【第2話】外の世界
「出れた…外に……」
レオは呟いた。プルプルと足を震わせながらも、その目には確かな光が宿っていた。
そんなレオを見て、ギルは少し嬉しそうに微笑んだ。
「どうだ、レオ。外はいいだろ……村を見て回るか?」
「見たい。見てみたい!」
今までのレオからは考えられないほどの声量、そして笑顔だった。
たった一歩、家の外へ出ただけ。
それだけなのに、胸の奥に広がる世界は、今までとはまるで違って見えた。
これまでの恐怖や迷いが、少しずつ吹き飛んでいくのを感じた。
「そうだな……俺は昔、この村に滞在していたことがある。だから、村の案内をするよ」
ギルはそう言って、軽く手を振りながら歩き出した。
レオは少し遅れて、その背中を追いかける。
村の道を歩くと、聞いたことのない鳥の声、焼きたてのパンの香り、行き交う人々の笑い声がレオの胸を満たしていった。
人の営み、自然の音、そして知らない誰かとの会話。
それらすべてが、レオにとって――
これまで閉ざされていた価値観をひっくり返すような、まぶしい世界の始まりだった。
「レオ、次は――村の外に出て、世界を見たくなるかもな」
ギルは少しだけ空を見上げて、柔らかく笑った。
その声には、遠い旅の記憶と、どこか懐かしさが混じっている。
レオは小さく頷いた。
胸の奥で、何かがかすかに動いた気がした。
まだ怖い。けれど――外の世界を見てみたい。
そんな想いが、静かに芽を出し始めていた。
その後、少し村を回っていると、道の脇で泣いている小さな少女の姿があった。
しゃがみ込んで、声を押し殺すように泣いている。
ギルが真っ先に駆け寄った。
「お嬢さん……どうしたんだ?」
少女は涙を拭いながら、途切れ途切れに言葉を絞り出した。
「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが、森に……」
ギルは膝をつき、落ち着いた声で続けた。
「森に? 何があったんだ?」
「お母さんが病気で……薬草を取りに行ったの。でも、森の奥に入っちゃって……魔物が……」
少女の声は震えていた。
「お兄ちゃんは……私に逃げろって言って……そのまま……」
ギルの表情が一瞬で引き締まる。
「……そういうことか」
立ち上がり、腰の剣に手をかけながら言った。
「レオ、森の奥は危険だ。だが放ってはおけねぇ。俺は助けに行く。」
その言葉を聞いて、レオの胸がぎゅっと締めつけられる。
外の世界は、こんなにも“危険”と“誰かの想い”が入り混じっている――
怖い。でも、放っておけない。
レオはギルの背中を見つめたまま、動けなかった。
怖い。森に行くなんて、考えただけで足がすくむ。
でも――胸の奥がずっとざわついていた。
(助けなきゃ……誰かが困ってるのに、見てるだけなんて……)
その瞬間、前の世界の記憶がふと蘇る。
――あの日。
中学に入る前、通学路の途中で捨てられた子猫を見つけた。
小さく震えるその命を抱き上げ、家に連れ帰った。
「飼えないわよ、元の場所に返してきなさい」
そんな母の言葉に逆らえず、そのまま子猫を戻した。
翌日、同じ道を通ると――
そこにいたはずの子猫は、もう動かなかった。
車に轢かれ、小さな体が冷たくなっていた。
(あのとき……守れなかった)
(あのときも、怖かったから、何もできなかった……)
気づけば、唇が震えながらも言葉が漏れていた。
「……僕も、行きます」
ギルが驚いたように振り向く。
「本気か? 森の中は危険だぞ」
「……怖いです。でも……」
レオは拳を握りしめた。
「もう、見てるだけは嫌なんです」
ギルは少しの間レオを見つめて、やがて口元を緩めた。
「……いい目だ。じゃあ、行くか」
そう言ってギルは軽くうなずき、森の方へと歩き出した。
レオは深呼吸を一つして、その背中を追いかける。
――この日、レオは初めて“誰かを救いたい”と思った。
その想いが、後に彼の運命を大きく変えていくことになるとは、
この時のレオはまだ知らなかった。
初めての執筆なので誤字、脱字は大目に見てください。
感想を書いていただけると非常にうれしいです。




