」

「お前が今、そんな思いをしているのは――私の責任だ」

「本当に、すまなかった」

凛はたどたどしく、深々と頭を下げた。


「いや、あれは私が……」

俺は子供を諭すように言った。

「桃。謝らずに、答えてあげて。」


「ごめ……ッ」

歯ぎしりの音が聞こえた。

「だいじょ――」

そこまで聞いた凛がすごい剣幕で、一歩前に出た。

俺が凛の肩を押さえると、払い除けられた。


「逃げんな。――頼む、から」

凛は噛みしめるように言った。


桃は初めて凛と目を合わせた。

そのまま立ち上がり、凛の頬を強く叩いた。


「あなたのせいで……」

「あなたが!! あんな事を言ったから!!!」

「私の……魔法、が……っ!」

桃は大粒の涙をこぼした。

彼女は下手くそに泣き続けた。


……


咲希は言った。

「さて桃。何か食べたいものはないですか? 凛が奢ってくれるらしいです」

凛は目を細めて咲希を睨むも、何も言えない。

「……お寿司。」

桃は唇だけ動かした。

「ですって所長。さあ回らない寿司のために、車を走らせてください」

「わかったよ。行きゃいいんだろ?! 行くぞ咲希、駅前のあそこなら持ち帰れる」

二人は玄関から買い出しに行った。


……桃と二人きり。

胃がキリキリと痛む。先程の平手の音がまだ耳に残っている。


桃がつぶやいた。

「ねぇ。なんで、あの時」

「祥也くんは怒ってくれたの?」


俺は桃から視線を逸らした。

「ただ連れて来といて、当たってくる凛にムカついただけだよ」

「それも、そう、かもね」

桃はため息をついた。


ガチャリ、と玄関の鍵が開く音に驚き、俺の肩が少し跳ねた。


咲希は胸を張って言った。

「さて! 高級寿司のお時間です!!」

「見てください、これ! こんな立派な桶初めてみました!」

そこには豪華絢爛な寿司桶が置かれた。

大トロの油がきらりと光り、イクラやウニが艶めいていた。

もはや下品だ。


鼻で笑いながら言った。

「お前らは程度ってものも知らんのか」

凛は鼻を鳴らした。

「謝意の心だろうがよ」

「差し入れだって豪勢すぎると引くだろ」

俺はそう返した。


俺は紙皿と箸を分けた。

「おい。祥也。なぜ、イクラとウニを取り分けた?」

「いや、四つしかなかったし」

「違う。二つは私のだ。後の二つを分け合え」

凛はまっすぐな目で言ってきた。

「謝意の心はどこ行ったよ」

「ほ、本当にクズですね、あなた……」


桃の口元が、少しだけほどけた気がした。

――それだけだった。

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