42話
確かに……
人が生き返るというのはそんなに簡単な事じゃない。
彼女の存在が世界にどう認知されるかという問題以前に『栞の死の原因や経緯』がそのままである限り、彼女が蘇ったところで『生き続ける』意思を持ってくれるかどうか……
よしんばそれを持ってくれたとしても……
既にこの社会に死んだ事を認知された栞には、当然ながら戸籍など無く、生活の為に元の職に戻る事は論外……
「………クソッ」
自分の浅はかさにズブズブと沈む俺の心へ……カウンターへ新たなグラスをセットしたマスターがさらなる追い打ちをかける。
「そして……貴方にこの男との契約を勧めない理由はまだあります」
巧みにアイストングを操りグラスに氷を敷き詰めながらマスターは語った。
「貴方は……“徳”を捧げるという事の意味が本当にお分かりですかな?」
「……?」
グラスへ注いだミネラルウォーターを俺の前に出したマスターは、俺の疑問を見透かした様に言葉を続けた。
「貴方は、業というものを甘く見過ぎですな。とはいえ……それを語る事は私の仕事ではありません。だから、貴方が“徳”を捧げた時のデメリットだけを端的に説明しましょう」
「デメリット??」
意味が分からん?!
俺の命が対価……じゃぁないのか?
「この男に“徳”を捧げた後……貴方は輪廻転生を繰り返す命の流れの中で、二度と人として生まれる事は無くなるでしょう」




