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その10 群青劇 卯月桃

私は白だ。白でしかない。

私は嘘をつき続ける。


人が喜ぶところを見るのが好きだった。

どんなことをすれば喜ばせられるのかもなんとなくわかった。

小さいころ、お母さんによく褒められた。

「いい子だね」、「手のかからない子で助かるよ」って。

じゃあ、迷惑をかけたら悲しませちゃうんだ。

そう思って、笑った。笑い続けた。

止め方なんて知らない。


中学生になっても、私は魔法が使えるままだった。

その時、救った子の笑顔は今でも覚えている。

「ありがとう!」

たったその一言が何よりも嬉しくて、私の生きる道はこれだと思っていた。

今は聞くだけで吐き気がする。


高校生のころ、ある男の子に告白された。

それを断ると、友だちにぶたれた。じんじんとしばらく傷んでたのを覚えてる。

友だちはその男の子のことを好きだったらしい。

そうして、廊下でも教室でも「私に奪われた!」と泣いて言いふらしてた。

周囲の目がガラリと変わったのが、異様に気持ち悪かった。


私は白だ。白でしかない。

私は嘘をつき続ける。

それでしか生きられない。そうとしか生きちゃいけない。

他人に迷惑をかけちゃいけない。みんなを助けなくちゃいけない。


「卯月さんって白々しいよね」と誰かに言われ、笑顔でごまかした。

教室の会話は変わらず流れ続けた。

怒り方なんて、教えてもらわなかった。

ほほえみながら言われたそれが、今でも頭で反響する。


一人で泣いていると、いつも猫のみかんが励ましにきてくれた。

ふわふわで、可愛くて、ペロペロ舐めてくれた。

この子にだけはいろんなことを話してたと思う。

だからみかんが死んだ時、しばらく大学に行けなかった。声が枯れるまで泣きはらしてたから。

きっと言ったって理解はされないから、私は病気だった、と嘘をついた。

そうすると私は『かわいそうな子』になっていた。

吐き気を笑顔でごまかした。


猫が好きという動機が楽だったから、ペットショップの店員になった。

いつもみたいに、同僚は魔法を褒めてくる。

その言葉で出るため息をいつも噛み殺してた。

それでも私は笑顔を作り続けた。


グールと呼ばれていた人を切った時のことが、頭から離れない。

包丁で思いっきり力をこめて、豚肉を切った時のような感覚。

ケーキが地面に落ちたような音。

……ケーキもお肉も好きだったのにな。


そうして魔法が使えなくなった。

みんなが心配してきた。「不安だよね」、「心配しないで」と。

「大丈夫」そういうとみんなどこかへ去っていった。

心配の言葉のはずなのに、頭痛がした。

いつものように私が悪いんだ。


私は大丈夫だ。


その言葉を自室で吐き続けた。

祥也くんが何かを叫んでいたのを覚えている。

困っているみたいだ。立ち上がって、笑顔を作ろうとした。


気づくと知らないベッドの上にいた。

咲希ちゃんが心配そうに手を取っていた。

凛さんが悔しそうに自分の手を握りしめていた。

祥也くんが優しい顔をして、口が動いていた。


誰かが壊れたみたいだ。

ああ、私、か。

大丈夫。だってそれも、いつもの嘘だった。


――私はなんのために生きてたのかな。

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