50話
「……」
彼女を呼んだ理由を上手く説明出来る言葉を思いつかず……俺は口を噤んでしまった。
彼女は何かを言いあぐねている俺を見て、敢えて言葉を促す様な事はせず沈黙を選んでいる。
昔からそうだった。俺は仕事以外では本当に口下手で……今思えばよくもこんな朴念仁と結婚してくれたものだ。
とはいえ、忙しい彼女の時間をこれ以上奪うわけにもいかない。俺は意を決して呼び出した理由を伝えようと口を開きかけ……
「そういえば……君がベッドで仏頂面をしている姿は、あの時……我々が新人研修を受けていたあの頃以来だな?」
「そうだな……」
研修中に遭遇した通り魔事件、彼女を庇い負傷した時の事を思い出す。
思えばキャリア官僚である彼女と接点が増えたのはあれがきっかけだった。
結婚したあと……彼女は『こんな不器用な男は自分が面倒を見ないとすぐに死んでしまうと思った』と笑って語ったものだ。
「……君に受け取ってもらいたい物がある」
俺は意を決してサイドテーブルの引き出しから羊皮紙の巻紙を取り出し……彼女を呼び出した理由を伝えた。
「こいつをある……人物に届けて欲しい。申し訳ないが……必ず君自身の手で……な」




